映画『SING/シング:ネクストステージ』インタビュー・前編

「雑な言葉を使うと自分が傷つく」長澤まさみが大事にしている、人と関わるということ

「雑な言葉を使うと自分が傷つく」長澤まさみが大事にしている、人と関わるということ

長澤まさみさんが、ヤマアラシのロック少女アッシュ役で声優を務めるアニメーション映画『SING/シング:ネクストステージ』(ガース・ジェニングス監督)が3月18日(金)から公開されます。何度つまずいても夢を追い続ける者にエールを送るこの作品で、パワフルな歌声も披露している長澤さん。人と人との距離に変化が生まれ、暗いニュースが飛び交う世の中で、長澤さんが思う「人と関わることの良さ」や「チャレンジし続けることの意味」とは? 前後編にわたってお話を伺いました。

『SING/シング:ネクストステージ』で長澤まさみさんが声優を務めたアッシュ(右)(C)2021 Universal Studios. All Rights Reserved.

『SING/シング:ネクストステージ』で長澤まさみさんが声優を務めたアッシュ(右)(C)2021 Universal Studios. All Rights Reserved.

大河ドラマでも「語り」を担当…声の仕事は「厳しい」

——2017年に日本で興行収入51億円を超える大ヒットを記録したアニメーション映画『SING/シング』は、取り壊し寸前の劇場の支配人バスター・ムーン(声:内村光良さん)が、歌のオーディションを開催し、劇場を復活させようと奮闘するお話でした。

長澤さんはオーディションに参加するロック少女アッシュの声優を務め、見事な歌声も披露していましたね。あれから5年、続編となる『SING/シング:ネクストステージ』で再びアッシュを演じ、さらに難易度の高い歌唱にも挑戦されています。作品を拝見しましたが、暗いニュースが多い昨今、夢を見させてくれる楽しい作品でした。

長澤まさみさん(以下、長澤):閉塞的な状況で個々の時間を過ごすことが多くなっているので、そんな方々に希望を持ってもらえるような、こういう作品が生まれたのだろうなと思います。私自身にとっても、刺激になった作品です。

——NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」でも声のお仕事(語り)をされていますが、同ドラマの公式ホームページに掲載されているインタビューで「声のお仕事は苦手」だと語っていますね。意外だと感じました。

長澤:ナレーションもそうですが、声の仕事とはいえ、私ではない人物を演じるわけですから、嘘(うそ)に聞こえないように、大切にやっています。苦手ではありますが、声の仕事を褒めていただくことも多いので、頑張ろうと思って取り組んでいます。

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——本国版のほうは、声優さんたちが身振り手振りを加えながらアフレコしていて、監督はその動きをアニメーションに取り込んだそうです。長澤さんはどんなスタイルでアフレコをされたのですか?

長澤:本国版と違って、日本語吹替版では、感情を表現するために身振り手振りが使えないんですよ。身振り手振りで話しているイメージも全部、声に乗せないといけない。とにかく声という手段しかないんです。

日本語吹替版の演出を務められた三間雅文監督は、アニメーションの世界でも超一流と言われている方で、本当に指示が的確で上手に導いてくださいました。もちろん私たちも準備はするけれど、会話なら相手との化学反応が重要ですし、相手のトーンに合っていなければ全然成立しないので、その場その場で、監督に指揮をとってもらいながら、言われたことに対するイメージを自分の中で膨らませて声を作っていくという感じでした。

——本当に難しい作業なのですね。

長澤:すごく厳しいんです。収録すると「本国に確認します」と言われて、OKが出るまで1週間くらい待たされるんです。受験の結果を待つみたいな心境でした(笑)。

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雑な言葉を使うと自分が傷つく

——今作の大きな見どころが、アッシュと伝説のロック歌手クレイ(声:稲葉浩志さん)のコラボレーション。アッシュは自分たちの公演に出演してくれるようクレイを説得しに行きますが、心に傷を負って屋敷に閉じこもっているクレイは、なかなか首を縦に振りません。「頑張れ」とも言わず、クレイに黙って寄り添うアッシュが印象的でした。長澤さんは、なぜクレイはアッシュの言葉に耳を傾けたのだと思いますか?

長澤:クレイはどこかで、背中を押してくれる人を待っていたのだと思います。人はやっぱり、社会に出て人と関わることで、自分なりの存在意義を見つけたり、成長を求めたり、人との化学反応で自分自身を育てていくことを必要とする動物だと思うんです。

だからクレイも、(人前で再び歌うことを)嫌だ嫌だと言いつつ、本当は逆で、虚勢を張っているだけなのかなと思ったりします。中には本当に心から嫌だという人もいると思いますけど、そこは多分、空気で察することができる。だから、アッシュのおかげというより、アッシュはたまたま、そこに運良く居合わせた1人だと思うんです。クレイは世界的スターで、みんなの憧れ。彼女はラッキーだったと思います。

(C)2021 Universal Studios. All Rights Reserved.

(C)2021 Universal Studios. All Rights Reserved.

——アッシュがクレイの大ファンだからこそ、相手のことをよく分かっていて、黙っておもんばかっている姿が、あり方としてすてきだなと思いました。

長澤:やっぱり、好きな人には嫌われたくないですからね。空気を読むのではないでしょうか。本当に大切に思っている人に対して、相手が嫌だというところにズカズカと入ってはいけないと思うんです。実際に相手を目の前にしたら、思っていることの1つも言えない。人間って、ちゃんと人の気持ちや空気を察して、言葉を発しているんだなと思うんです。

——最近はオンラインで話を済ますことが増えて、そのあたりがおろそかになりがちな気がします。

長澤:そうすると、言葉がだんだん雑になっていくんですよね。おまけに、自分でもそれに気づかなかったりする。だけど実際人に会うと言葉に気を付けてしゃべりますよね。それって、人と関わることの良さなんじゃないかなと思います。

——世の中が変化しても、そこは変化してはいけないですね。

長澤:自分が恥をかくだけですからね。それに、雑な言葉を使うと、自分も傷つくんですよ。自分が使った言葉に、自分が傷つけられる。そう感じています。

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映画『SING/シング:ネクストステージ』は3月18日(金)全国公開。

(聞き手:新田理恵、写真:宇高尚弘)

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