時間は過ぎて行くのに、そこにあるのは「無」で。【はらだ有彩】

時間は過ぎて行くのに、そこにあるのは「無」で。【はらだ有彩】

先の見えない大変な日々が続いています。会社にも行かず、友だちにも会えず、うちの中にいると、つい”ひとり”になってしまった気がして、寂しい気持ちになることも。そこで、ウートピは「1往復エッセイ」を始めます。気になるあの人へ「最近、どうですか?」とたずね、「こちらはこんな感じです」と回答する。そんなささやかな現状報告と、優しくて力強いメッセージをお届けします。

今回は、ウートピで対談をしてくださったお二人。ライターでコラムニストの大木亜希子(おおき・あきこ)さんから、テキストレーターのはらだ有彩(はらだ・ありさ)さんにこんな質問が届きました。

【はらださんへ】

コロナの影響で、『考える時間』が増えているけれど、こんな今、脳内は何を占めていますか? 私は、30年間で初めて物欲が発令してしまい、洋服を買いまくるという荒業(あらわざ)に出てしまいました。寝ても起きても「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」。ストレス解消のために、身体が物欲を発散することでSOSを出しているのでしょうか、これがまた、そんなに悪くないです……。

5文字書いては、消去を繰り返し…

亜希子さん、こんにちは。

実は亜希子さんから質問をいただいたとき、まさに数時間を溶かしてしまって絶望していたところだったので、Wordを開いてヒェッと声が出ました。よーし原稿をやるぞ、と気合いを入れて、机の前でウンウン唸っているうちになぜか夜になっていたり、朝になっていたりの毎日です。

(エッ何で!?原稿をするために机に向かったのでは?決してサボってはいなかったはず。でもなんか、5文字しか増えてなくない?全体的には減ってない?じゃあ何してたの?「無」?「無」をやってたの?)と混乱して気づいたのですが、たぶん、考えていたんですよね。サボってなければ。考えることって、考えた結果を何かに書きつけない限り「無」から具現化しないので、「0.7」みたいな状態だと情状酌量の余地なく「無」なんですよね。ビビる。

インターネットの海を漂う、いつかの誰かのもの

そしてゾゾタウンという文字を見て、またヒェッと声が出ました。鬼門です。鬼門なのです。厳密にはゾゾユーズドが鬼門なのです。別にゾゾタウンとゾゾユーズドが憎いわけではなく、むしろその逆です。何なら株式会社ZOZOに限らず、古着屋さんの通販サイトとか、オークションサイトとか、古着市場なら何でも大好きなのです。それも、往年の渋いブランドが売りに出されて、値付けする人の価値観によって価格が超バラバラに設定されているのを見るのがたまらなく好きなのです。

もちろん適宜購入もしますが、支払う金額に対して、見て楽しませてもらっている時間のコストパフォーマンスが高すぎるので、サイト運営者の人に対しては何というか、「えろうすんまへん」と思っています。ちなみにメルカリは売り手と買い手が近すぎて、こういう楽しみ方には向いていないというのが私の持論です。

とにかく、私は思わず「えろうすんまへん」と言ってしまうくらい、インターネットの海を漂う、いつか誰かのものだった、今は持ち主の手を離れている服を眺めるのが好きなのです。インターネットショッピングも考えることと同じく、決済ボタンを押さない限り「無」から具現化しないので、「0.7」みたいな状態だと情状酌量の余地なく「無」なんですよね。時間は経ったし、絶対何かしてたはずなんだけど、手元には何も残っていない。ビビる。

ふと蘇ってきた、謎の1時間

時間を成果物の確からしさで模り、アウトプットされた「もの」を眺めて自分を慰めようとすると必要以上につらい気分になる……という気付きを得たところで、ふいに小学生の頃の記憶が蘇ってきました。

小学校の廊下の片隅、保健室の前に「ニコニコお知らせ掲示板」というような、ポップすぎて虚無を宿した立て看板が設置されていました。身体測定などで生徒たちが保健室前に並ぶときには、他に娯楽がないのでずーーーーっとその掲示板を見るしかありません(待つのが退屈すぎて、一度「小瓶に入ったビーズを、別の空き瓶に一粒ずつ移す」という遊びを編み出したところクラスで若干流行したのですが、速攻で先生に見つかり、ビーズ禁止令が言い渡されました)。

あいうえお順に測定していくので、「はらだ」の「は」行の番が来るまで15分くらい。掲示物は一切更新されないので、去年の身体測定のデジャヴを感じながら、それでも見るしかありません。

A2ポスターに青い文字で書かれた見出しを今でも覚えています。

——窓もドアもない部屋に人間を閉じ込めると、その人の24時間は、体感として25時間になる。

24時間が!!!?? 25時間に!?? その1時間は何!!!!???

悔やまれるのは子どもだったため、肝心の本文が忘却の彼方へ消えてしまったことです。でも見出しは絶対にこの文言でした。記憶を絞り出すと、「太陽光を浴びず、日の出・日の入りも感じられない環境だと、体内時計が狂う」という健康コラムだったはず。小学生の学びとしては「朝の時間にきちんと起きて、朝ごはんを食べようね」というところでしょうか。

後になって「24時間 密室 25時間」とかで検索してみたものの、手がかりはゼロ……。ホワイトキューブの中に鉄パイプのベッドがぽつんと置かれている様子を想像して、子供心にトラウマを作っただけでした。

時間は案外いい加減なもの

時間が「無」に帰したように感じて元気がなくなると、私は必ずこの一文を引っ張り出してきます。そうすると「すごーく長い時間を無為に使ってしまった気がしたけど、すごーく長い時間って、本当にすごーく長い時間かどうか誰にも分らないのでは!?」と元気が出てきます。そんなこと言ってないで原稿は絶対にやった方がいいし、時間よりもソースが「無」ですが、落ち込んでますます何もできないよりは有意義な過ごし方だと自分に言い聞かせています。

時間は「もの」で模(かたどら)れないし、体感でも測れない!時間はいい加減なもの!夕方の5時から活動し始めても、(今日一日を無駄にした)とへこむ必要なし!

と言いつつ、今これを書きながら思い出しました。やっぱり私が間違っていました。

正確には「窓もドアもない」ではなく、「窓も時計もない」です。ドアがなかったらそもそも入室できへんやんけ。やっぱり時間よりも私の方がいい加減かもしれません。

それでも私の部屋には窓もあるし、ドアもあるし、時計もあるし、インターネットもあるので、どうにかこうにか24時間を生きようと思います。ドアから出て亜希子さんにお会いできる日を楽しみにしています。

次回は、はらださんから大木さんへ

大木さん 

■質問1
私はルームシェアをしているのですが、昨今の「同居している人以外と会わない」という感染症対策のために、ひたすらルームメイトと二人きりの世界で生きています。こうなってくると関係の肩書はすべて吹っ飛んでしまって、「運命共同体」のようなものだと最近は感じているのですが、亜希子さんのお家ではどうですか?

■質問2
外に出て人に会うということが制限されている昨今ですが、私はこれはいわゆる「自分のためにおしゃれとか美容していると言ってみたって、結局ちやほやされたいからでしょ~」みたいなアレにカウンターパンチするチャンスなのではと思っています。亜希子さんはこの先もう当分人に会わないと決まったら、どんなおしゃれや美容をしますか?あるいはどんな風にしませんか?

どちらかを選んでご回答いただけると幸いです。

*大木亜希子さんからのお返事は、5月22日(金)公開予定です。
(企画:安次富陽子)

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