白央篤司、こだわりのチキンライスと「こんなものが食べたい星人」と私

白央篤司、こだわりのチキンライスと「こんなものが食べたい星人」と私

先の見えない大変な日々が続いています。会社にも行かず、友だちにも会えず、うちの中にいると、つい”ひとり”になってしまった気がして、寂しい気持ちになることも。そこで、ウートピは「1往復エッセイ」を始めます。気になるあの人へ「最近、どうですか?」とたずね、「こちらはこんな感じです」と回答する。そんなささやかな現状報告と、優しくて力強いメッセージをお届けします。

今回は、ライターの西森路代(にしもり・みちよ)さんから、フードライターの白央篤司(はくおう・あつし)さんにこんな質問が届きました。

【白央さんへ】
白央さん、いつもTwitterやインスタグラム、そしてさまざまなところで書かれている記事などを楽しみにしています。白央さんの文章からは、家事を気負わなくてもいいということと、生活を楽しむということが同時に感じられます。こんなご時世に……、という始まりの記事を書くことが非常に多くなっている昨今、気持ちが落ち着く家での過ごし方や、こんなときだから食べたいものについて、白央さんにお聞きできればと思いました。

9の必須条件からなる「我が家のチキンライス」

「こだわりのチキンライス」。この日は巻かない「オムライス」に

「こだわりのチキンライス」。この日は巻かない「オムライス」に

先日、無性にチキンライスが食べたくなった。

私の料理は基本的にざっくり・アバウト、普段はあるもので適当に作ってばかりなんだけれど、チキンライスに関してだけはちょっと、うるさい。「我が家のチキンライス」にはいろいろ条件があるのだ。

まず、使われる肉は皮つき鶏ムネ肉でなくてはならない。モモはそりゃおいしいけれど、存在感がありすぎる。皮はじっくりカリッと焼いておく。間違っても「クニュッ」とした感じが残っていてはならない。

次に、玉ねぎは大粒の粗みじんに切る。ふぞろいな感じが食べて分かるぐらいがベスト。さらにはピーマンも粗みじんに切って入れる。具は以上の3点。油はサラダ油のみ。バターが香るのも楽しいけれど、うちではやらない。

ケチャップは惜しみなくたっぷり使う。チキンライスを堪能するからにはカロリーと塩分は気にしない! 後の食事で調整すればいいのだ。そしてごはんにしっかり絡め、軽く焦げ感が出るぐらいに焼きつける。最後にコショウを強めにきかせれば完成だ。この日はトロッと焼いたたまご焼きを上にのっけていただいた。巻かないオムライスである。

数えてみたところ、我が家のチキンライスには9つもの必須条件があった。我ながら、あれこれうるさいなと思う。もし誰かに以上の条件を出されて「作って」などと言われたら「わがまま言うんじゃない」と即答するだろう。だから、自分で作るしかない。まさに「こだわり」なんだけど、自分の執着に素直に従って料理しているとき、私はどうにも満たされた気持ちになり、心が落ち着いていく。

自分にとっての料理とは、欲求魔人をなだめること

ウートピさんの企画『最近、どうですか?』からお声をかけていただき、ライターの西森路代さんからいただいた「気持ちが落ち着く家での過ごし方って、なんですか?」という質問について考えたとき、すぐに浮かんだのがチキンライスのことだった。

自分の中に棲むやっかいな「こういうものが食べたいのだ!」星人のあれこれに「ハイハイ」と頷きつつ、食材を刻み、煮炊きをする。頭の中が料理することだけになって、煩わしいあれこれが消えていく。自分で自分に尽くしているのかもしれない。私にとって料理とは、誰かのためでなく、自分の中にいる欲求魔人をなだめるような行為なんである。

毎朝目覚めて、平熱であることに小さくホッとする。テレビをつければ「コロナ」の文字は途切れない。明日、明後日、私は平熱のままだろうか。そんな思いに駆られつつも、また今日も「こんなものが食べたい!」星人の声が聞こえると、ホッとする。

「今朝は……だしだ。しっかり濃いだしが飲みたいぞ」

そんな声に従って、湯を沸かす。今日はチンゲン菜と油揚げでお味噌汁にしようか。いや、それともおすましにするか。

食欲があって、食べたいものが浮かぶ。それに従って手を動かすことが、私にとっての「気持ちを落ち着かせる方法」なんだと、あらためて思った。

せめても、しっかり食べよう。食べていこう。活力を失わないように。

(白央篤司)

次回は白央さんから西森さんへ

西森さん、はじめまして。往復エッセイの相手に選んでいただき、ありがとうございました。私もツイッターやコラムなどいつも拝見しています。興味や関心の幅広さ、そして愛着あるものへの深い思いが確かに伝わる文章、毎回読まされます。自粛が続く日々、私は昔から好きな本や映画のDVD、音楽アルバムを手にとることが増えました。長年変わらず、私を慰撫し、立て直してくれるものもの。西森さんもきっと同様のものがたくさんあるのではないでしょうか。そこで、「これまでハマってきたもの」を伺いたくなりました。それらはきっと、今も自分から切り離せないもので、「書く」という力の源泉にもなっているのではないかと。お返事を楽しみにしております。

*西森さんからのお返事は、5月8日(金)公開予定です。

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