「食べ過ぎてもいないのに胃が重だるい」、「みぞおちがぎゅっと押されたように痛む」など、胃が苦しいことがあります。「ストレスが原因では?」とよく指摘されますが、本当なのでしょうか。
消化器内視鏡専門医、臨床内科専門医で吉田クリニック(大阪府八尾市)の吉田裕彦院長は、「胃は、『検査をしても異常なしと言われたのに、ずっと不調が続いている』といった症状を訴える人はとても多いんです」と話します。いったいなぜこんなにうっとうしい症状が出るのか、自分でケアする方法はあるのかなど、詳しいお話を聞いてみました。
かつては「神経性胃炎」と呼んでいた症状
吉田医師はまず、胃の不快感が続く症状の病名についてこう説明をします。
「胃のもたれや痛みが慢性的に続くけれど、内視鏡検査などを受けても胃潰瘍(かいよう)や胃がんなどの異常が見られないとき、『機能性ディスペプシア(FD: Functional Dyspepsia)』という病気の場合があります。ディスペプシアとは消化不良の意味ですが、病名としては胃の不調全般を言い、『機能性胃腸症』とも呼びます。
かつては、『神経性胃炎』や『慢性胃炎』、『胃アトニー』、『胃けいれん』などと呼ばれていました。ですが、胃の粘膜に異常がないのに胃炎とするのは矛盾があるということで、近年、機能性ディスペプシアと呼ばれるようになりました」
筆者はちょっと食事をしただけでおなかがいっぱいになる感覚があり、それ以上食べると胃全体がどーんと重苦しくなります。機能性ディスペプシアとはこういう症状を言うのでしょうか。
吉田医師は、「機能性ディスペプシアの症状は、主に2つに分類されます」と、次の症状を挙げます
・食後愁訴(しゅうそ。患者さんの訴えのこと)症候群
「食後のもたれ感」、「食事開始後、すぐにおなかいっぱいになってそれ以上食べられない感覚(早期膨満感)」が、週に数回以上起こります。
・みぞおちの痛み(心窩部痛・しんかぶつう)症候群
みぞおちが焼ける感じ(心窩部灼熱感。しんかぶしゃくねつかん)や痛みがある。食後だけでなく空腹時に起こることもあります。
「両方の症状が現れる人もいます」と吉田医師。
ストレスや疲労が原因で胃の機能が低下する
では、原因は何なのでしょうか。筆者の場合はまるで思い当たりません。
「食べ過ぎ、飲み過ぎで胃が重だるくなったときは、数十分~数時間でおさまるでしょう。それは正常に消化活動が行われているからです。
ですが、機能性ディスペプシアの場合は、『胃の運動機能障害』で胃の中の食べ物を排出する力が落ちて時間がかかります。すると胃の内部の圧力が上昇して胃壁が伸びて『胃の知覚過敏』が起こる、また、十二指腸に胃酸が流れ込む『胃酸分泌』で消化活動が妨げられるなどが考えられます。
どれか一つの要因だけではなく、複数がからみあって悪循環をもたらすこともあるでしょう。そして、なぜそういったことになるのかというと、心身のストレスや疲労が影響していると考えられます」と吉田医師。
ストレスがおおもとであるならば、自律神経の働きにも関係しそうです。吉田医師は、こう説明を続けます。
「深く関係しています。胃腸の消化活動は、自律神経のうち、副交感神経が働くリラックス時に活発になります。ストレスがある、憂うつなとき、緊張しているときは交感神経が働くため、消化活動は抑えられます」
かつて、神経性胃炎と言われていたゆえんは、ストレスや自律神経にあるのでしょうね。筆者には、ストレスだという認識はありませんが……。
「ストレスに気づくと休息をとろうとするでしょうが、気づいていない人こそ注意が必要です」と話す吉田医師は、医療機関での治療について、次のように説明します。
「原因になっているストレスの内容が明らかであればそれを取り除くようにして、薬と生活習慣の見直しで改善していきます。
薬は症状に応じて、胃の運動機能を改善する薬、胃酸分泌を抑える薬、また、ストレス緩和のための抗うつ薬や抗不安薬などを処方します」
胃の負担が軽くなるよう、食べ方ケアを
自分でできるケアの方法について、吉田医師は、「できるだけ胃の負担を軽くしましょう。次に挙げることは誰もがすぐにできることですが、だからこそ忙しい日常ではなかなか毎日実践できないかもしれません。少しでも継続して習慣とするようにしましょう」と、次のアドバイスをします。
・毎日決まった時間に食事をする。
・食べ過ぎず、飲み過ぎず、腹七分目にする。
・よく噛んで食べる。
・早食いをせず、ゆっくり時間をとって食べる。
・油ものや甘いものを避け、消化がよい食事をとる。
・タバコ、お酒、コーヒー、チョコレートは胃の活動を低下させるので避ける。
・食後は、30分~1時間ほどゆっくり休む。
・寝る3時間前には食事はしない。
・昼間にウォーキングなど軽めの運動をする。
・睡眠を十分にとる。
・仕事や生活でストレスがないか心身ともに自問自答し、あれば取り除くように努める。
市販の薬で乗り切ることはできそうでしょうか。
「症状や度合いによります。まだ検査を受けていない場合や、検査で異常がなくて市販の薬を2週間試しても改善しないとき、また、食後にいつも胃の不調を感じるときは、早めに医療機関を受診してください。別の病気が隠されている場合もあります」(吉田医師)
このような病名があるのは、同じ症状で悩んでいる人がとても多いということでしょう。ストレスはないか、自律神経のバランスは整っているかと、胃の不調を機に自ら生活習慣を見直して、いち早くケアにとりかかりたいものです。
(取材・文 阪川夕輝/ユンブル)