ドラマにみる女友達考 #1「奥様は、取り扱い注意」

女友達は少数精鋭がよし。「偶然近くにいるだけの人」との適切な距離感

女友達は少数精鋭がよし。「偶然近くにいるだけの人」との適切な距離感

学生時代の友人や、職場の同期との会話がなんとなくかみ合わなくなったり、疎遠になったり……。生活やキャリアの転換などで、仲の良かった女友達との関係が変わってしまった経験を持つ女性も多いのでは?

自分を取り巻く環境が変われば、人間関係も変わるのは当たり前のこと。今この瞬間に専念するために「友達がいなくてもいいよね」という考え方もダンゼンありだし、「女同士で集まってワチャワチャするのが大好き」というのもあり。要は、自分が心地よい関係であればどちらでもいいのだけれど……。

今回は「女友達」を解き明かすヒントを探して、ライターの吉田潮(よしだ・うしお)さんに2017年秋のドラマを考察してもらいました。

「ご近所さん」という危うさ

どんな人でも、家が近いというだけで、多少の親近感は湧くものである。同じ町を選んで住んでいるという「感覚」の共通点、おいしい店に安い店、無愛想な店員や腕のいい歯医者、決して行ってはいけない場所などの「人的&物的情報」の共通点があるからだ。

ただし、あまりに近いと、距離感が難しくなる。近所にいても、そこまで親しくない、親しくしたくないというケースもある。同じマンションやアパートとなると、頻繁に顔を合わせないようにタイミングをずらしたり、変な気を遣ったりもしてね。

ご近所さん=友達になるかどうかは微妙なのだが、家と近所が主戦場の専業主婦となると、仲良しのフリをしたほうが得策なのかな。そんなことをつらつらと考えさせるのが『奥様は、取り扱い注意』(日本テレビ系)である。

主役は、綾瀬はるか。元・工作員だが、今は専業主婦となって、異様に大きな一戸建ての家に住んでいる。どうやらセレブタウンだ。隣に住んでいるのが、同じく専業主婦の広末涼子と本田翼。日々、料理教室だ太極拳だと習い事に綾瀬を誘い出す。要するに、セレブマダムの優雅な暮らしぶりを描いているのだ。

綾瀬は夫とふたり、広末は夫と息子、本田は夫と義母と、ちょっとずつ家族構成は異なる。持ち家なのか借家なのか、細かい所はわからないが、生活レベルはほぼ同格。夫の収入だけで不自由なく暮らせるという共通項のもと、「ずっと仲良くしましょうね!」と言う

そもそも隣に住んでいるだけで、強制的に仲良しチームに入れさせられるのはキツい。

そういえば、過去に隣人と友人の境目が仇(あだ)となるドラマがあった。檀れいが、隣に引っ越してきた仲間由紀恵に仕組まれて、壮絶な恐怖体験をする『美しい隣人』(フジテレビ系・2011年)、菅野美穂がタワマンに住み、謎のご近所さんである松嶋菜々子に脅威を感じる『砂の塔~知りすぎた隣人』(TBS系・2016年)である。どちらもサスペンスだが、ご近所付き合いから一歩進んで友達になり、距離を縮めすぎることの危険性を描いていた。

適度な距離を保っておきたい、それがご近所さんだ。でも、徒党を組みたい、派閥を作りたい、自分の孤独を埋めたい人は必ずいる。ご近所さんの危ういところは、そこである。時折、オフィスでもそういう人がいると聞くが、決して友達とは呼ばないほうがいい。

悩みを絶対打ち明けないのは友達か?

さて、『奥様は、取り扱い注意』に話を戻そう。特殊な環境で育った綾瀬は、安穏な専業主婦ライフを望みつつも、頻繁に起きるご近所トラブルを秘密裏に解決していく役だ。

元工作員であることは、もちろん隠している。みなしごだったことは話したものの、自分の過去は話さないし、話す必要もない。悩みは、正体不明の夫(西島秀俊)である。

一方、広末は本当は働きたいのだが、モラハラ夫(石黒賢)から子育てに専念することを強要されている。そもそも石黒は、キャリア志向の強い学生だった広末を、意図的に妊娠させた経緯がある。広末が仕事したい旨を伝えても、「もう一人子供を作ろう」と言われる始末。強要どころか、言葉が通じない状況だ。

また、本田は強烈な人格否定と子作り脅迫を日々浴びせてくる厄介な義母(銀粉蝶)と、義母の肩を持つ夫(中尾明慶)にストレスをためまくっている。しかも中尾は絶賛浮気中。「残業」という日に限って笑顔で帰ってくるわかりやすさにセックスレスのWパンチだ。

広末も本多もクソファミリー(品のない言葉だが、一番わかりやすい)から主語が自分ではない生活を強いられて、悩み苦しんでいるのに、そのことは一切もらさない。綾瀬含めて3人で毎日のように顔を合わせていても、お互いの家庭の事情にはほとんど踏み込まないのだ。これを友達と言ってよいものか……。

クソファミリートークほど盛り上がるネタはないし、ワクワクする最高の出し物ではないか! 私自身も、女友達から「残念すぎる義妹(虚言癖あり)」の話や、「ファンシーで使えないモノを押しつけてくる義母」の話を聞くのは大好きだ。これを自分の「恥」ととらえるか、「最高のエンターテインメント」ととらえるかで、人生はまったく異なる方向に行くと思う。自分に実害がなければ、そういうネタは共有できたほうが楽しいけどな。

もちろん、弱味を見せたくない友達関係というのもあるだろう。下に見られたくない、同じ土俵の上で張り合っていたい……。良く言えば切磋琢磨だけど、悪く言えば見栄っ張りの虚ろな人間関係。悩みがたとえ解決しなくても、違う見方があると気づきを与えてくれるチャンスを、みすみす逃してしまっているわけだ。

ご近所さんだからこそお互いに踏み込まないのか。でも、親しい友達になったのなら、悩みはぶちまけたほうがいいのではないか。今後の展開によって、変わってくるだろうけれど、この3人の友情が長続きするとは考えられない。セレブタウンの奥様たちは、こうして虚ろな友情を築き上げて、逆に孤独感を深めていくのかもしれない。

どうでもいい「ママ友派閥」もある

綾瀬と本田は子供がいないので、ママ友という関係ではない。が、第3話ではテレビドラマに欠かせない「ママ友いじめ」も描かれていた。青木さやかが演じる、元女子プロレスラーのボスママにワケもわからずいじめられる小野ゆり子が登場。

もちろん、綾瀬は黙っちゃいない。小野をサポートするうちに、次第に他のママたちも同調しはじめ、ボスママ青木がひとりぼっちになるという展開だった。いじめ首謀者の行きつく先は、しっぺ返しと孤独という構図ね。

ボスママやお局様というのは、ほとんどが家庭内にトラブルを抱えている。ドラマではそう描かれる。家庭がうまくいっていないからこそ、非道な行動に出る、という性善説に基づいて描くのが基本だ。ただし、最後はボスママが折れて反省して、仲良しになるというのも王道。青木と小野も仲良しになっちゃってたし。

ママ友の中には、意気投合して末永くお付き合いしていくケースもあるだろう。唯一無二の友達になれる可能性だってゼロじゃない。でも、たぶん、時を経て、子供が育っていく過程で、本当に必要ではない人は自分の人生から消えていくものだ。

余談だが、昔いけすかないママ友に辟易していた私の母は、私が進学して関係が離れていくと、せいせいしていた。「あのお母さん、自慢話と悪口しか言わないから苦手だったのよね」と。今、まさに自分が悪口を言っていることに気づいていないところが母のチャームポイントではあるのだが。

悩みも話せない友達、どうでもいい友達……友達はとにかく数が必要だと思う人は、どうぞ、そういう人をキープしてください。数が増えても、孤独感と余計な予定と出費が増すだけだし、本当に必要なときに助けてくれる人はそこにひとりもいない気がする。

私は数はいらないんじゃないかと思っている。「不平不満と愚痴を吐き出せて、なおかつエンタメにできる」友達と、「境遇も思想も異なるけれど、気づきを与えてくれる」友達が数人いればいいかな。もちろん、仕事や人間関係、そして金銭的に実害がない範囲に限る。近所じゃなくてもいい。むしろ遠距離もありだ。

つまりは、適度な距離を保てる、少数精鋭の布陣が最高だと思うのよ。

●虚ろな人間関係を描く「ママ友ドラマ」を観たい人には…
『名前をなくした女神』(フジテレビ系・2011年)
出演:杏・尾野真千子・倉科カナ・木村佳乃

『マザー・ゲーム ~彼女たちの階級~』(TBS系・2015年)
出演:木村文乃・貫地谷しほり・りょう・檀れい

●隣人と友達になるのは避けたほうがいいという教訓ドラマ
『美しい隣人』(フジテレビ系・2011年)
出演:仲間由紀恵・檀れい

『砂の塔~知りすぎた隣人』(TBS系・2016年)
出演:菅野美穂・松嶋菜々子

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