更年期障害」といえば閉経後の女性がなるものというイメージが強いかもしれませんが、近年、男性の更年期障害にも注目が集まっています。
厚生労働省が今年3月に実施した「更年期症状・障害に関する意識調査」によると、30〜50代の男性の3人に1人が、男性ホルモンの一種である“テストステロン”が低下しやすい要因を抱えていたり、更年期の症状を抱えていたりすることが判明しました。
そこで、今回は都内で開催された「“テストステロン”の正しい知識」に関するプレスセミナーに参加。
順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学教授で、同クリニックで日本初のメンズヘルス外来を開設、現在は日比谷国際クリニックのメンズヘルス外来担当医師でもある堀江重郎(ほりえ・しげお)医師が、男性ホルモンや男性更年期障害の基本知識についてレクチャーしました。

堀江重郎医師
“男性らしさ”をつかさどる…テストステロンって何?
「テストステロン」といえば、男性ホルモンの代表として知られていますが、具体的にはどんな働きをするのでしょうか?
胎児の時にはこのテストステロンがペニスをつくって男の子が誕生。成長し、思春期になるとテストステロンの量が急激に増え、筋肉がつき、髭が生え、生殖能力が備わります。いわゆる「男性らしさ」をつかさどるホルモンで、成人においては、骨や筋肉の形成、造血、性機能、動脈硬化の防止、脂質代謝、認知機能など幅広い作用があります。体内時計にも作用すると考えられ、テストステロンが十分であれば、夜はぐっすり眠り、日中活発に活動できるということです。
テストステロンはさらに、決断力や忍耐力、新しいことにチャレンジする意欲、社会への貢献など、高いパフォーマンスを発揮しながら社会生活を営むうえで、大切な働きをするホルモン。そのため「社会性のホルモン」「冒険のホルモン」「競争のホルモン」などと呼ばれます。

出典/順天堂医院泌尿器科メンズヘルス外来サイト
思春期を迎える時期にも関係? 女性にもあるテストステロン
実はこのテストステロン、女性も保有しているホルモンで、卵巣などで作られています。男の子は誕生後にテストステロンの分泌が一気に高まりますが、小学生に入るくらいになると、男女のテストステロンの分泌に大きな違いはなくなってきます。
一般的に、男の子より女の子のほうが早く思春期を迎えるのは、このテストステロンが関係しており、卵巣の働きが活発になることで、女性ホルモンのエストロゲン、プロゲステロンに加えて、テストステロンの産生も高まります。これが、リーダーシップを発揮したり、自立心が備わったり、反抗期が早くなる要因と言われています。
女性の血液中テストステロン濃度は、女性ホルモン(エストロゲン)の数倍から10倍近く高く(男性はさらにその10倍)、閉経後、エストロゲン濃度は大幅に減りますが、テストステロンはそれほど減らないそうです。
テストステロンの高い職業はフリーのフォトグラファー!?
「競争のホルモン」と聞くと「すぐキレたり、暴力的だったりする男性はテストステロンが高いのかな?」と思いがちですが、攻撃性や暴力性とは無関係で、むしろ仲間や社会との協調を大切にするなど、社会性が高いことが特徴です。
「実はすぐにキレるのはテストステロンが低い人。高い人は緻密で楽天的、日記を書いている人も高い傾向がある」と堀江先生。
職業によっても傾向があり「1人で仕事をしている人、自己表現している人はテストステロンが高い」とし、その代表にフリーのフォトグラファーや俳優を挙げています。一方でテストステロンが低い三大職業が「教師、牧師、医師」だそうです。
30〜50代男性の3人に1人が更年期障害の心配
テストステロンの量は、おおむね20〜30代がピークとなり、その後、数値があまり変わらない人と減る人とに別れます。女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)は一定の年齢を過ぎると、急激に量が減って、心身への負担が大きいのに比べ、男性ホルモンは加齢による変化が緩やかで、個人差がある。それゆえ、注目されにくいという一面もあるようです。

出典/順天堂医院泌尿器科メンズヘルス外来サイト
ただ、今年3月に厚生労働省が実施した「更年期症状・障害に関する意識調査」によると、男性の更年期症状の状況を示す指標のひとつであるAMSスコア(Aging Male Symptoms rating scale、男性更年期障害質問票)は、軽度〜重度は30〜39歳で28.6%、40〜49歳で36.2%、50〜59歳で42.2%という結果に。これは、30〜50代男性の3人に1人が、更年期障害が心配される症状を抱えていたり、男性更年期障害予備軍だったりすることを表しています。

出典/厚生労働省「更年期症状・障害に関する意識調査」
男性更年期障害において注意を払うべき人の特徴は?
日比谷国際クリニックと、男性医療技術の研究開発を促し、発展させるための活動を行う「一般社団法人1UP学会(以下、1UP学会)」の調査によると、テストステロンが下がりやすくなり、男性更年期障害において注意を払うべき人の特徴は以下のとおり。
・家族や人との人間関係にストレスを感じている
・家に帰るのが憂鬱(ゆううつ)に感じることがある
・目標ややりたいことがない
・仕事内容や環境におけるストレスを感じている
・仕事での人間関係にストレスを感じている
・定年退職して隠居生活をしている人が羨ましく感じる
・ストレスを発散する機会がない
「1UP学会」では、このようなテストステロンが低下しやすい要因を抱える男性を、更年期障害予備軍として「L世代」(テストステロンが低い=LOW世代)と命名。
自分が「L世代」かどうかを簡単にチェックできる特設サイトもオープンしました。気になる人はチェックしてみましょう。

その不調は、男性ホルモンが関係しているのかも……?
テストステロンを維持・高めるために気をつけたい生活と食事
では、テストステロンを維持・高めるためには何に気をつければ良いか、生活編と食事編から紹介しましょう。
【生活編】日常生活で心掛けると良い習慣
・適度な運動
有酸素運動、無酸素運動、どちらでもOKですが「適度な」というのがポイント。マラソンなど、持久的な強度の高い運動はあまり向いていません。
・ストレスをためない
一般的には入浴と睡眠が有効で、ストレッチ、マッサージ、音楽を聞くなど。とくにヨガはおすすめ。
・睡眠を大切にする
夜中1〜3時の間はぐっすり寝て、睡眠時間は6時間から7時間が最適。
・初対面の女性と接する(男性で異性愛者の場合)
容姿や年齢は関係なく、「初対面の異性」であることが重要。もちろん話をするだけでOK。
【食事編】日常生活で積極的に摂ると良い食材
・畜産食品・乳製品
牛肉、羊肉、馬肉、レバー、卵、ヨーグルト
・魚介類
マグロ、鮭、うなぎ、牡蠣、アサリ、はまぐり
・野菜
ニンニク、ブロッコリー、ホウレンソウ、かぼちゃ、セロリ、セリ、玉ねぎ、アボカド、マカ、山芋(とろろ)
・キノコ類
マッシュルーム、トリュフ
・果物
バナナ、パイナップル、ザクロ、スイカ、メロン
・その他
ナッツ、唐辛子、ごま油、オリーブオイル、はちみつ

セミナー会場となったホテルニューオータニによるテストステロンアップメニュー
テストステロンが上がる具体的な行動は?
ほかにテストステロンが上がる具体例として、堀江先生が挙げたのが「褒められる」「スポーツで応援しているチームが勝つ」「ステイタスを象徴するような買い物をする」など。
中でも、ゴルフはテストステロンを上げる代表的な競技で、良いショットは褒め、失敗したショットには触れないのがゴルフの暗黙のルールであることや、18ホールをクリアしながら競争する点がテストステロンアップに最適だそう。また、ボランティアをしたり、寄付したりするのも良いそうです。
「いつもと調子が違うな」と思ったら…
テストステロンを維持したり高めたりするには、医療的なアプローチもあります。現在も病気の治療として注射剤などが用いられていますが、病気の治療目的ではなく、「どうも調子が悪い」「最近元気が出ない」など、テストステロンの低下が疑われた時の対応として、堀江先生を中心に開発されたのが「1UPフォーミュラ」というゲル製剤(特許申請中)。保険適用外になりますが、メンズヘルス外来や泌尿器科などの医師によって、処方されます。
「テストステロン値は、もともと個々に備わっている数値があり、高ければ高いほうがいいものではない」と堀江先生が言うように、あくまでも個人差があるもの。ただ「前とは違うな」「いつもの調子が出ないな」と感じたら、男性の更年期障害を疑ってみてもよいのかもしれません。