STAY HOME で変わったこと、気づいたこと【小島慶子】

STAY HOME で変わったこと、気づいたこと【小島慶子】

「「πな人生を生きていく。」」
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恋のこと、仕事のこと、家族のこと、友達のこと……オンナの人生って結局、 割り切れないことばかり。3.14159265……と永遠に割り切れない円周率(π)みたいな人生を生き抜く術を、エッセイストの小島慶子さんに教えていただきます。

第29回は、小島さんに「最近、どんなことを考えていますか?」と聞くことに。コロナ禍によって、東京に残りオーストラリアに住む家族と離れて暮らしている小島さん。ひとり「STAY HOME」をしていて気づいたこととは——?

鰻の寝床に薔薇を迎えて

こんなに長い間自宅で過ごしたことはない!とテレワーク中の誰もが思っているでしょう。そろそろ自分なりのルーティンもできてきた頃ではないでしょうか。気分がどんよりすることもあるかもしれませんね。だけど今は、自分とみんなの命を守るために、STAY HOMEです。

私も東京のワンルームで一人、巣篭もり中。部屋にいるのが好きな性質で、実はさほど苦痛ではありません。どちらかというと放っておくとヤドカリのようにこもってしまうので、無理やり外に出る理由を作っているくらい。今はひたすら執筆する傍ら、オンライン勉強会を主宰したり、友人とのオンライン女子会に参加したり、オンライン社交を楽しんでいます。

しかし、人間は生き物ですから自然との接点が必要です。今住んでいる部屋からは緑があまり見えないのが唯一の悩みなのですが、さすがに心が乾いてきたので、ベランダに薔薇とアルストロメリアの鉢を買いました。鰻の寝床の部屋の外に赤いお花が揺れているだけで、なんだか気持ちが浮き立つから不思議です。

何かの世話をするって、心の健康に深く関わっている気がします。ペットや植物でもいいし、部屋の手入れでもいいでしょう。あと、先の見えない今は自分のことを考えるとついネガティブ思考になりがちなので、誰かのことを考えることをお勧めします。つまり自分の家族とか友達とか、あるいは会ったことのない人のことでも。今はみんな不安ですから、どうしたらその人が元気になるか、クスッと笑わせることができるかを考えましょう。

不安な時こそ誰かを支える存在に

今回の危機で、衣食住に困窮している人がたくさんいます。中でも女性は弱い立場に置かれています。母子世帯や、単身で家族の介護をする女性、バイトで生計を立てている学生や、DVや虐待で家庭に居場所がなくシェルターに身を寄せるしかない女性や少女たちもいます。そうした人たちを支援している団体に募金をしたり、募金の呼びかけをリツイートしたり、一言応援コメントを書くのもいいですね。気持ちが塞いだ時に誰かの力になる活動に関わると、気持ちが前向きになります。

友人とのつながりも大事です。私には、もう7週間以上も外出が禁止されているスペインのバルセロナに住む友人や、ニューヨークのマンハッタンの真ん中で巣篭もり生活をしている友人がいます。彼らとメッセージをやりとりし、時には電話したりして励まし合うことが、今大きな支えになっています。

一方、不安になると苛立ったり、攻撃的になってしまうこともありますよね。もし友達と話していて、相手がちょっとそんなモードに入っているなと感じたら、無理せずにしばらく距離を置くのがいいでしょう。LINEでなんだか絡んでくるような感じの時は、早めに切り上げて。誰だって、そんな気持ちになることはあるものです。だけど、こちらがその邪気を全部受け止めてあげなくてはいけないわけではありません。自分を守ることも大切です。

ああ今はちょっとダークサイド寄りなんだな、と思ったら、そっと離れて遠くから見守りましょう。

知人が発熱して家にいるなんてこともあるかもしれませんね。「ご飯食べてる?」とか「水分とってる?」など、一言LINEするといいかも。ネットで拾った笑えるニュースをシェアするとか。なんてことはない会話でも、誰かが気にしてくれてるって、すごく心強いものです。

夢に出てきてくれた父

いつもよりもたっぷり寝られるのも、巣篭もり生活のいいところ。最近、不思議なことに気が付きました。寝る前に色々と過去のことを思い出していると、それまではぼんやりしていた細部が急にはっきり見えてくるのです。かつて住んでいた家の子供部屋の壁紙、ベッドカバーの模様なんかが。これって多分、入力される情報が減ると、古い記憶を思い出しやすくなるってことなんじゃないかしら。次から次へと積み上げられる新しい書類にも埋れて、どこにあるかも分からなくなっていた記憶のディテールが、刺激が減ると自然と蘇ってくるんですね。

ロックダウン(都市封鎖)や外出自粛などで人々の活動が抑えられた結果、インドや中国の大気汚染が劇的に改善したという報道がありました。頭がいつも忙しく働いていると、霞がかかったようになって目の前のことしか見えなくなるもの。しばしその多忙から離れてみると、小さなひらめきなんかを思い出し、遠くに目を向けたり、視野を広げて考えられるようになるのでしょう。ふと見上げた空に白くヒマラヤが浮かんでいるのが見えるような、意外な発見があるかもしれません。

そんな作用の表れでしょうか、最近父の夢をよく見ます。2年前に他界してから、懐かしく思うことはあってもなかなか夢に出てきてくれなかった父。会えたのが嬉しいのと同時に、本当にいなくなってしまったのだなという寂しさもあります。これも深層心理に閉じ込めていた悲しみを静かに受け入れる過程なのかもしれないと思います。忙しくて、辛くて、なかなか向き合えずにいた悲しみを、こうして時間をかけて分解し、自分の中に収めていくのですね。

本質を捉えなおす機会として

巣篭もりが続き、オンラインでの会議や打ち合わせにも慣れてきました。気づいたのは、みんなの服装が猛烈に部屋着化していること。そしてスッピン率の高さ。いいぞ!

これをきっかけに、体裁を整えて「いかにちゃんとしているか」を示す形式に囚われがちな職場文化が、「今大事なことは何か」を優先するようになりますように。

メイクしていようがいまいが、服装がどうだろうが、そんなこと気にするのは本質からずれているという共通認識が形成されたらいいですよね。

そうそう、身嗜みといえば、気付いたら腕やスネのシェービングをすっかり忘れていてふわふわになっていたとか、眉毛が野生化したという話もよく聞きます。もちろん私もその一人で、先日ちょっと眉毛を抜いて整えただけですごくおしゃれした気になりました。

メイクやファッションには人目があるから楽しめる面もありますよね。フルメイクでオンライン会議に出る人とスッピンで出る人が両方いて当たり前、ってなるのが理想です。

STAY HOMEで自分と向き合い、誰かを思い、古い習慣を変えて新しい常識を生み出す。気分が塞ぐこともあるけど、みんなで次の時代を作るクリエイティブな作業なのだと思えば、意外とやりがいを感じるかも。

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