都会での生活には結構満足しているけれど、一方で、都会でずっと暮らし続けることに対する不安や物足りなさもなくはない。
そこで全3回に渡って、離島経済新聞社統括編集長の鯨本あつこ(いさもと・あつこ)さんに離島暮らしのリアルを聞き、改めて都会での暮らしを見つめ直すことにしたこの企画。
最終回となる今回は、家族の素となる最小単位のコミュニティ「夫婦」で協力し合うコツについて話を聞きました。
「地方だからあれができない」は少ない
——子育てのために地方移住を選択したとのことですが、テレビのチャンネル数が少ないとか、今まで当たり前にあったものがなくなる不安はありませんでしたか?
鯨本あつこさん(以下、鯨本):全然ありませんでした。テレビのチャンネル数は、情報を仕事にしているので少し気になっても、雑誌や新聞はほとんどの媒体をタブレットで即時に見られるので、情報量は都会と変わらないと感じています。
私の場合は、月に1回は東京に行きますし、出張であちこちの地域に行くので、家から出られないとか、ずっと家にいるという感覚もないですし。
——地方に移住したからといって、出られないわけではないですもんね。
鯨本:そうそう。パートナーの理解を得られるかどうかは自分次第ですし、自分が仕事を続けたいのであればそれも含めて理解してもらう必要がありますよね。協力してもらいたければ、パートナーといろいろな交渉も必要ですけど(笑)。地方だからあれができないとか、これができないというのは思っているより少ないはずです。
家事育児にかかる時間を可視化したら…
——パートナーとの交渉といえば、8月に放送された「セブンルール」(関西テレビ・フジテレビ系)では夫婦の家事分担についても取り上げられていましたね。
鯨本:ご覧になったんですね。今でこそ、さらっとこなしているように見えますけど、結婚当初は、どうしたら夫が動いてくれるか試行錯誤したんですよ。どんなに気が合うといったって、異なる価値観を持つ2人が一緒に暮らすわけですから、ズレるのは当たり前。そういうのをお互いに微調整していくのが夫婦のコミュニケーション能力だと思うんです。
——夫婦のコミュニケーション能力?
鯨本:夫は私より10歳年上なので、世代的な価値観もズレやすいというか。最初はどうしてこんなことがわからないんだろうと、お互いに不満を溜め込みやすい状態でした。家事の協力にしても、これまでやったことがないことをあれこれ言われてもわかりませんよね。
——シンク用のスポンジでお皿を洗ったりとか?
鯨本:そうそう(笑)。でも段取りやスキルが身についていないうちにダメ出ししても、お互いの時間のロスになりますよね。そこで、家事や育児にかかる行動を全部リストアップして、どれなら手伝ってもらえるかという話し合いを重ねて、家事分担表を作ったんです。
家の仕事にも目標設定と共有を
——床掃除20分、洗濯物を干す15分などかなり細かく書かれていて驚きました。時間を可視化したことで、家事育児だけで8時間かかることがわかったそうですね。
鯨本:そうなんです。そこに自分の仕事や地域の仕事が加わることを考えると、女性が一人で家事育児をこなして仕事もするなんてとても無理ですよね。
——無理だ……。
鯨本:うちの場合は、夫と一緒に仕事をしているので、夫婦の会話で仕事の話も多いんですけど、それは家事分担をするうえでもメリットになりました。
——どんなところが?
鯨本:例えば、チームで仕事をする時って、みんなで達成するべき目標に対して必要になるタスクとかスケジュールとかコストとかをお互いに共有して分担する。そのうえで報告・連絡・相談をしながら進めますよね。でも、それが家事となると、目標設定やそこに対するタスク設定だとかを、言語化もしていなければ、共有もしていないという人も多いのかもしれません。私たちの場合は一緒に仕事をしているから、家事とか育児の進め方を、仕事と同じように考えやすかったんだと思います。
——これくらいはしてくれるだろう、とか期待値ベースで分担して不満に思っている人は確かに多いかもしれません。
鯨本:そうですね。付き合っている段階はお互いにいいところを見ているけれど、結婚すると粗が見えてきます。それって、相手が夫じゃなくても、親しい関係になるほどあると思うんですよね。解決していかなきゃ一緒にいられなくなる。
理想と現実の差をどう始末するか
——それで言うと、移住もそういう面があると思います。スローライフとかていねいな暮らしとか良い印象のある言葉が使われることが多いですけど。でもおそらく、毎日の暮らしってそれだけじゃないと思うんですよ。
鯨本:そうですね。似ていると思いますよ。結婚と。理想と現実に差が出た時にどう帳尻を合わせるか。私としては、自分が変わった方が早いと思うんですけど、同時に変われない自分がいることにも気づく。その時はそこから去るか、とことん話し合うか。目の前で起きているものごとを柔軟に考えられるのが一番ですが、頭が固くなっていたら大変でしょうね。人や環境のせいばかりにしているうちは何も解決しないと思いますから。
(取材・文:ウートピ編集部 安次富陽子)