『かしましめし』インタビュー第2回

ドラマの「散らかっていないOLの部屋」は不自然 おかざき真里さんに聞く、働き女子のリアル

ドラマの「散らかっていないOLの部屋」は不自然 おかざき真里さんに聞く、働き女子のリアル

心が折れて仕事を辞めた千春、バリキャリだけれど恋愛でつまずくナカムラ、恋人との関係がうまくいかないゲイの英治という”生きること”に不器用な男女3人がごはんを食べることで生き返っていく姿を描いたマンガ『かしましめし』(祥伝社)の待望の1巻が9月に発売されました。

これまで、広告代理店で働く女子のリアルが話題を呼び、ドラマ化もされた『サプリ』や派遣社員とネイリストの副業に奮闘する女性を描いた『&(アンド)』など、都会で働く女性の恋と仕事のリアルを鋭く切り取りってきたマンガ家のおかざき真里さん。

『かしましめし』の誕生秘話、働く女性のリアル、「生きることとは?」など3回にわたって話を聞きました。

【前回は…】「上京してやっと息ができた」 血縁でも家族でもない“つながり”の可能性

(C)おかざき真里/祥伝社フィールコミックス

(C)おかざき真里/祥伝社フィールコミックス

会社は「失敗をさせてもらえない」

——おかざき先生は新卒で広告代理店「博報堂」に入社されたんですよね。

おかざき真里(以下、おかざき):はい。いまだに当時の上司と飲みに行くんですが「おかざきはめちゃくちゃうちの会社に合ったんだな」って言われます。

——確か上司の方もマンガを描くのを応援してくれたとか?

おかざき:そうなんです。直属の上司だったんですが、入社した時に言われたのが「マンガをやめるな」だった。その後、連載を持つことになって両立は無理だなと思って「会社を辞める」って言ったら、またしてもその上司が「辞めない方法を探そう」って言ってくれて……。忙しさは変わらないけれど、一人でできる小さいクライアントを担当させてくれた。足を向けて寝れない存在です。

——えー、普通は「本業に集中しろ」って言いますよね。なぜそんなことを言ったんだろう?

おかざき:会社の仕事って自分の思うとおりには作れないですよね。特に代理店のようなクライアント仕事は。だから、会社の仕事とは別に1から10まで自分の気が済むまで、思い通りにカタチにできるものを持っておけって言われたんです。それを磨くことが本業のクオリティを磨くことに役立つからって。

——まさに理想の上司ですね!「思い通りにカタチにできるもの」って自分が自由に表現する場ってことなんでしょうか。

おかざき:会社の仕事って自由にできない分、システムになっているからある意味「失敗をさせてもらえない」という部分もあるのかなって。

——言われてみれば……。もちろん重大な事故につながる場合もあるし、そうならないようにする必要があるという一方で、だからこそ致命的な失敗や事故が起こる前に、誰かが止めてくれる仕組みが作られているというのはあるかもしれない。

おかざき:そうなんです。失敗がないようにするためにチェックのシステムもあるし、会社の名前で世の中に出るから何段階も確認のステップがありますよね。

——確かに。面倒くさいなって思うけれど、その工程があるから助かっている部分もありますね。

おかざき:まあマンガもそんなに失敗しないシステムになってはいるんですが、例えば売れなかったら、失敗から学ぶというか、「なぜうまくいかないんだろう?」と考えることになるし、それは大事なことだと思うんです。

だから、会社員としての仕事のほかに自分の名前で勝負できるものを持たせてもらえたのはありがたかったですね。

チリ一つない部屋で「ほっとする」はありえない?

——『サプリ』はおかざきさんの代理店時代の経験が色濃く反映されている作品だと思うんですが、ミナミ(主人公)の散らかった部屋を見て「あー!これこれ」って思いました。

ドラマやCMで見る「OLの部屋」って都会的で洗練されているんだけれど、散らかっていない。「素敵だなー」と思う一方で「こんな部屋あるわけないだろ」って思っちゃう。

おかざき:会社員時代はCMを作る側だったんですが、例えば化粧品のCMで部屋でほっとするシーンを作りましょうっていう時に、家に帰ってほっとしたいのに、コートがきちんとハンガーにかかっていて床の上に何も落ちていない状態で「あー、ほっとするー」というのはありえないよなと思っていました。でも、クライアント側の立場に立ったらそうはいかなくて……。

——そうですよね。

おかざき:『サプリ』も連載当初は汚い部屋を描くと「そんな汚い部屋なんて」という反応もあったんです。

「えー、そんな完璧な生活をしているんだー」って思いながら、でも私は違うし、まわりの友だちも家に行くと散らかったものをササっと片付けながら「そこに座ってて」という感じだったので、服がその辺に散らばっているのもそれはそれでリアルだし、それをリアルと思ってくれる人はいるはずと思って描いていました。

——なるほどー。偉そうな言い方になってしまいますが、「おかざき先生はわかっている!」と思いながら『サプリ』を読んでいました。

「激励」のマンガを描いていきたい

おかざき:「叱咤激励」という言葉があると思うんですが、私は「叱咤」はできないなあと。ずっと「激励」のマンガを描きたいと思ってました。

そういう意味で言ったら、部屋がキレイだったり、すごくきちんとした人を描くのは「叱咤」のほうなのかなって。

——そうですね。

おかざき:あくまでも私の場合なんですが、きっちりした人を見ると辛くなるんです。だからと言って、だらしなさを描くのが激励というわけではないし、奨励はしていないんですが、「別にそれでいいんじゃない?」っていう感じを描きたいなと。

——その辛くなる感じ、わかります。ウートピも働く女性に読んで元気になってもらいたいという方針で記事を日々掲載しているんですが、一歩間違えると説教くさくなっちゃうこともあって。読者を追い詰めてしまわないようにしないなと思っています。

おかざき:わかります(笑)。私も自分のマンガが「叱咤」のほうにいくと嫌だなあと思っていて。マンガって一人で読むもので「こうあるべき」って言うマンガももちろんあってもいいと思うけれど、私はそうじゃないほうを描いていきたいなあって。

前回お話した、親と自分の関係もそうだけれど、まわりから「こうすべき」って言われなくても本人が一番わかっているんですよね。

——そうですね。ウートピの読者もそうですし、まわりの働いている女性や友人を見ていても真面目で優秀な女性が多い。それゆえに無理しちゃってしんどい部分もあるのかなと思うこともあります。

おかざき:きっと親の期待も背負っちゃって、それに応えてきた人生なのかな。

——『かしましめし』の千春も、あこがれの会社に入って頑張っていたけれど、期待に応えようと無理しすぎて辞めてしまう。

おかざき:『かしましめし』に出てくる3人は、世間と相容れないことでくじけたり挫折したり辛い立場だったりっていう人たちなんですよね。

『サプリ』は自分の信念に従って、そのまま自分の道をまっすぐに行く人の話だったとしたら、『かしましめし』は、一度折れちゃった人の話なんです。

——なるほど。次回は『かしましめし』を描くことになった経緯について詳しく聞かせてください。

第3回は11月17日掲載です。

(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)

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