『かしましめし』インタビュー第3回

ごはんさえ食べれば生きていける 『かしましめし』は一度折れた人の話

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ごはんさえ食べれば生きていける 『かしましめし』は一度折れた人の話

心が折れて仕事を辞めた千春、バリキャリだけれど恋愛でつまずくナカムラ、恋人との関係がうまくいかないゲイの英治という“生きること”に不器用な男女3人がごはんを食べることで生き返っていく姿を描いたマンガ『かしましめし』(祥伝社)の待望の1巻が9月に発売されました。

これまで、広告代理店で働く女子のリアルが話題を呼び、ドラマ化もされた『サプリ』や派遣社員とネイリストの副業に奮闘する女性を描いた『&(アンド)』など、都会で働く女性の恋と仕事のリアルを鋭く切り取りってきたマンガ家のおかざき真里さん。

『かしましめし』の誕生秘話、働く女性のリアル、「生きることとは?」など3回にわたって話を聞きました。

【1回目】「上京してやっと息ができた」 血縁でも家族でもない“つながり”の可能性
【2回目】ドラマの「散らかっていないOLの部屋」は不自然

「生き延びるには?」をテーマに描いてきた

——前回、『かしましめし』は一度折れちゃった人の話、ということでしたが……。

おかざき真里(以下、おかざき):『サプリ』(2004〜10年)は総合職正社員女子が主人公だったんですが、世の中の流れがそうではない方向に流れてきて……。

それで『&』(2010〜14年)で副業女子をテーマに描いたんですが、副業もうまくいかない人もいるよなって思って、じゃあ折れたところから描こうとしたのが『かしましめし』なんです。

『&』は「あっちがだめならこっち」っていうのもありだよというのを描きたくて描いていたんですが、『かしましめし』はそれをもっと突き詰めていきたかったんです。

——なるほど。主人公の千春はあこがれの会社に入ったものの心が折れて会社を辞めてしまう28歳の女性。働き女子ですらなくなってしまう……。

おかざき:『サプリ』で水原という自殺しちゃった女の子のエピソードを描いたんですが、彼女がそのまま死なずに、自らの命を絶たずに生きていたとしたらどうするのかな?って思って描いたのが千春なんです。

——そうなんですね……。でも、確かにつながるかも。

おかざき:三つの作品に共通するのは「生き延びるには?」「生きていくには?」ということで、生き方のバリエーションを描きたいというのは一貫していますね。

——で、生きるためには“ごはん”が必要だと。

おかざき:はい。ごはんを食べていれば死なないんだなって思ったのは、昔、熱帯魚を飼っていたんですが餌をやった時に食べにこない魚から死んじゃうんです。食べなくなると死んじゃう。

魚も食べてさえいれば漂えるんだって。食べて生き延びさえすれば大丈夫って思うんです。

——生き延びさえすれば……。本当にそうですね。

(C)おかざき真里/祥伝社フィールコミックス

(C)おかざき真里/祥伝社フィールコミックス

料理も完璧を目指さなくていい

——読者からの反響はいかがですか?

おかざき:マンガに載っているレシピで料理を作ってくださっているのが予想外でした。私もグルメマンガは好きで、よく読むんですが、わざわざマンガに載っている料理を作ろうとはしないほうなので。

——実は私も『かしましめし』に載っていたバターチキンカレーが美味しそうで、しかもすごく簡単そうだったので作ったんです。

おかざき:えー、ありがとうございます!

——他のレシピも材料も少なくて簡単にできそうだなと思って、それこそ週末に友人を呼んで一緒に食べたいなと思いました。

おかざき:簡単にできるごはんを作ろうと考えて描いているんですが、塩加減が結構適当で……。マンガと一緒で、「あとでなんとかしよう」というタイプなんですが、それが読者の方には不親切なのかなって思って反省もあります。

(C)おかざき真里/祥伝社フィールコミックス

(C)おかざき真里/祥伝社フィールコミックス

——そうなんですね、確かにバターチキンカレーは味が薄いなと思ったので勝手に塩を足しちゃいました(笑)。

おかざき:私はゴールの味を知っていて作るけれど、初めて作る人は味の目標がないまま作っているので、味の目標や分量は細かく描かないとなって思いました。

——でも簡単でいいですね。

おかざき:すごくちゃんとした料理本やマンガを見ると自分はこんなに手際よくもできないし、調味料もそろってないしって辛くなる。

だから、マンガのように週末に集まって作れるようなものを、働いている人たちが週末に食べれるものを意識しました。

——おかざき先生もツイッターでよく朝ごはんをアップしてらっしゃいますね。料理は得意なんですか?

おかざき:いえ、実は料理は苦手で……。子どもがいなかったらやらないです。そういう人間でもできるレベルの料理を心がけています。

——そうなんですね、意外です。

おかざき:子どもや家族がいると「ごはんを作らなきゃいけない」ってのはあるけれど、あまり深刻にしないで……という思いも込めてますね。毎日やるものは完璧にしなくていいんじゃないの?って思いながら描いていますね。

タイトルを『かしましめし』にした理由

——そういえば、マンガのタイトルを『かしましめし』にしたのはなぜですか?

おかざき:前回、失敗したら反省する必要があるっていう話をしたと思うんですが、『かしましめし』にしたのは『サプリ』と『&』の反省を踏まえているんです。

——えっ、どういうことですか?

おかざき:『サプリ』と『&』はネットで調べた時に検索に引っかかりにくいんです。「&」なんて検索不能文字で、「アンド」ってカタカナで入れると「アンドーナツ」が入ってくるっていう……。

——えー、そうなんですね!

おかざき:最初『サプリ』が本当に売れなかったんです。まわりからすごく言われたのが、「これだと働くOLものだとわからないよ」って。『働きマン』みたいな分かりやすさが足りなかった……。だから、今回はごはんモノなんだなってわかりやすいものにしました。

——そんな秘話があったとは……。

おかざき:で、この作品を描いている時に「3人でかしましごはんがいいんだよね」って何気なく言ったら、アシスタントの子が「じゃあかしましめしですね」って。それだ!ってなりました。

居心地のいい場所は変わるものだから…

——最後に今後の展開を明かせる範囲で教えてください。

おかざき:1巻の終わりで3人が一緒に住もうという流れになって、英治君が千春の家に引っ越してくるんですが、完全に元の家を引き払っているわけではないんです。ナカムラも実家住まいだったので、戻ろうと思えば戻れる状態なんです。

だから3人とも「後戻りはしない!」「覚悟!」という感じではなくて、「いま」「たまたま」ここにいるよという感じになればいいなと思っていて。

——無理をしていないんですね。いま、一緒に住みたいから一緒に住む、出ていきたくなったら出ていく、という感じでしょうか?

おかざき:そうですね。家族もそういうものかもしれないって思っています。うちだって子どもたちはそのうちどこかに出ていくだろうし全部そういうものなんじゃないかなって。

形を変え、メンバーも変わり、“かりそめの”っていうのが続いていくのがいいんじゃないかなって思います。

(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)

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