アルテイシア・斉藤章佳 対談 第3回

「夫の痴漢は妻の責任」? 男性の性欲に甘い社会【アルテイシア・斉藤章佳】

「夫の痴漢は妻の責任」? 男性の性欲に甘い社会【アルテイシア・斉藤章佳】

連載「○○と言われて微妙な気持ちになる私」を更新するたびに、「あるある!」と共感の嵐を巻き起こす、作家のアルテイシアさんとジェンダー問題について考える特別企画。

精神保健福祉士・社会福祉士で、著書『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)『小児性愛という病―それは、愛ではない』(ブックマン社)などで男性の“加害者性”について深く考察してきた斉藤章佳さんをゲストにお招きしています。第3回は、男の性欲をテーマに話が白熱します。

性犯罪加害者の99.8%が男性、被害者の90%以上が女性という世界で

——前回、「男性は性欲のコントロールができない」という理論は、実は男性の不都合を隠すのにちょうどいいのだと斉藤さんが指摘しました。それは女性にどんな影響があると思いますか?

アルテイシアさん(以下、アル):「男には制御できない性欲があるんだから、女はそれを満足させなければいけない」ということにしておけば、男性にとっては非常に好都合なんですよ。

男性が性犯罪を起こしても、女性に隙があったとか、枕営業だとか、ハニートラップだとか、被害者女性を責める風潮がありますよね。「浮気は男の甲斐性」という考え方にしたって、「モノにした女の数が男の価値」という偏った価値観です。

それが行き過ぎると、(準強制性交等罪で逮捕者を出したナンパ講座の)「リアルナンパアカデミー」のような事件にもつながる。また「女にモテない自分は男社会で認められない」「それは自分を選ばない女が悪い」と女性憎悪を募らせた果ての悲惨な事件が起きてしまう。

——性欲のせいだと持ち出す前に、ちょっと想像すれば「おかしい」と思えそうなものですけど……。

アル:性犯罪加害者の95%以上が男性、被害者の90%以上が女性だという現実がある以上、男性が被害者の立場に立って考えるのは難しいのかな、とは思います。

たとえば、「男性でも被害者になる可能性がある」という話をすると、ニヤニヤする男性がいる。そういう人は、エッチなお姉さんに迫られるみたいな都合のいいファンタジーを想像しているんですよね。力づくで犯されるとか、集団で痴漢に遭うといった女性にとっての現実を、想像すらできない。

斉藤章佳さん(以下、斉藤):性犯罪加害者の特徴として、傷つけた相手への想像力が鮮やかに抜け落ちているケースはよく見られます。「性犯罪をやめることによって得られたものは?」と質問すると、逮捕されなくて済む、社会的な立場を失わずに済む、といった回答はスラスラ出てくるのですが、これ以上被害者を生み出さずに済む、という言葉はほとんど出てこない。一方で、ある加害者に「痴漢をやめて失ったものは?」と尋ねたところ、「生き甲斐」だという答えが返ってきました。

アルテイシアが腐女子との会話で見つけた「希望」

画像はイメージです。

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——性犯罪をやめることで生き甲斐が失われる……。むしろこちら側の想像力が追いつかないです。

斉藤:人は経験していないことは具体的に想像できないんですよね。特に男性は性被害について想像するのが難しい。傷つけられた被害者がどんな思いをして今生きているのかと尋ねると、あまりにわからなさすぎてみんな「のっぺらぼう」のような表情になります。ほとんどの男性は、生まれてから死ぬまで、異性を性的に「消費する」ことはあっても、「消費される」ことはほとんどないわけですからね。

アル:男女間のギャップが大きすぎますよね。私のはじめての性被害は4歳で、近所のおもちゃ屋の店主の男に体を触られたことでした。小学校、中学校、高校と、日常的に痴漢にも露出魔にもあってきています。そういうことが当たり前の女性と、一度も経験したことのない男性との間には、やっぱりものすごい差がある。

地獄みたいな話ばかりなので(笑)、ちょっと明るい話をしてもいいですか? 

最近、周りの腐女子たちから「無理やり系のBLが無理になった」という話をよく聞きます。男同士のBLを、自分とは他人事のファンタジーとして読んでいたけど、それでも「攻めが受けを無理やり襲う」みたいな描写を受け入れられなくなってきたと。

それはフェミニズムに関する情報に触れる機会が増えたことで、性暴力をエロネタとして扱うことに、強い嫌悪感を抱くようになったからだ、と。

これこそが感覚のアップデートですよね。知識を得ることによって、感覚をアップデートさせられる。人間ってすばらしいな~と思いました(笑)。

斉藤:経験していなくても、知識を得ることで意識や行動が変えられる可能性がある、と思ったんですね。

アル:はい。それはきっと、男性も同じなんじゃないでしょうか。

編集さんから「男性はフェミニズムや性暴力に関する記事を読まない」とよく聞きます。でも、きちんと向き合って知識をインプットする機会さえあれば、「性暴力的なコンテンツではもう楽しめない」という方向に意識が変わるんじゃないかなと。

——加害者プログラムのなかでは、フェミニズムやジェンダーについて話をすることはあるのでしょうか?

斉藤:直接的にそういったジャンルを扱うことはないのですが、被害者理解を促すプログラムはあります。実際に性被害を受けた方に来ていただいて、被害体験やセカンドレイプ、その後の人生がどのように破壊されてしまったかについて、生の声で話してもらっています。レイプの被害者の中には、何年経っても上から覆い被さられることが怖くて、歯医者や整体に通えないという方もいる。天井を見て寝ることさえもできないと。そういった当事者の目線で世界を見る、というトレーニングはあります。

また、私自身は専門的にフェミニズムを学んだりその類の本を読み漁ったりしたわけではないですが、加害者臨床の中で彼らの加害行為の克服や行動変容に関わっていると、望むと望まざるとにかかわらず、フェミニズム的価値観を内面化してアプローチの一つとして使っていることに気づくことがあります。そういう意味では、日々新しい価値観のアップデートが求められる臨床領域だと考えています。

夫の痴漢がセックスレスのせいにされる社会

画像はイメージです。

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アル:加害者を治療するためのプログラムもとても大事ですが、一方で、根本的に加害を減らすためには、幼少期からの包括的性教育*が絶対に必要だと感じます。

*性を性交や出産だけではなく、人との関わり方や相手の立場を考えることとしてとらえ、科学・ジェンダー平等に基づく性教育

性教育先進国のオランダでは、10代の妊娠中絶が少なかったり、初性交渉の年齢が高かったりするそうです。つまり子どもに正しい性知識を教えることで、子どもは自分を守れるようになる。

一方、男性に都合のいい国ヘルジャパンでは、男の性欲に甘い社会を維持したいという思惑のせいか、まともな性教育が行われない。

「性知識を教えると性が乱れる」「寝た子を起こすな」の一辺倒で、子どもを守る気もないし、信用もしてないんだと思います。

斉藤:そうですね。今回のメインテーマでもある「男の性欲に甘い社会」、その縮図とも言える現場に立ち会ったことが何度もあります。痴漢加害者の裁判で、被告人の妻が情状証人として法廷に立っていて、ある検察官が妻に、事件当初の夫婦の性生活について尋ねる場面があったんです。事件とはあまり関係のないこととして、裁判官も弁護人も質問を止めると思ったんです。でも実際には誰も止めることなく、妻は「夫婦生活はありませんでした」と答えざるを得なかった。

アル:聞いているだけで胸糞悪すぎて吐きそうです。そんな吐き気をもよおす邪悪が、法廷で行われているなんて。

先ほど話した「男には制御できない性欲があるんだから、女はそれを満足させなければいけない」という思考ですよね。

斉藤:この質問には、「夫の性欲を妻が受け入れなかったことが原因で、夫は痴漢に及んだのではないか」というバイアスが掛かっているんです。おそらく質問した検察官も無自覚だったと思います。だけどそんな仮説はまったくの無根拠ですし、セックスレスが影響して性犯罪が起こるなら、今の日本はそこらじゅうで性犯罪が起こっていますよ。

アル:男性の芸能人が不倫問題を起こしたときは、妻が仕事に熱を入れすぎたせいだとか、育児に集中して夫を構わなかったせいだとか叩かれて。片や数年前、ベテラン女優が不倫をしたら、普通に彼女自身が責められてましたよね。

性暴力や性差別をなくしたいと思うなら、一般の男性たちが「男の性欲に甘い社会」を自覚してほしい。そのうえで正しい知識を学んで、感覚をアップデートさせてほしいです。

第4回は9月24日(木)公開予定です。
(構成:波多野友子、イラスト:中島悠里、編集:安次富陽子)

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