健康に気遣う余裕もなく働く私、それでも大事にしたいこと【小島慶子】

健康に気遣う余裕もなく働く私、それでも大事にしたいこと【小島慶子】

「「πな人生を生きていく。」」
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恋のこと、仕事のこと、家族のこと、友達のこと……オンナの人生って結局、 割り切れないことばかり。3.14159265……と永遠に割り切れない円周率(π)みたいな人生を生き抜く術を、エッセイストの小島慶子さんに教えていただきます。

第27回は、働く女の健康について。35歳を過ぎるとだんだん若い頃と同じペースでは働けなくなると聞きますが、実際のところ年を重ねればペース配分ができるようになるのでしょうか? 小島さんからリアルなホンネが飛び出しました。

AM4時、パソコンと向き合う私

働く女の健康がテーマです。と書いている時点で朝の4時なので、私に書く資格はないでしょう。近頃はとにかく睡眠を確保しないと体力も気力ももたないので、なるべく夜はしっかり寝るようにしていますが、今日は久々の明け方までの強行軍です。体が二つあったらどんなにいいだろう。私の代わりに寝てくれる体があれば、もっと仕事が片付くのに。

今は息子たちの学費を払い終わったら産卵を終えた鮭のように力尽きても構わないから、とにかく働かねば!という心境です。こういうのは全然お勧めできません。やはりこんな時は心理的にも、共稼ぎが体にいいと思ってしまいます。

つい限界まで働いてしまうのは、不安が強いから。もし収入が途絶えたらと思うと怖くて休めないのです。辛くても黙々と働く。いつか解放される日を夢見て。でも案外、ウートピ世代でも「いつになったら働くペースを整理できるの?」と思っている人は少なくないかもしれません。それくらい働く女性は忙しいし、ペースを落としたらもう戻れる場所なんてないのではないかという不安も大きい。

今の私にとっては身体に多少の負荷がかかることは仕方ない。だから、心の健康を保つことを第一にしています。

そんなわけで、ここ数年、夫婦の関係をなんとかしたいと心を砕き、言葉を尽くして夫に話をしてきました。ところがはぐらかされたり譫言(うわごと)みたいな答えしか返ってこないと、徒労感と絶望で思い切り心が死ぬのよね。心が死ぬと、リアルに生きる気力がなくなるのでいけません。

疲れも吹っ飛ぶハッピーな関係なら百人力だけど、どんなカップルにもいい時期とそうでない時期があるもの。恋愛って案外、心の負荷になりがちです。働きすぎると、対人関係に割くエナジーがなくなるから、彼との関係がうまくいかない時はちょっと体を休めてみるのもありかもしれないですね。

ちなみに夫とは4年後を目安に関係をリセットする「エア離婚」前提で話がついたので、区切りが見えて心理的にはちょっと楽になりました。ああ、それまで何とか生き延びられますように!

心の奥底から湧いてくる「休みたいなあ」

忙しいとついつい食事も不規則になり、睡眠不足に加えて運動不足も深刻です。ジャンクフードは食べないし、どうせ口に入れるなら美味しくて体にいいものをと思っているので、空腹時にとりあえずなんか食べておくということができない私。なるべく体に良いものを食べようと思うとかえって欠食状態になるという皮肉な結果です。

目の前しか見えていない状態でいつも過ぎた締め切りや返信していないメールに追いまくられていると、時々ふと、心の底から「休みたいなあ」という気持ちが湧いてきます。

仕事は楽しいのに、なんなら永遠に休みたいと思うほど、何もかもに疲れ切ってしまうのです。見かねた友人たちが「そんな時はカニと温泉よ!」と昨年末に旅行に連れ出してくれたのですが、旅先でも原稿を書いて徹夜をする始末。そりゃ温泉入ったら気持ちよく寝たいですが、どこかでそれを許さない自分がいるのです。つい「以前は二人で働いていたのだから、今は私が二人分働かなくちゃ」とか考えてしまう。1日は24時間しかないのだから、そんなの無理!とわかっているのに、自分をいじめてしまう。

だから、「ねえお願い、そんなに働かないで。休んで」って本気で止めてくれる人がそばにいるって大事だよね。「良いじゃん今日は出かけようよ」とどこかに連れ出してくれたりね。信頼できる人にそう言ってもらえたら、自分を追い詰めなくて済むはず。こんなふうに他人に頼る発想はいけないのかな。「自分で自分を休ませてやれるのが、自立した大人なのでしょうね、きっと」とこぼしたら、ウートピの担当編集者は「いや、ガンガン甘えていきましょうよ」と言ってました。あ、そうか私、甘えていいんだ。

5秒でいいからハグを!

そう言えば、日本にいるときは誰ともハグもしないし手も繋いでない。人と身体を触れ合うとオキシトシンが分泌されて健康にも良いと何かで読んだ気がするけど、東京で一人で働いていると何週間も、他人と身体を触れ合わせることがないんですよね。で、疲れると「誰か5秒間ハグしてくれないかなあ」と思ったりします。

でもそのために友達に来てもらうわけにもいかないし、街角でフリーハグってのも勇気がいるし、仕事の現場で「すみません、どなたかお手すきの人ハグしてくれませんか」てのもおかしいですよね。

こないだ「人と4分間見つめ合うと関係がより親密になる」っていう動画を見かけて、ええっ、そしたら今度良さげな人と仕事した時にやってみようかな!などといろんな顔を思い浮かべてしまい、お前どれだけ親密さに飢えているんだよと思わず自分を抱きしめてしまいました。

ほんの5秒で良いから、気を許せる人と互いを励まし合う感じでハグできたら、どんなに安心するだろう。ないですか?そういう時って。やっぱり、女友達とシェアハウスとか、良いよなあ。廊下ですれ違っても気軽にハグできるし、「ちょっと休みなよ、ダメだよ」とか遠慮なく言い合えるし。こんな私はお一人様耐性の低い弱虫なんでしょうか。

もし明日、目が覚めなかったら

やっぱり、寝る時に「明日の朝、万が一目を覚まさなかったら」と気になって、眠いのについ部屋を片付けてしまうような生活って、ちと寂しい。なんで毎日、自分が絶対に会うことのない第一発見者のおもてなしなんか考えてるのかと。そりゃ動揺させて申し訳ないし、せめて部屋が片付いていれば気持ちいいかな(よかないよ)と思うんですけどね。連絡がつかなくて部屋に入るわけだから、きっと仕事の関係者でしょ。警察とか管理会社の人も来るんだし、うかつに脱いだパンツを部屋の中央に落としておくわけにもいかんでしょう。

さっきもちょっとTwitterで見かけて気になって(原稿書きなよ)、BTS(防弾少年団)の動画をググってしまったのだけど、それが最後の検索結果になると家族が変に気を利かせてお別れ会で曲を流したりして、参列した人が戸惑うかもと、検索履歴消しましたからね。そんなことより早く寝ろと反省しました。

まあとにかく、こんな不安と隣り合わせの働き方はいけません。忙しくて休めないあなたにアドバイスできることがあるとしたら、ちゃんと自分を甘やかすことと、元気になれるハグ要員を近所に確保しておくことです。先日、70代の今もめちゃ素敵な高田純次さんとお話ししたら「そうやって日々の仕事に追われているのが、いい時期なんだよ。後で振り返ると、その頃が一番生き生きしていたよ」とおっしゃっていました。それを信じて、もう少し頑張ります。                       

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オンナの人生って結局、割り切れないことばかり。スパッと決断したり解決したりできない自分はダメ人間かも……と落ち込んでいないで、「π(パイ)な人生」を生きる術を身につけよう。小島慶子さんがアラサー世代に贈るエッセイ。

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