東日本大震災の発生に伴い、大きな危機に見舞われた福島第一原子力発電所。その中では何が起こっていたのか——。映画『Fukushima 50』(フクシマフィフティ/若松節朗監督)が3月6日(金)に全国の劇場で公開されました。
本作で主演を務める佐藤浩市さんと、佐藤さんの娘を演じた吉岡里帆さん。世代の違う人たちと芝居をするときに心がけていることについて聞いてみました。
「かもしれない」で考える(吉岡)
——働く人の悩みのひとつに「世代間ギャップ」がありますが、おふたりは世代の違う役者さんと一緒にお芝居をするときに現場で心がけていることはありますか?
吉岡里帆さん(以下、吉岡):知らないことを素直に聞くようにしています。先輩方は多くのことを経験していらっしゃるので、その話を教えていただくだけですごく楽しくて。
本作で母親の役だった富田靖子さんとは「この唐揚げが美味しい」とか「座布団は2枚にしたほうがいい」とか。少しほっこりするような話をしていました。
——吉岡さんは、自分から相手の懐に入っていくタイプですか?
吉岡:無理に入っていこうとはしないですね。今回のように、難しい題材の作品だと現場に緊張感があるので、無理にコミュニケーションを取ろうとは思わず、ムダなおしゃべりはしないようにしています。
話したい時には、まず話しかけて相手の反応をみます。もしかしたら体調が悪いかもしれないし、忙しいかもしれない。「かもしれない」をいつも考えるようにしています。
世代が変わっても良い作品に携わる喜びは変わらない
——佐藤さんは若い世代の方とお仕事をするときに気をつけていることはありますか?
佐藤浩市さん(以下、佐藤):時代が違うので、押し付けがましくならないようにというのは意識しています。僕が若かった頃は、かなり厳しい先輩もいらっしゃった。後になって感謝することもあったけれど、だからと言って同じようにしていいかというとそれは違う。ただ、それを反面教師にしてただ優しくすればいいかというのも違って。
やはり「個人」ですよね。この子には厳しく言うほうがいいな、厳しく言ってはいけないな、と。よく見極めることなのだと思います。こちらの一方的な接し方では通用しないから。
——いつ頃からそう思うようになりましたか?
佐藤:正直なところ、意識するようになったのはここ数年かな。でも僕は思うのだけれど、情がなければ怒らないんだよね。面倒なことを避けたいのならば「何も言わない」ほうがいい。だけど情があると「多少はキツい言い方をするけどさ……」と伝えたくなるでしょう? その後のことはその子が……。その「子」と言ってしまうのはよくないね。その「人」が何かを感じてくれるならありがたいと思っています。
——そんなふうに常に意識をする佐藤さんの先輩力を見習いたいです……! 今回、若手の方から何か刺激を受けたりはしましたか?
佐藤:そうですね……。刺激とは違うかもしれませんが、本作の初号試写には中央制御室のメンバーも来ていました。試写室から出てくるみんなの顔を見たときに「やってよかった」と思いましたね。僕を見つけたときに「この作品に参加できてよかった」と、目が語っているんです。それが嬉しかった。
世代が変わっても良い作品に携わることができた喜び、そういう気持ちは変わらないのだな、と。やっぱり役者といっても仕事だからさ。生活のためにお代をいただくという側面は少なからずある。でもそうではないところで、自分の存在理由のようなものを「映画」という現場が教えてくれる。それを顔が、目が、語っているのを見るとホッとするし、どんなに時代が変わっても変わらない、普遍的なものが確かにあるなと思います。
(取材・文:安次富陽子、撮影:大澤妹)