犬山紙子さんインタビュー 後編

すれ違い、イライラ…脱却のカギは、コミュニケーションに“コスト”を掛けること【犬山紙子】

すれ違い、イライラ…脱却のカギは、コミュニケーションに“コスト”を掛けること【犬山紙子】

3月に発売された犬山紙子さんの新著、『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』(扶桑社)。3年をかけて何組もの夫婦にインタビューを行った犬山さんが、その鋭い視座で見出した100にもわたる夫婦問題解決のためのヒント集は圧巻です。

夫である劔樹人さん(以下、つるちゃん)と現在進行形で夫婦関係を構築中である犬山さんが、取材を通してもっとも心に残った夫婦のエピソードとはどんなものだったのか? 実際にお二人が直面した困難も踏まえつつ、じっくり伺いました。

どんな夫婦関係も現在進行形であり多面的である

——妻の妊娠中に夫の不倫が発覚した、宮崎謙介さんと金子恵美さん夫妻のインタビューはとても興味深かったです。男性の「育休議員」として注目されていたのが一転、「不倫議員」と報じられるようになって。もう5年近く前の話ですがお二人の名前を聞くと今でもあの騒動を思い出します。

犬山紙子さん(以下、犬山):私も当時は宮崎さんのことを痛烈に批判しました。ところがお会いしたら、びっくりするくらいラブラブなご夫婦だったんですよ。お互い恋人のような感じで……。話を伺うまで、私は勝手に「あんなひどいことをされた金子さんはきっとすごく傷ついているはず。なぜ離婚を選ばなかったんだろう」と思っていたんですが、むしろあの修羅場を経て、二人は味方同士になっていたんですよね。

——不倫騒動をきっかけに、味方同士に……。

犬山:「夫VS妻」ではなく「夫婦VS世間」という構図だったことが大きかったようです。一夜限りの不倫だったとはいえ、宮崎さんはもちろん妻の金子さんも、世間からものすごいバッシングを受けたとか。宮崎さんは、一時は死のうとするくらいに病んでしまった。そこで二人は強く支え合って、絆をより深めて行ったみたいですね。

個人的には、不倫を通して関係性が強くなるというのはとても信じがたいことでしたが、やっぱり外からは見えてこないものが夫婦関係にはあるんだな、としみじみ感じました。もちろん不倫なんて経験しないに越したことはないですが、それを経験したからこそ新しい景色が開けたというか。

——そうですね。世間やメディアってどうしても一面的な切り取り方をするから、ますます夫婦関係の中にある多面性って見えてこない。

犬山:人を多面的に捉えるのってすごくコストが掛かるから、どうしても私たちはシンプルに定義しがちなんだと思います。もしかすると「一面しか見たくない」という想いがどこかにあるのかもしれないですしね。「あそこの夫婦はこういう関係性に違いない」みたいな。

——犬山さんご自身も、世間にそういう切り取られ方をされることもあるのでは?

犬山:私個人のことも、発信した言葉についても、一面でしか捉えられていないと感じることはありますね。だからこそ、この本の中ではそのイメージを崩したいと思いました。私たち夫婦も円満であると思われていたりしますが、実は私は不安症、つるちゃんはうつ症状を抱えていて。ものすごく仲良しだけど問題もある。それを一緒に乗り越えようと日々もがいていることを、誠実に伝えなければフェアじゃないと思ったんです。問題を乗り越えることができた夫婦もいれば、私たちのように現在進行形の夫婦もいるんだよ、と。

新幹線での通報騒動を乗り越えて

——確かに夫婦関係って常に現在進行形ですもんね。犬山夫妻のエピソードとして、つるちゃん氏がお子さんと一緒に新幹線に乗っていたところ、誘拐犯と間違えて通報されたというエピソードもありましたね。

犬山:去年の夏、つるちゃんが娘と二人で長野に帰省した際に、新幹線で起きた出来事だったんですけど。当時娘のイヤイヤ期が本当にすごくて、座席で泣いていたところ、前に座っていた男性に「デッキに行け!」と怒鳴られて、二人でデッキに出たんです。そこでもまた、夫が額の汗を拭っただけで「違う!」と言ってまたギャン泣き、みたいな。それを見て様子がおかしいと感じた方が警察に通報して、つるちゃんが事情を聞かれるという……。

——当時の状況を犬山さんがリアルにツイートされているのを見て、心配していました。おそらく犬山さん、つるちゃん氏それぞれに辛い経験だったのではと想像しますが、どんな風に励ましあって乗り越えたのでしょうか。

犬山:まず私は、彼の心をどうやってケアするべきかを考えましたね。つるちゃんは強がりな一面があるので、傷ついていない振りをすることは予測できたので……。実際に当日は、何事もなかったかのような顔で帰宅して、すぐに娘をお風呂に入れに行ってくれたんです。私はその間、とにかく丁寧にヒアリングして、なんとか元気づけなくては……と悶々としていました。

結果的には、ハロプロの力を借りることになったんですけど(笑)。「傷ついてはいると思うけど、まあまあハロプロでも見ようか」と。それでなんとか元気になってもらって、今ではもうすっかり回復しています。

——推し(ハロプロ)の力は偉大ですね。通報は衝撃的でしたが、通報された方もきっと勇気のいる行動だったのでしょうね……。

犬山:そう思います。児童虐待防止の活動をしている立場として、通報者を非難したように受け取られることは絶対に書かないと決めていました。通報するという行動はとても大事なことなので、否定的な発信は避けるべきだと。つるちゃんも物を書く人なので、そこは共通認識として擦りあわせましたね。通報してくれた方は、娘を守ろうとして行動してくださったと思うので、そこには感謝しています。

夫婦のコミュニケーションにコストを掛ける必要性

——連載をしていた3年間のあいだに、世の中やご自身について変化を感じたことはありますか?

犬山:世の中的には、徐々にですが「夫が家事育児をまったくしてくれない」というネガティブな声だけでなく、「夫が“手伝う”のではなく“分担”してくれている」という声を多く聞くようになったと感じていて、それはすごくいいことだなと思っています。

個人的な変化としては、夫婦の関係に自信を持てるようになりました。以前まで、私の不安症とつるちゃんの鬱症状がぶつかった夜なんかは、「私の存在が夫にとって悪影響なのでは? ということは離婚したほうがいいのかも」なんて悶々と考えてしまうことがあったんですけど、最近は基本的にでんと構えられるようになったかな。「しんどそうだな、じゃあ慌てず程よい距離感を」みたいな。これまでテンパってしまっていた感情を俯瞰で見て冷静に対処できる。肝っ玉が身についた感じですかね。あとは、夫婦のコミュニケーションに前よりもコストを掛けるようになったかな。

——コミュニケーションにコストを掛ける、とは?

犬山:この本の中で、水谷さるころさん・野田真外さん夫婦が話してくれたことの中に、「ケンカになるのは、どちらかの人格に問題があるからではなく、コミュニケーションに齟齬があるから」という言葉があって。コミュニケーションとか話し合いってすごくコストが掛かるから、そこを避けて通ってしまうことって多いじゃないですか。

でも、例えばイライラしやすい相手をただただ受け流し続けるより、なぜイライラするのかを考えてパターンを客観的に分析するほうが、コストをかけているようで実はコスパがいい。

イライラしやすい人って要するに「察してちゃん」なんですよ。「どうしてわかってくれないの」「わかるわけないでしょ」といったすれ違いを延々と繰り返すより、そこから脱却してしまった方が夫婦関係はよくなっていきますよね。

私自身がイライラしやすい性格だったので、このヒントがとても刺さりました(笑)。夫婦関係に限らず、人間関係ってメンテナンスが大事。取材を通して、そんな風に意識が変わって行ったと思います。

*このインタビューはオンラインで行われました。
(聞き手:安次富陽子、構成:波多野友子)

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