89歳の祖母と沖縄で暮らして気づいたこと【山本ぽてと】

89歳の祖母と沖縄で暮らして気づいたこと【山本ぽてと】

先の見えない大変な日々が続いています。会社にも行かず、友だちにも会えず、うちの中にいると、つい”ひとり”になってしまった気がして、寂しい気持ちになることも。そこで、ウートピは「1往復エッセイ」を始めます。気になるあの人へ「最近、どうですか?」とたずね、「こちらはこんな感じです」と回答する。そんなささやかな現状報告と、優しくて力強いメッセージをお届けします。

今回は、ライターで東北芸術工科大学で講師を務めるトミヤマユキコ(とみやま・ゆきこ)さんから、友人でライターの山本ぽてと(やまもと・ぽてと)さんにこんな質問が届きました。

【山本さんへ】

山本さんこんにちは。新型コロナの影響で沖縄滞在が長引きまくっているらしいですけど、そちらの暮らしはどうですか?あと、あなたの書いたリモートワークに関する記事*がとてもおもしろかったので、その後なにか新たな発見があったら知りたいです。

*在宅ワークビギナーズのためのちょっとしたコツ(意識の低い人用)|山本ぽてと

89歳の祖母と沖縄で過ごすことになった理由

noteの記事を読んでいただきありがとうございます。あのように自分の仕事術を書くのは、初めてでした。ノウハウ本が巷で大ヒットしているのを、いつも羨ましく眺めていたので、もしバズりまくってnoteでサポートしてくれる人が増え、ビルを買えるほどになったら、税金をどうしようかと心配していたのですが、杞憂でした。ですが記事を読んで「励まされた」と言ってくださる方が多かったのは嬉しかったです。

想定外だったのは、あの記事を書いたことにより、自分が在宅ワークを極めてしまったような錯覚と、なにか成し遂げてしまったような満足を感じてしまい、仕事の効率が1週間ほど悪くなったことです。自分の調子の乗りやすさに、自分でも驚いています。

そうそう、仕事の方はほとんど変わりなくやっているのですが、今は沖縄にいます。重度の花粉症なので、3月中旬から4月上旬はいつも地元の沖縄に帰っていました。東京を発つときには片手で数えられるほどだった東京の感染者が、この1か月のあいだにどんどん増えていき、予約していた飛行機もキャンセルになり、しばらく沖縄で過ごすことになりました。

昨年の12月に祖父が亡くなり寂しいというので、今は89歳の祖母と住んでいます。朝は8時に起きて、祖父の写真に挨拶をして、お茶と水を変え、祖母と一緒に線香を2本あげ、祖母のお祈りの言葉を聞きます。早口の方言なので、何を言っているのか正確にはわかりませんが、

「コロナが大変ですけど、おじいさん、お守りください。うーとーとー」

といった内容だと思います。「うーとーとー」はお祈りをする時に使われる方言です。少し長めのお祈りを、ぼおと聞いていたら、「頑張るぞ!」といきなり祖母が言うので、すかさず「おー!」と言わなければいけません。ここは照れずにやりきることが大切です。

適当なワイドショーに心が軽くなる感覚

朝ご飯を準備して、ワイドショーを見ながら食べ、ちょうどいい頃に、自分用のブラックコーヒーと祖母用にカフェオレを入れます。ワイドショーは本当に適当なことばっかり言っているのですが、祖母は楽しそうに観ています。この前も、某IT社長と女優が復縁したと言っていて、いったい誰がそんなことに興味があるのかと思いましたが、祖母の目は嬉しそうに輝いていました。そうやって一日を過ごしていくと、あっという間に時間が過ぎていきます。

友達や親戚とお喋りして、スーパーに買い物に行くことが楽しみである祖母は、コロナで誰とも会えずどこにも行けなくなってから、どんどんぼーっとすることが増えて話も混濁するようになってきました。ついでに歯医者に行く回数も減ってきたので、「洗面台で歯が欠けた」と言っていました。(その次の日はさすがに歯医者に行きました)

私にとって東京にいることは、親戚の老いや病を直視しなくてもいい特権であり、仕事に集中することのほうがずっとずっと気が楽なのだと思います。適当なことを言うから嫌っていたワイドショーやゴシップに、私はずっとずっと助けられています。

尻尾の潰れたヤモリ、私が踏んだもの

ある日の夜、ヤモリが廊下にいました。よく見ると、足と尻尾の一部がぺちゃんこになっている。私が踏んづけてしまったのだと思いました。スリッパをはいていたので気がつかなかった。動いていたので、窓を開け、ベランダにそっと置きました。インターネットで調べてみると、ヤモリの寿命は10年ほどあって、尻尾は傷ついてもまた生えてくるけれど、それは元のものとは違う歪なものだと書いてありました。次の日の朝、明るい緑のペンキで塗られているベランダに、ヤモリは昨日の形のまま動かずにいて、私は祖父の写真に手を合わせるように手を合わせました。

次の日の夜、歯を磨こうと洗面台の前に立ったら、かかとの裏側で小さくて固い何かを踏みました。かかとについているそれを手で取ると、小さく白い石のような、くぼみが独特の形をしています。祖母の欠けた歯だと気づきました。残しておいたらくっつけられるのではないか、と少し思いましたが、そんなわけはないので、ゴミ箱に捨てました。

ライターとしての私の仕事は、沖縄にいても内容とやり方はほとんど変わらず、仕事は多少減ったものの、実家にいるので、幸いなことに食べるものにも困りません。在宅ワークができることそのものが恵まれているのかもしれない。そういう幸せによって、何かを踏んづけているのではないか、と怖くなります。そして踏んづけてしまったものはもう戻らない、戻っても歪なものになってしまうのではないか。そんな世界の節目にいるのではないか。とはいえ、私だって何かあったら一番はじめに踏んづけられる、弱い立場のフリーランスなんですけどね。

というわけで、在宅ワークに関する記事を書くのは、すごく難しいことでした。それでも私が私の書きたいものを書くこと、これだけは自粛してはいけないなと思いました。これからどうなるのかは分かりませんが、なんか腹がすわったような気がします。

そうだ、トミヤマさんはよくTwitterなどで「一日中パジャマで過ごす」などと書いていますが、朝に着替えるのは、在宅ワークの基本ですよ。さもなくば、パジャマから新しいパジャマに着替えるだけのパジャマ人間になってしまいますよ。

パジャマ人間でもいいですから、なによりもどうかお元気で。また会いましょうね。

次回は、山本さんからトミヤマさんへ

トミヤマさん 

トミヤマさん、お元気ですか? 東京はいま、どのような感じでしょうか。なかなか外出できないので、漫画を読みたいなぁと思うのですが、開放感があって楽しい気分になる、おススメの漫画があれば教えてください。人や動物が殺されたりしないと嬉しいです。

*トミヤマユキコさんからのお返事は、5月18日(月)公開予定です。
(企画:安次富陽子)

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