第2回「メディアと表現について考えるシンポジウム」前編

企業のCM炎上「あえて狙う」は99.9%ない 東大でシンポジウム

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企業のCM炎上「あえて狙う」は99.9%ない 東大でシンポジウム

ネットでたびたび話題になるCMの炎上。

「明らかに炎上しそうなのに、どうして世の中に出しちゃったの?」というものから「世間では騒がれているけれど、正直なぜ炎上しているのかわからない」までいろいろなタイプがありますが、メディアの表現はどんな人が関わって、どのように作られているの? と疑問に思っている人も少なくないのでは?

「メディアと表現について考えるシンポジウム」の第2回「徹底検証 炎上リスク そのジェンダー表現はアリか」が12月16日、東京・本郷の東京大学で行われ、社会学者からCMやテレビ番組を作るクリエイターなどメディアに関わる専門家、実務家がそれぞれの立場から炎上ついてディスカッションしました。

ウートピでは前後編に分けてシンポジウムの様子をお伝えします。

<登壇者>

鎮目博道:(株)テレビ朝日/AbemaTV、報道局クロスメディアセンター/編成制作局制作部プロデューサー
髙田聡子:マッキャンエリクソン・クリエイティブディレクター
千田有紀:武蔵大学社会学部教授
伊東正仁:損保ジャパン日本興亜 取締役常務執行役員
小島慶子:エッセイスト
松中権:NPO法人「グッド・エイジング・エールズ」代表
司会・治部れんげ:ジャーナリスト/昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員

炎上の3つのポイント

千田有紀教授(ジェンダー学)によると、炎上のパターンは女性に期待される3つの役割(ジェンダー、セクシュアリティ、労働)に関連しているといいます。

まず、ジェンダーに関しては赤ちゃん用オムツ「ムーニー」のCMを例に挙げ、「大変な思いをしてワンオペ育児をしている母親を描いて最後に『その時間が、いつか宝物になる。』と締めくくっている。女性が育児を担うことを肯定的に描いてジェンダー役割に押し込んで炎上した」と説明。

セクシュアリティに関しては、女性を性的な対象に見るCMで、鹿児島県志布志市がふるさと納税返礼品のうなぎをPRするために制作した動画「うな子」、タレントの壇蜜さんが出演した「仙台・宮城観光キャンペーン推進協議会」による観光キャンペーン動画、サントリーのビール「頂<いただき>」のPR動画を例に挙げました。

労働に関連した例では「頑張っているが顔に出ているうちはプロじゃない」と男性の上司が女性社員に注意する資生堂のブランド「インテグレート」のCMや職場で女性の容姿や役割をネタにする「ルミネ」のCMを挙げ、「個人的に特に問題だと思っているのは、性暴力につながりかねないCM。『うな子』は限度を超えてしまった。行政に関しては、税金で作られている。市民には女性や子どもも含まれるのだから、公共性の観点からも厳しく見る必要がある」と指摘しました。

一方、企業の「ネット炎上対応費用保険」を発売している「損保ジャパン日本興亜」の伊東正仁さんは「炎上件数は5年前と比べて10倍になっている。SNS利用率増に伴い発生件数も増加しており、原因も多岐にわたる」と発生要因の複雑さを示唆しました。

「あえて炎上を狙う」は99.9%ない

CMやPR動画の企画をクライアントから請け合う広告代理店の立場として登壇した、外資系広告代理店「マッキャンエリクソン」の髙田聡子さんは「表現やコピーに責任があるのはクライアントから仕事を請け負う代理店」と前置きした上で、「制作予算の削減から、TVCMの尺(長さ)は近年、どんどん短くなってきていて15秒が主流。一方で、メッセージが載せられるのは14秒前後と言われており、短い時間でわかりやすくないと伝わらないという事情から、メッセージがステレオタイプになりがちになってしまう」と近年の広告をめぐる事情も説明。

「『バズる』と『炎上』、『刺さる』と『傷つく』リスクは表裏一体。ただ、よく『わざと炎上を狙っている』と言い方をされることがあるが、企業のCMでは99.9%ないと思います。企業はブランドを何十年もかけて育てるもの。そんな蓄積した資産をなくすのは非常にリスクがあるので炎上を狙うというのは考えにくいです」とコメントしました。

会場で表示されたスライド。

会場で表示されたスライド。

「いいCM」って何だろう?

炎上するCMやPR動画の中には「明らかに炎上するだろう」と分かりやすいものだけではなく、「これはなぜ炎上した?」と疑問に思うものがあるのも事実。

そんなグレーゾーンにある動画の例として、シンポジウムでは宮崎県日向市PR動画「Net surfer becomes Real surfer」が取り上げられました。

「Net surfer becomes Real surfer」は、フラれたぽっちゃりめのネットサーファーの男性が海に出かけてサーフィンを始めたことで次第にたくましい本物のサーファーになっていくまでを描いています。

2016年11月に公開されると、ネットでは「素晴らしい」と賞賛の声が上がる一方で「オタク差別」という批判も上がった賛否両論を巻き起こした動画。会場では動画が流された後、登壇者がそれぞれ感想を述べました。

髙田さんは「高く評価されている作品。『今よりも変われる』という気持ちを刺激するし、自然な形で若者の成長記録としてよくできている。論点は、今の自分を承認するのか、もっとこういうふうに変わりたいという気持ちのせめぎ合いだと思うが、議論ができるところがあるのは良いと思う。決めつけがないのがいい」と話しました。

インターネットテレビ局「AbemaTV」で「Wの悲喜劇 〜日本一過激なオンナのニュース〜」などの番組を担当している「テレビ朝日」の鎮目博道さんは「僕はオタクなので、こういう動画を見ると『大きなお世話だよ』って思う。こういう物語を宣伝目的で作るのは嫌い」と感想をポツリ。

千田教授は、「その意見もわかる。ただ振られた主人公が、サーフィンを通して成長し、趣味や地元でのつながり、男同士の友情など見つける物語で、単純にイケメンになる物語でもない。性別やリア充度など、置かれている人の立場で見方が違うというのはこういうことなのかなって思う好例」とコメントしました。

みんなが100%納得する作品は「ない」

また、「視聴者や世の中の反応を気にするあまり、制作者が萎縮してしまう場合も。そのバランスはどういうふうに考えていますか?」という来場者からの質問に、髙田さんは「制作者はアイディアを出す段階から反応を考えています。完成したらCMが世に出たら、どういう受け取り方をされているのか、反響や反応をネットで調べてもいます。

誰もが100%納得するメッセージはないと思うし、あったとしたらつまらないと思う。ある程度の議論を巻き起こして、どちらにも取れる構造にしていくことが大事なのかなと思います」と話していました。

同シンポジウムは、2017年5月に発足した、テレビ、新聞、インターネットなど、さまざまな媒体上の表現のあり方を考えるグループ「メディア表現とダイバーシティを抜本的に検討する会(MeDi)」が主催。今後もシンポジウムの開催を予定しているとのことです。

※後編は12月23日(土)に公開します。

(取材・文:ウートピ編集部・堀池沙知子)

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