料理愛好家の平野レミ(ひらの・れみ)さんによるエッセイ集『エプロン手帖』(ポプラ社)が2月15日に発売されます。
1995年に文化出版局より刊行された『平野レミのエプロン手帖』を大幅に加筆・修正のうえ、新たに原稿を加えて再編集。レミさんの、子ども時代の味覚の記憶から、両親や亡き夫・和田誠さんとの料理にまつわるおいしい思い出までをつづっています。
本の発売を記念して、ウートピでは同書の中から「牛肉ステーキのおいしい焼き方」を公開します!
牛肉ステーキのおいしい焼き方
私の父は面白いことをしたり言ったりするのが好きだった。オデコで卵を割って、幼い私を大笑いさせた。私がおなかがすいて、「お母さん、ご飯」と言ったら、父は「お母さんはご飯じゃないよ」と言った。
牛肉のことを「牛の死んだの」と言う。鶏肉のことは「ニワトリが死んだの」である。普通の家だと「気持ち悪いこと言わないで」と嫌われそうだけど、わが家では慣れてるから「牛の死んだの食べたいね」と父が言うと、母は「はいはい」と買い物に出かけた。
と、いうわけで、今回は牛の死んだの、じゃなかった、牛肉の料理を書きます。
牛肉のステーキは、肉の表面に塩胡椒して、熱したフライパンでジュッと焼き、焦げ目がついたら裏側を焼く、厚い肉なら側面も焼く。表面がしまって、おいしい肉汁が逃げ出さないことが肝心。鍋肌に醬油をくるっと回して、肉にバターをチョンとのせて、出来上り。切ると中がレア、というのが私は好きです。マスタードで食べる。
これにたれのバリエーションを加えると、さらに楽しい。まずにんにく醬油。にんにく薄切り六十グラム、昆布十センチ角、醬油四分の三カップ、みりん、酒各大さじ二を入れ、弱めの中火にかけ、沸いたら火をとめてさまして、保存壜に入れる。保存できて便利。
アンチョビソース。すりつぶしたアンチョビ十尾分(チューブのアンチョビでも)とサワークリーム大さじ四を混ぜ、牛乳大さじ四でのばす。
トマトソース。ケチャップにレモン汁、豆板醬、玉ねぎのみじんを適当に混ぜる。
次は和風のもろみのステーキ丼です。もろみ味噌に酒、みりん、醬油を混ぜて、ステーキ用の肉を十五分ほど漬け込む。フライパンに油をひき、もろみだれをぬぐって両面を焼いて適当に切り、ご飯にのせる。さっきのぬぐったたれに火を通して上にかけて食べる。焼いた野菜を添えると、さらにおいしい。
もろみステーキ丼
■材料
牛肉ステーキ用(150〜200g)4枚
もろみだれ(もろみ味噌1/2カップ強、酒大さじ4、みりん、醬油各大さじ2)
長ねぎ 2本
ししとう12本
油少々
ご飯4杯分
①もろみだれをよく混ぜ合わせ、牛肉にからめて15分漬けておく。
②ねぎはぶつ切りにし、ししとうと一緒に網焼きする。
③牛肉のもろみだれをぬぐう(焼くときもろみだれが焦げるから)。
④フライパン(フッ素樹脂加工がいい)に油を薄くひき、牛肉の両面を強火でサッと焼いて取り出し、食べやすい大きさに切る。
⑤同じフライパンに③で取り除いたもろみだれを入れ、軽く温める。
⑥丼にご飯を盛り、牛肉と野菜をのせて、⑤のもろみだれをかける。
(撮影:平野レミ)