人との距離感を探った3年間…有村架純が自分とは真逆の『ちひろさん』オファーを受けた理由

人との距離感を探った3年間…有村架純が自分とは真逆の『ちひろさん』オファーを受けた理由

女優の有村架純(ありむら・かすみ)さんが主演する映画『ちひろさん』(今泉力哉監督)が2月23日(木・祝)からNetflixで世界配信&全国劇場で公開されます。『ショムニ』で知られる安田弘之さんの同名マンガが原作で、ファンを中心に配信前から話題になっています。

海の見える田舎町のお弁当屋さんで働いているちひろさん。元風俗嬢であることを隠そうとせず、飄々(ひょうひょう)と生きるちひろさんの周りには、いろいろな事情や孤独を抱えた人たちが集まってきます。

家にも学校にも居心地の悪さを感じる女子高生、母親の愛情に飢えている小学生、父親との確執を抱える青年--。

“普通の大人”とはちょっとズレた、どこか捉えどころのない女性・ちひろという難役に挑戦した有村さんにお話を伺いました。

自分とは真逆の女性・ちひろさんを演じて

——最初に『ちひろさん』のお話があったときの感想や脚本を読んだ感想を教えてください。

有村架純さん(以下、有村):オファーをいただいたのはちょうど2〜3年前、でコロナ禍の真っ最中でした。自分や周囲、世界中の人がいろいろなことに立ち止まって“生きる”ことを考えた時期だったと思います。制作サイドの方から、なぜこの映画を作ろうとしているのかなどお話を聞いて、ちょうど自分が考えていたこととリンクしたのが決め手になってオファーを受けました。

『ちひろさん』のマンガを読んで「好きな作品だ」と思いました。でも、ちひろさんのビジュアルも私とは真逆ですし、高いハードルを越えなくてはいけないな、と。正直、怖い部分はありました。でも社会に対して“生きづらさ”を感じている人や対人関係に悩んでいる人たちに、この作品が届けばいいなと思いました。

——有村さんのおっしゃる真逆のちひろさん、声のトーンや話し方がこれまで出演された作品で見た雰囲気とは少し違う印象を受けました。役作りで苦労したことはありますか?

有村:私がイメージしていたちひろさんは、艶(あで)やかで格好良くて目が離せなくなる色気がある女性で、魅力的な要素がたくさん詰まっていました。でも、私はそういうタイプではないと思っていたし、これまで培ってきた経験を覆してちひろさんに近づくのは難しい。雰囲気も変えられない。それならと声を低くしたり、早口を控えて喋り方を変えたり、言葉からにじみ出る色を一定にしたりといった技術的な部分で工夫しました。逆に言えば、それくらいしかできることはなかったように思います。

——それぞれの孤独を抱える女子高生のオカジ(豊嶋花さん)や小学生のマコト(嶋田鉄太さん)など、ちひろさんが年の離れた子たちと触れ合うシーンが印象的でした。ちひろさんはいい意味で“変な大人”だと思うのですが、有村さんは子どもたちに対してどんな大人でいたいと思いますか?

有村:接する相手がたとえ幼稚園生や小学生だったとしても、対等ではいたいと思っています。どれだけ年下の子でも物事は理解できるし、普通に話しもできます。変に子ども扱いをするのではなくて、友達のようにありたいです。「今日、何していたの?」「何を食べたの?」「あれ、おいしいよね」とか普通の会話をしたいです。

意識したのは「距離感」 “聖母”にならないために気をつけたこと

——ちひろさんはいろいろなものを受け入れる能力が、ものすごく高い人です。一歩間違えると、誰かの理想化した聖母みたいになってしまいがちなところを有村さんが演じたちひろさんは、決してそうではないように見せている印象を受けました。ちひろを演じる上で、寓話的なヒロインにならないようになど、意識した部分や注意した部分はありましたか?

有村:ちひろさんはちょっとニュアンスを間違えると「もう本当に何でも受け入れてあげるよ!」みたいなキャラクターになっちゃうなと思いました。そうならないためにも徹底して(周囲との)距離感を意識しました。カラッとしているというか、距離感に粘りを感じない。粘度を感じさせないように、演じながら気をつけていたように思います。そんなに人に興味がない、どこか悟っているというか、何かを諦めたあとに人生を一周回ったあとくらいの雰囲気でしょうか(笑)。

——ちひろさんは幼少期の自分のような子どもたちを見ても「救ってあげたい」という、モチベーションでは接していないように見えました。

有村:そうですね。決して自ら踏み込んで、手を差し伸べるっていうことはしない。う―ん……なんて言ったらいいんですかね? 生きていたら「この音楽に救われた」とか「この絵を見て心が洗われた」とか、存在だけで力を与えてくれる芸術があります。エンターテインメントって多分同じ種類だと思いますけど、それに近い感じというか……。サービス精神を持って、何かを分け与えるっていうことじゃない。そういう存在でいられたらなって。

——つかみどころのないちひろさん。彼女に軸になったものがあったとしたら……有村さんはどういうものを軸にしていらっしゃいましたか?

有村:……とは言っても、ちひろさんも生きてきた道があるのだから、どうしてそこに至ったのかっていう背景を考える必要がありました。彼女もかつては普通の会社員で、みんなと変わらないような生き方をしてきたはず。ひょっとしたら、男性関係で“与えすぎ”てしまって、失敗を繰り返して……。きっと自分が愛情に飢えていたぶん、いっぱい、いっぱい愛情を人に与えすぎて、逆にカラッカラになってしまった。それできっと、いろんなことに疲れちゃったのかなとか考えましたね。

ちひろさんもきっと、人との距離感を学んで、ここが一番気持ちいいと感じたんでしょうね。自分が街に情がわく前に「さよなら」ってしたほうが、自分自身も傷つかなくて済む。「裏切られた」という失望感に苛まれなくてもいい。

自分自身を守るためにも、きっと今の生き方っていうのが、ちひろさんにとっては一番気持ちがいいのかな? とか。そういう自分なりの着地点というのを決めていました。それがあのお弁当屋さんのちひろさんでした。

「もっともっと自分の幸せのために生きていい」今公開される意味

——冒頭でお話しされていた、ちひろさんというキャラクターを通して「伝えたい」と思ったことって何ですか?

有村:コロナ禍からの自粛生活から3年がたちました。その3年間の間にいろんなことが変わりましたよね。たとえば会社が大変で、これまでは無理して通ってたけれど、でも「無理して頑張る必要はないんだ」と気づいたり、気が進まない飲み会も「誘われたから行かなきゃ」と思っていたけれど、「無理して行く必要はない」「この距離感でいいんだ」と気づけた3年間でもあったのかなって。

自分たちがどんなふうに生きれば、風通しのいい日々を送れるかというのを、たくさん考えられた期間でもあったのかなと思います。そんな状況の中で、この作品が公開されるということは、すごくいいタイミングなのかなと。改めて、もっともっと自分の幸せのために生きていっていいんじゃないかと思えるような作品です。

インタビューは後編へ続きます。

(聞き手:小林久乃、写真:宇高尚弘、ヘアメイク:尾曲いずみ、スタイリスト:瀬川結美子)

■映画情報『ちひろさん』
2月23日(木・祝)Netflix世界配信スタート&全国劇場にて公開!

出演:有村架純
豊嶋花、嶋田鉄太、van
若葉竜也、佐久間由衣、長澤樹、市川実和子
鈴木慶一、根岸季衣、平田満
リリー・フランキー、風吹ジュン

原作:安田弘之『ちひろさん』(秋田書店「秋田レディース・コミックス・デラックス」刊)
監督:今泉力哉 脚本:澤井香織 今泉力哉
製作:Netflix、アスミック・エース
制作プロダクション:アスミック・エース、デジタル・フロンティア
配給:アスミック・エース
(C)2023 Asmik Ace, Inc. ©安田弘之(秋田書店)2014

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