山内マリコさんインタビュー・前編

「こうしなきゃ」よりも「こうしたい」山内マリコがJJを読んでいる女の子に伝えたかったこと

「こうしなきゃ」よりも「こうしたい」山内マリコがJJを読んでいる女の子に伝えたかったこと

作家の山内マリコさんが25歳の女の子に向けて書いたエッセイ『The Young Women’s Handbook〜女の子、どう生きる?〜』(光文社)が5月27日に発売されました。

同書は2018〜2019年にかけて女性ファッション誌『JJ』(同)で連載された文章をまとめたもので、その月の巻頭特集のコピーをテーマに山内さんが綴(つづ)っています。

JJ編集部によると山内さんに連載を依頼したのは「上から目線ではなく、シスターフッドの考え方を持った女性だから」と言います。

「イケイケなコピーが躍っている赤文字系の雑誌で『無理をしなくていいんだよ』と伝えたかった」と話す山内さんにお話を伺いました。前後編。

※インタビューはオンラインにて実施。

作家の山内マリコさん

作家の山内マリコさん

『JJ』読者に伝えたかったこと

——『JJ』と言えば、男の子の視線を意識したコンサバファッションが中心のいわゆる「赤文字系雑誌」です。そんな雑誌で、例えば「インフルエンサーになれなくても」(Chapter.7)で書かれていた「大事なのは、他人が自分をどう思っているかじゃなくて、自分が自分をどう思っているか。」というメッセージは目を引きました。連載の経緯を教えてください。

山内マリコさん(以下、山内):JJ編集部の方と親しくしていて、「JJを読んでいる女の子に山内さんからメッセージを送ってほしい」と言われたのがきっかけです。私も彼女も10代のとき『mc Sister』*の読者だったこともあって、すぐに方向性が決まりました。『JJ』で『mc Sister』的なメッセージを発信するのが裏テーマでした。

昔から雑誌は好きなのですが、本屋さんで女性誌がばーっと並んでいるのを見ると「うっ」となることもあって。「こうしろ」「ああしろ」「かわいくなれ」「きれいになれ」と言われている気がして、どこか疲れも感じていたんです。それでも欲しい情報があるし、ときめきを求めて雑誌を買うんだけれど、同時に強い刺激も受けて、毒と薬を一緒に飲んでいる気がすることも多かった。

そんなことを思い出しながら、『JJ』という、イケイケなコピーが躍って、キラキラな女の子が読んでいる雑誌で、かつての『mc Sister』魂を炸裂させたというか。大事なのは自分だし、誰にも自分を明け渡す必要なんてないし、無理もしなくていいんだよと、伝えられればいいなあと思いました。

*『mc Sister』:1966年に婦人画報社(現・ハースト婦人画報社)から創刊され、2002年に休刊した女性誌。

——連載が1冊の本になってみていかがでしょうか?

山内:エッセイはJJの読者ターゲットの25歳の独身女性に向けて書いてほしいということだったんですが、改めて読み返してみると、もうすぐ40歳になる私にも響いて驚きました(笑)。年下の女の子に向けて書いているからといって、自分にはもう必要のない言葉というわけではなく、自分で書いた文章に、なんだか励まされる部分もありました。

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「若い」ってそれだけで弱い存在

——読者に向けてのメッセージということで、執筆する際に気をつけた部分はありますか?

山内:「こうしろ」「ああしろ」とか、お説教みたいなことは絶対言いたくないなと(笑)。あんまり強い言葉は、人を疲れさせる。読むお守りというか、サプリというか、心が弱ってるときに逃げ込める場所になればと思いました。読者が若いからって、上からものを言わないように、なんなら下から書いてます。

——上からじゃなくて下から?!

山内:やっぱり「若い」というだけで、いろんなことを言われるんですよね。若いってそれだけで弱い存在だったんだなと、今なら分かります。世間からはひよっこ扱いなんだけど、25歳にもなれば人間としてほぼほぼ出来上がってくる。10代の頃はどんな言葉にも耳を傾けられたけど、そういう素直さは薄れてくる年齢でもありますよね。自分が25歳の頃の感覚を思い出しながら、できるだけすっと届くよう、言葉は選びましたね。

——私も山内さんと同じくらいの世代なのですが、20代の頃にいろいろ言われて嫌だったことを思い出しました。昭和世代からいろいろ言われた世代というか、私のために言ってくれているのかもしれないけれど、それだけでは割り切れないことも多かったというか……。

山内:私たちの世代ってもしかしたら、説教に慣れ過ぎちゃっているのかもしれないですね。しかもその説教を「うるさいなぁ」とか「古いなぁ」と思っていたのに、内面化してしまってもいる。今は、それを現代の価値観にアップデートさせていっている最中ですよね。下の世代には老害的な意見の押し付けはしたくない。私たちの世代でせき止めて、ろ過して、いいものだけをパスしていかないとと思います。

——反響が大きかったテーマは?

山内:「Chapter.5」の「どうしてあんなに疲れていたのか?」という回は、私のツイッターにリプライが来たり、担当の編集者さんから、編集部まで電話をかけてきてくれた読者がいたと聞きました。20代は若くて元気いっぱいみたいな言われ方をするけど、私自身は仕事が忙しくなった30代より、暇で自分を持て余していた20代の頃のほうが圧倒的に疲弊してました。

世間との摩擦に弱いというか、心身ともにまだ柔らかすぎて、ちょっとのことでへとへとになってた。そういう実体験を書いたところ反響をもらって、すごくうれしかったです。もっと彼女たちの励みになったり、張り詰めた気持ちを楽にしてあげられるようなメッセージを届けなければと気合いが入りました。

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「こうしなきゃ」よりも「こうしたい」

——雑誌やメディア、世間が発信する「こうしろ」「ああしろ」というメッセージをウートピ編集部では「呪い」と呼んでいるのですが、呪いを解く方法があるとしたらどんなことだと思いますか?

山内:私は、積極的に“変な人”になるのをおすすめしています(笑)。女性は従順におとなしく、みたいな美徳を押し付けられてきたので、自分から“女らしく”雑用や苦労を買って出てしまう。これを田嶋陽子さんが「内なる奴隷根性」と呼んでいて、「まさに!」と思いました。

無理して我慢していると、のびのび自由に楽しくやっている人を妬(ねた)ましく思ってしまう。でも、ネガティブな感情は結局は自分を苦しめることになる。「こうしなきゃ」よりも「こうしたい」のほうが楽しいし、「こうしたい」を選んでいけばおのずと自由になる。自由な人っておおむね変わっていますよね(笑)。私自身も、内なる奴隷根性をやっつけるべく闘っている最中ですが、お仕着せの女性観から自分を解放するには、「あの人は変わってるから……」と呆(あき)れられてるくらいでちょうどいいんじゃないかな。

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(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘、モデル:久保田メイ)

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