50 to 100 14冊目

そば打ち、ダンス、韓国アイドル…さみしさを紛らわせようとする「中高年の趣味」はイタいのか

そば打ち、ダンス、韓国アイドル…さみしさを紛らわせようとする「中高年の趣味」はイタいのか

50代から100歳以上の著者の本から人生後半のA to Zを考えてみる本連載「50 to 100」。

14冊目に紹介するのは、柘植文さんのコミックエッセイ『中年女子画報~50歳ですよ~』(竹書房)です。「中年」と「老い」をテーマに描くこの「中年女子画報」シリーズ。2015年に発売された一冊目では40歳でしたが、2023年には50代に突入。「正しい中高年」の姿は見つかったのでしょうか——?

作家の南さんは、本書を読んで友人の一言に傷ついた日のことを思い出したそうです。

韓国語学習を揶揄されて傷ついた日のこと

三十代後半の一時期、女友達に誘われて韓国語を習っていた。それを男友達に話したら、「女の人っておばさんの入り口に立つと、突然韓国方面へ舵をとりだすよね〜」と言われてしまった。そのとき、自分でもなぜだかわからないが妙に傷ついて、三時間ぐらいそいつのことが嫌いになった(基本的にはいい人なので……)。

今回、本書を読んで、あのとき傷つけられたような気持ちになったわけが突然理解できた。わたしは彼に、有り余る時間を持て余した結果、突然趣味にハマるという、さみしい中高年によくある現象だと指摘されたように感じて、傷ついたのだ。

定年退職した男性がそば打ちをはじめたり、子育てを終えた主婦がダンス教室に通いだしたり。あるいは、日常にマンネリを感じる女性が韓国アイドルにハマったり。お前もとうとうそっちへいっちまったかとバカにされたように感じた。というか今考えれば、わたし自身がその手のモノに対して、バカにするまではいかずとも、見下すような気持ちがあった。だからこそ、傷ついたのだ。

なぜ、中高年の趣味はバカにされたり、見下されたりするのか。

ヒマでさみしいからやっている、と思われているからだ。

さみしい……さみしすぎる……と思いきや

現にそのように思っている人が、もしかすると本書を読んだら、やっぱり柘植さんのことをヒマでさみしい中高年女性と感じるかもしれない。

あるときの柘植さんは、NHKのドキュメンタリー番組を見たのをきっかけに仏像にハマり、住まいのある東京都下の多摩地区から上野の東京国立博物館まで仏像鑑賞に出かける。多摩から上野、まあまあ遠い。また一人旅好きの柘植さんは、コロナ禍のまん防期に近場でもいいから旅行したいと思いたち、選んだ旅先は東京都町田市。旅行にしては近い、近すぎる。その後、自粛モードがゆるやかになり、久々に遠出してみようと向かった先は栃木県宇都宮市。目的は石を見にいくこと。本当にただの石。世界遺産でもなんでもない。

週末は友達や恋人やその他さまざまな関係の人との約束で埋まっているような人は、テレビを見て仏像に興味を持っても、片道一時間以上かかる博物館までなかなか足を運べないんじゃないだろうか。友達に「最近、仏像に興味あるんだよね〜」なんて話しただけで終わるのが関の山。つまり、実際にさくっといけてしまう柘植さんは、やっぱり相当ヒマに見える。

しかも柘植さんはいつも大抵一人、同行者がいても担当編集者。そのうえ、漫画の中で柘植さんの行動にツッコミを入れたり柘植さんと他愛ないやりとりをしたりするキャラクターは架空の読者Aさんなのだ。イマジナリーフレンドと会話しながら近場をうろつきまわる中高年女性。さみしい……さみしすぎる……と思いきや。

わたしは素直に、楽しそう、いいなあとわくわくしながらページをめくり続けた。

私も“突然趣味にハマった中高年”なので

それはもう、わたし自身もどっぷりと”有り余る時間を持て余した結果、突然趣味にハマる中高年”となってしまっているからだ。

わたしはコロナ禍と同時期に自分でもなぜかわからないが編み物にハマり、自粛期間はひたすら家で一人、編んで編んで編んで編みまくっていた。これ編みたい、あれも編みたい、と頭の中は編み物のことでいっぱい、世の中について考えている暇もなく、暗い気持ちになることは一切なかった。

最近は麻雀にハマり、とにかく時間ができたら近所の麻雀教室に足を運んでいる。四十代に入ってから友達と食事に出かけたり、イベントに誘われたりといったことがずいぶん減った。コロナ禍の影響は確かにあるが、それがなくても、少しずつそうなっていたのではないかと思う。四十代とはやっぱりそういう時期なのだ。だから何かなんでもいいから趣味や興味の持てる何かを見つけないと、休日にやることなくなってヒマになってしまうのは確かだ。こう書くと、やっぱりなんだかさみしそう、と若い人は思うかもしれない。

しかし、これが意外に楽しいのだ。

趣味は人生の宝

三十代までのわたしはしらなかった。定年退職して突然そば打ちをはじめた初老男性のわくわくした日常を。子育てを終えたあと子供優先の生活から「自分」に軸を戻すためにダンス教室に通いはじめた主婦の幸せな日々を。そしてあるいは、変わり映えしない日々の中で韓国アイドルにハマり、将来の不安も昔の嫌な思い出も全部どうでもよくなってしまった中年女性の軽やかな毎日を。

中高年の趣味活動がなぜ楽しいのか、理由はあげようと思えばいろいろあげられる。でもそんなことをしてもあまり意味がないと思う。中高年になって得た趣味時間は楽しい。それだけでいいのだ。

そしてそういった日々をつづるこの漫画を読んでいると、ますます趣味時間へのいとおしさが増してあんなことをやってみよう、こんなことをやってみようとやる気がみなぎる。心の中でぶつぶつ独り言を言いながら行動するのもいいものだ。この幸せはやっぱり、この領域に足を踏み入れた人にしか実感できないものだと思う。

若者だけでなく、ときどき同世代かそれ以上の人でもバカにしてくる人がいる。仕事で多忙、配偶者やパートナーと過ごす時間でスケジュールがうまっている、趣味より子供、あるいは孫というタイプ。そんな人に何か言われても、趣味への打ち込み具合が深くなれば深くなるほど、どうでもよくなる。

趣味は人生の宝。そのことを改めて実感させてくれる一冊だった。

(南 綾子)

【お知らせ】
いつもウートピをご愛読くださり、ありがとうございます。「50 to 100」ですが、サイト更新停止にともない、次回9月25日(月)の更新をもって連載を終了いたします。これまでご愛読・応援誠にありがとうございました。

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