「赤の他人のおっさん」と観る恋愛映画とチョビ髭の君【大木亜希子】

「赤の他人のおっさん」と観る恋愛映画とチョビ髭の君【大木亜希子】

先の見えない大変な日々が続いています。会社にも行かず、友だちにも会えず、うちの中にいると、つい”ひとり”になってしまった気がして、寂しい気持ちになることも。そこで、ウートピは「1往復エッセイ」を始めます。気になるあの人へ「最近、どうですか?」とたずね、「こちらはこんな感じです」と回答する。そんなささやかな現状報告と、優しくて力強いメッセージをお届けします。

今回は、以前ウートピで対談を行ったお二人が登場。テキストレーターのはらだ有彩(はらだ・ありさ)さんから、ライターの大木亜希子(おおき・あきこ)さんにこんな質問が届きました。

【大木さんへ】

■質問1
私はルームシェアをしているのですが、昨今の「同居している人以外と会わない」という感染症対策のために、ひたすらルームメイトと二人きりの世界で生きています。こうなってくると関係の肩書はすべて吹っ飛んでしまって、「運命共同体」のようなものだと最近は感じているのですが、亜希子さんのお家ではどうですか?

■質問2
外に出て人に会うということが制限されている昨今ですが、私はこれはいわゆる「自分のためにおしゃれとか美容していると言ってみたって、結局ちやほやされたいからでしょ~」みたいなアレにカウンターパンチするチャンスなのではと思っています。亜希子さんはこの先もう当分人に会わないと決まったら、どんなおしゃれや美容をしますか?あるいはどんな風にしませんか?

どちらかを選んでご回答いただけると幸いです。

同居人のササポン(59)と恋愛映画

はらださん、濃厚な2つのご質問、ありがとうございます。どちらか選んで回答するということでしたが、選べなかったので2つとも回答させていただこうと思います。

先日ワタクシ、同居人のササポン氏(59歳・赤の他人のおっさん)と、ウッカリ恋愛モノの映画のDVDを夕食後に観てしまったんですよ。自粛中で、お互い外に出られなかったものですから。

その映画は、トニー・ビル監督の『忘れられない人』(93年)という作品で、公開当時は「純愛カテゴリ」で括られて人気のあった作品らしいです。

簡単に、あらすじをご紹介します。

主人公は、重い心臓病を抱えたアダムという青年。彼は、同じ職場で働く女性に恋心を抱きます。ある時、彼女の身に危険が迫っていたところを助けたアダム青年は、彼女から感謝され、晴れて両思いになりイチャイチャ♡ しかし、終盤は彼の心臓病が悪化して二人は引き裂かれ……という王道な流れなのですが、途中から、まービックリしました。

ところどころ、物語に違和感がアリアリなんです。

たとえば、アダム青年がヒロインに対して超ストーカー気質だということ。

ある時は彼女の部屋に忍び込んでプレゼントを置いて去ったり、またある時には、彼女の寝顔を見るために自宅に侵入したり。さらに、バイト先から帰る彼女を「心配だから」という理由で、頼まれてもいないのに尾行する…。

今とは価値観や文化が違う時代だったとはいえ、ワタクシ的には衝撃で、リビングで観ながらツッコミを入れまくっていたんです。

「アダム〜!アウト〜!」(ガキ使風)

とか、

「はい。今のセリフ、ドン引きです〜!」

とか、野次を飛ばしまくって。

しかし、そんな中でもササポンは淡々と観ていらっしゃる。

そんな中、とくに困ったのはラブシーンのタイミングです。

王道のラブストーリーですから、やっぱりあるんですよ。お決まりのシーンが。

マリサ・トメイ演じるキャロラインというヒロインが、アダム青年を優しく抱きしめてベッドイン。

「私には、アナタの孤独が分かるわよ」

なんて言いながら、美しいバストを露わにするシーン(※背中越し)。

ウヒャー!!!

思わずワタクシ、食卓で父親と一緒にメロドラマのキスシーンを観てしまい、気まずい経験をした学生時代を思い出してしまいました。

普段からササポンとは良い意味で距離がありますが、こうした緊急事態において予期せぬ「性の匂い」をキャッチし、思春期みたいにモヤモヤしました。

「運命共同体」とまではいかなくても、やはり同居人がいると「自宅単位で世界から切り離されて孤立した感覚」は、ありますね。

ハイ。

自粛期間が始まる少し前、「チョビ髭の君」と出会い

とはいえ、恋人同士ではないので、基本的に我々は別々に暮らしております。

具体的に言えば我が家は、1階と3階にそれぞれの自室があり、顔を合わせずに過ごすこともしばしば。

ワタクシ自身は、1階の部屋で原稿を書いたり音楽を聴いたりして、この未曾有の事態を過ごしているのですが……。

そうなってくると、オシャレって本当にしませんねぇ。

自粛期間が始まる少し前、ワタクシ、300億年ぶりに「素敵だなぁ」と思う男の子に巡り合ったんです。

会食で隣の席になった方なのですが、あまりにも素敵すぎて口をあんぐり開けてしまい、阿呆のように出された食事をボーッと食べ続けてしまいました。

彼は髭が生えていた方だったので、仮に「チョビ髭の君」としましょうか。

その「チョビ髭の君」と、もう少し仲良くなりたい。

彼が好きそうなオシャレをして、女性として新しい一歩を踏み出したい。

そう思っていた矢先に、この状況です。

仕方がないと分かっていても、「また会いましょうね」の約束もへったくれも、ヘチマもありません。

いみじくも先日、私の知り合いの作家・ウイさんがご自身のTwitterのなかで

「コロナの可視化できない被害のひとつに『あとひと押しだった』はずの数々の恋愛がありますよね。」

と投稿されて話題になっていらっしゃいましたが、ワタクシ自身も首がもげるほど頷いた一人でございます。

トホホ。

でもね、はらださん。

ワタクシ、もうこんな状況だからこそ「誰のためでもなく自分のために成長しよう」と誓いました。

成長した先に「チョビ髭の君」がいてくれたら良いけれど、コロナきっかけで疎遠になってしまったらそれまでだなって、今は心からそう思っています。

心の中に静寂が訪れている、この感じ。

毎日、否応なしにスッピンの自分と向き合っていくうちに、なんだかその境地に到達してしまいました。

さらに現在、ワタクシの心の内部には「あえて他人に合わせない」という感覚も急激に芽吹きつつあります。

昨日までと違ってしまった世界をゴキゲンに生き抜くため、今日もワタクシは誰のためでもない、自分のためのオシャレに挑戦してみたいと思います。

本当の自分は、どんなメイクがしたくて、どんな髪型がしたくて、どんな生地の洋服が好きなのか。

恥ずかしながら、これまで30年間、ずっと知らずに過ごしてきた気がしています。

こうして新しい発見をしながら、出来るだけ美しく生活を営むことが、この憎きウイルスに対するせめてもの抵抗なのかもしれません。

はらださん。

しばらくお会いできない日々が続いておりますが、いつか太陽の下で心弾みながら歩けるようになった頃、軽快にお茶をしばきましょう。

絶対にしばきまくりましょう。

それでは、ごきげんよう。ラブ。

*大木亜希子さん、はらだ有彩さんありがとうございました! 次の1往復エッセイは、大東駿介さんと菅原さくらさんが登場予定です。
(企画:安次富陽子)

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