「日本人の10人に1人が抱えている甲状腺疾患。うち9割は女性です。特に30代に入ると、女性の発症率は高まります」そう警告を鳴らすのは、内分泌代謝内科医の会田梓(あいだ・あずさ)先生。
「甲状腺トラブルを抱えないためには、日頃からストレスだと感じないもののとらえ方が大切です。あとは年に1回のホルモン値検査を受ける習慣をつけましょう」とのこと。最終回は、甲状腺トラブルの予防について聞きました。
第1回:甲状腺の病気、9割は女性がかかる。知っておきたい基礎知識
第2回:バセドウ病の5割は20代、30代の女性。意外に身近な3つの「甲状腺の病気」
第3回:甲状腺トラブルと「不妊・妊娠・出産」
甲状腺の検査は「健康診断」にないのが一般的
——これまでのお話で、20代、30代の女性にとって甲状腺の病気が想像以上に“身近”であることがわかりました。予防するには、どうすればいいんでしょう?
会田梓先生(以下、会田):まずはストレスの軽減です。甲状腺異常にはストレスが大きく影響していると言われています。ストレスのない生活をすることは難しいかもしれませんが、なるべく気にしないようにするのも必要です。例えば、ショッピング・読書・映画鑑賞など趣味を持つことや、スポーツで体を動かして気分転換しましょう。
次に年に1度は甲状腺ホルモンの検査を受けましょう。甲状腺ホルモンの数値は一般的な健康診断には入っていないため、疑わないと数値を計ることすらしません。どんな病気もそうですが、悪化させないためにも早期発見がとても大切。体調不良を感じたら、甲状腺異常を疑ってみてください。
あのダイエットアイテムがバセドウ病の一因に
——第2回で、甲状腺ホルモンが多すぎる甲状腺機能亢進症(主にバセドウ病)や、少なすぎる甲状腺機能低下症(主に橋本病)があると聞きましたが、症状によって気をつける点はありますか?
会田:バセドウ病の場合、より代謝を活性化させてしまうような激しい運動は控えましょう。橋本病の場合は食事内容の管理が大切。昆布などヨード含有量が多い食品には注意しましょう。
それと乳がんチェックのように、定期的に甲状腺を触ってセルフチェックをしましょう。バセドウ病や橋本病の発見にも効果的ですが、特に甲状腺腫瘍の場合は腫れているというよりもしこりのようなものができるので、素人でも異常を感じやすいと思います。
また女性の場合、ダイエットのために「痩せ薬」を飲んでいる人がいたら、成分をしっかりチェックしましょう。甲状腺ホルモンを活性化させ、代謝を促す成分が入っているケースが多いからです。つまり、ダイエットのつもりが実は甲状腺機能亢進を引き起こしている可能性が高いと言えます。
——異常を感じた場合、どんな機関に行けばいいのでしょうか?
会田:まずは内科で血液検査をし、異常があったら紹介状を書いてもらい専門機関で受診することをおすすめします。そうすれば受診料も安く済みます。専門機関というのは総合病院の内分泌内科や甲状腺疾患専門病院のことです。
くり返しますが、甲状腺疾患は症状が別の病気と似ているために、なかなか気づきにくい病気です。私が診た患者さんの中にも、うつ症状と診断されて長い間、心療内科にかかっていた方も少なくありません。必要のない薬を飲み続けても改善しないのは当たり前です。なかには甲状腺ホルモンを低下させる成分を含む薬を処方され、逆に甲状腺疾患を悪化させてしまったケースもあります。
10人に1人とか、治療に時間がかかるとか、完治は難しいなど、甲状腺疾患は怖い病気という印象を持たれた方も多いかもしれませんが、ホルモンバランスを正常に保てていれば、普段とまったく変わらない生活を送ることができます。
体調不良が続いている人は一度、甲状腺ホルモンの数値を調べてみてください。まずは、自分の甲状腺ホルモン値が正常かどうか、きちんと把握するところからはじめましょう。
(塚本佳子)