「あなたには、親友がいますか?」こう聞かれたら、あなたはなんと答えますか? 「仲がいい人は思い浮かぶけれど、すぐにはピンとこない」「夫が親友」「いない」……。
人それぞれではありますが、改めて「親友」とはどんな存在なのでしょうか。そのリアルな姿を描いたマンガが、月刊「オフィスユー」で不定期連載中の『親友いないの誰?』(集英社クリエイティブ)です。
本作では、作者の山田可南(やまだ・かなん)さんが周囲の友人やアラサー世代の女性にヒアリングをしたエピソードを織り込んだといいます。山田さんに「大人の女性の友人関係」について聞きました。
前編は「ライフスタイルの変化による、人間関係の変化」について聞きました。
大人になると「親友」がいなくなる!?
——今の時代、それなりに充実しているし「友達なんていなくてもいい」という声も多く見られますが、「大人の親友」を作品のテーマにしようと思ったのはなぜでしょうか。
山田可南さん(以下、山田):前提として、友達を作ろうとか、友達って最高!と言いたいわけではありません。私は漫画家として働きながら子育てをしているのですが、仕事や子育てで悩みを抱えたときや、ふと誰かと話したくなったときに連絡できる相手がぱっと思い浮かばなくて……。
以前は誰に話していたのだろうと振り返ってみると「親友」と呼べる友人に相談していた。その時、ふと「私、親友がいなくなっちゃったのかな」と思ったんですよね。
気になって、「親友っている?」と周囲に聞いてまわったのですが、全員「いない」と言うのです。話を聞く中で面白かったのは、「親友はいないけど、旦那が親友のようなもの」と答えた人が意外と多かったこと。そしてそう答えた夫婦はみんなセックスレスだったんですね。
そのとき、大人の友人関係って、30代以上の女性に共通する関心ごとなのかもしれないと思ったんです。
——「親友」という言葉自体あまり使わなくなった気がします。大人になると、付き合いがフラットになって行きますよね。
山田:ライフスタイルが変わることで、学生時代の親友と時間や話題があわなくなるせいもあるでしょうね。学生時代はみんな同じような環境で生活をしているので約束もしやすかったし、共通の話題も多かった。でも、大人になると徐々に過ごす環境が変わります。
例えば、私は出産してから大きく生活が変わりました。友達と約束をしていても子どもが熱をだしてドタキャンをしてしまうことがあるんですけど、互いに気を遣ってしまうんです。気付くと子どもがいない人と会うことが減ってしまいましたね。
——子どもがいるかどうかだけでなく、仕事の内容やフェーズの違いも大きく影響している気がします。
山田:そうですよね。『親友いないの誰?』の1巻では、学生時代に仲がよかった29歳の女性たちが登場します。翻訳家を目指しつつコンビニバイトで生計をたてるかほる、フリーランスのデザイナーとして成功した一歌、そして恋愛が大好きな澪――。惰性で誕生会を開いていた3人が“結婚”というキーワードが出たことによって、疎遠になっていく様子を描いたのですが、こういうことってよくあるんじゃないかなって思うんです。
「狭くて浅い」大人の友人関係
——昔からの親友でなく、大人になってからできた友人もいると思うのですが、なかなか「親友」とまで呼べるような関係にはなりづらいんですよね。
山田:社会人と比べると学生時代は結構時間もあって、ずっと友人とおしゃべりをしていられたと思うんです。時々は自分の深い部分をさらけ出したりもして。だから「親友」になりやすかったのではないでしょうか。
でも大人になってできた友人と話すときってお互い忙しいし、「仕事の話はこの人」「結婚生活の愚痴についてはあの人」というように話題によって話す人を分けたりしますよね。
それは、仕事も家庭環境も違って学生のときのように「何でも話す」ということができないからだと思うんです。その結果、同じ距離感のまま、近寄れなくて、親友になりづらいのかもしれないですね。
これは1話目で主人公に言わせたセリフでもあるのですが、「彼氏を作るより、親友を作る方が難しい」と感じます。
——「こう見られているだろうな」というのもなんとなくわかるし、「ここに触れたら失礼だろうな」と遠慮もあるので、なかなか自分をさらけ出すのは難しいですよね。
山田:難しいですよね。小中学生のときはそういう人間関係のルールみたいなものがわからないから、どんどん進んでいけて、その中で「狭くて深い」友人関係もできたと思うんです。大学生くらいになると、徐々に所属するコミュニティが増えて次第に「広くて浅い」友人関係になる。世界が広がるからすごく楽しくなるんですよね。
でも、仕事や子育てに追われるようになると、またコミュニティが狭まってくる。それなのに子どもの頃のように踏み込んで話すことができないから、「狭くて浅い」友人関係にとどまってしまう。それが大人の友人関係のモヤモヤの正体なのかな、と思うんです。
「上から目線」が友人関係を壊す
山田: あとは、大人になるとライフスタイルの違いから、ちょっとした会話が「上から目線」に感じてしまうことがある気がするんです。
——「上から目線」ですか?
山田:はい。例えば私は子どもがいないときに、子どもを産んだ友達と話すと少し息苦しさを感じることがありました。「はやく子ども産んだらいいのに。楽しいよ」って言われるんですけど、それが嫌で。
2巻に、ママ友をテーマにした話があるのですが、私が「上から目線」に感じた友人の発言を取り入れて描きました。歳が大きいお子さんがいる彼女からすると、通り過ぎた時期の悩みは、「大したことない」ですんでしまう。ライフスタイルが変われば、その時々で最大の関心ごとも変わるので、もちろん彼女が悪いわけではありません。でも「何でも話せる親友」からは遠くなってしまうのを感じた瞬間でした。
——経験していることが違うと、普通のことを話していてもどこかひっかかりを感じてしまうことがありますよね。
山田:人は人、自分は自分ってお互いに適度な無関心さとか自立心が大事だと思うんですけど、それもタイミングによって気になるときと気にならないときがあるじゃないですか。……ということもあって、せっかく築いた信頼関係が崩れやすいのも大人の友人関係の特徴かなと思います。
本日、5月25日、『親友いないの誰?』の第2巻のデジタル版が配信スタート! こちらから試し読みができます。
(取材・文:岡本実希)