高血圧だと診断された、血圧が高い家系なので心配……など、高血圧について読者から悩みの声が続々と届いています。そこで、日本臨床内科医会常任理事で同会認定専門医の正木初美医師に、高血圧対策について連載で聞いています。
第1回(リンク先は文末参照。以下同)は、高血圧と診断される基準について、第2回は病院や家庭で測定したときに数値が違う理由について、第3回は家庭で血圧をうまく測る方法について、第4回は高血圧が体にどう悪いのか、第5回は生活習慣の改善と薬の種類について、第6回はヒートショックについて、第7回は食事の減塩法について伝えました。今回は、検査法や薬について、読者の質問にお答えします。
Q1 ストレスがたまると血圧が上がる、怒ったら血圧が上がるとよく聞きます。本当ですか?
正木医師:本当です。第5回で紹介した、高血圧対策のための「生活習慣の改善の具体的な指針」でも、「情動ストレスのコントロール」という項目があります。
ストレスや怒りでなぜ血圧が上がるのかというと、血圧は自律神経が調整しているからです。自律神経には緊張や興奮をしたとき、活動的なときに優位になる交感神経と、リラックスしているときや安静時に優位になる副交感神経の2種があります。この2つの神経は互いに影響し合って、血圧をコントロールしています。
そして、交感神経が優位のときには血圧は上昇し、リラックスしているときには下降します。そのため、ストレスがたまっている緊張時や、怒っている興奮時は血圧は上がるのです。「感情的にキレたら血圧が上がる」と言われるのはそのためです。
できるだけストレスを避けて、感情をコントロールし、ゆったりとした気分で過ごすことは血圧の安定につながります。
Q2 生活習慣の改善の中に、「毎日30分以上または週180分以上の運動」がありました。運動をすると血圧が上がるのではないですか?
正木医師:運動をすると、一時的に血圧は上昇します。しかし、運動後には下がり、リラックスしていると安定します。脈拍も心拍も一時的に上昇して、その後は落ち着いてくるのと同じように血圧も変化するわけです。
適切な運動とは、1週間のトータルで1,000~1,500キロカロリーを消費する程度となります。具体的には、「速歩、ステップ運動、スロージョギングなどの有酸素・持久性・動的運動」に、「筋力を維持するためのレジスタンス運動(筋肉にくり返し負荷をかける)」、あるいは「関節の可動域や機能の向上のためのストレッチ運動」を補助的に組み合わせることが推奨されています。
運動の強さは、軽い・普通・ややきつい程度までにとどめましょう。これを続けると、筋肉に酸素や栄養を運ぶために血管が広がり、また、Q1で話した自律神経の調整で、徐々に血圧が下がります。
また適切な運動の継続は、高血圧のほか、生活習慣病の脂質異常症、糖尿病、肥満などでも同様に、悪化していると考えられるホルモンの働きの改善に有用です。
注意として、きつい運動は運動中に血圧が上昇しすぎる可能性があること、運動事故にもつながりかねないので避けてください。また、運動の初心者は、時間も消費カロリーの目標も、運動に慣れてきたときの目安と考えましょう。最初は、軽め、短めの運動から少しずつ慣れていってください。
Q3 高血圧の薬(降圧薬)は、一生飲まないとなりませんか? 血圧が下がってきたときには停止してもいいですか?
正木医師:血圧は日々刻々と変動しています。いっとき下がっても、またすぐに上昇することはよくあります。そのため、自己判断で薬を停止したり減らしたりすると、急に上昇して危険な場合もあります。
第5回で話したように、高血圧は自覚がない病気です。そのため、薬によるコントロールはとても重要です。薬の量や飲み方、減らす、停止する場合は、必ずかかりつけ医に相談してください。
ただし、降圧薬は、「一度飲みだすと一生飲み続けなければいけない」と考える人が多いようですが、中止できる場合もあります。Ⅰ度の高血圧(140~159/90~99mmHg)で薬が1剤で低用量の場合では、20~30%の患者さんが降圧薬をやめることができています。
また、生活習慣の改善によって血圧の数値が安定した場合や、高血圧による腎臓機能や心肥大など臓器の障害がない場合なども薬の停止や減量になる場合があります。
Q4 高血圧と診断されたときに、心電図や尿検査もしました。なぜでしょうか?
正木医師:高血圧がなぜ体に悪いのかについて第3回でお話ししたように、血圧が高いということは、心臓、脳、腎臓に深刻なダメージを与える場合があります。そこで、高血圧と診断された場合は、現時点でそれらの臓器がどれくらいの影響を受けているか、すでに合併症が進んでいないか、また高血圧の原因となる腎臓やホルモンの異常がないかについて、検査をする場合があります。
主な検査には、心電図、尿検査のほか、心臓エコー、胸部レントゲン、血液検査などがあります。また場合によっては、動脈の柔軟性を計測する、脈波伝播速度(PWV)などの検査、脳に向かう動脈の状態を調べる超音波検査なども行うことがあります。
Q5 高血圧は自覚がない病気で、患者数が多いと聞きます。現状はどうなのでしょうか?
正木医師:高血圧は日本で患者数がもっとも多い病気です。現在約4,300万人の患者さんがいること、そのうち適切に血圧がコントロールされているのは、わずか約1,200万人程度と推計されています。
では、残り3,100万人はどういうケースなのかと考えると、治療をしても目標どおりに改善していない人と、自分が高血圧であると自覚がない人、知っていても治療されていない人たちが含まれます。医療関係者はこの状態を常に案じています。
いま、血圧計を設置している役所やドラッグストア、店などが増えています。血圧計を見かけたら計測してみる、とくに親が血圧が高い場合は意識をして血圧を測り、第1回で紹介した指標を目安に、少しでも高いかなと思った場合は内科を受診してください。
聞き手によるまとめ
ストレスや怒りは血圧を上昇させること、適切な運動の具体的な方法と注意点、血圧がコントロールできたら薬がいらなくなる場合もある、高血圧と診断されたら、心臓のエコーやレントゲン、尿検査を受けることがある、街で血圧計を見かけたら測定して自分の血圧を認識しよう、ということです。どれも意識してセルフケアに努めたいものです。
(構成・取材・文 藤井 空/ユンブル)