「どうして声をあげるんですか?」アルテイシア・せやろがいおじさん 最終回

まず「あの煙なんやろ?」と思わせてみる。社会を巻き込む「賢い」発信術

まず「あの煙なんやろ?」と思わせてみる。社会を巻き込む「賢い」発信術

作家のアルテイシアさんが発表した、新刊『モヤる言葉、ヤバイ人 自尊心を削る人から心を守る「言葉の護身術」』(大和書房)。ハラスメントの嵐が吹き荒れる、何とも生きづらい“ヘルジャパン”を生き抜く実用書をつくりたい──。そんな願いを込めて、(中森)明菜返し・エジソン返しなどあらゆるシチュエーションに対処しうる「言葉の護身術」がユニークに綴られています。

そのアルテイシアさんが対談相手に指名したのは、YouTubeをはじめSNSで政治や社会問題に鋭く斬り込んでいく「せやろがいおじさん」こと、芸人の榎森耕助さん。「話題にしづらい問題をどうして取り上げるの?」をテーマにお話しいただく連載の最終回は、社会問題の当事者を救い、かつ世の中を巻き込む賢い発信術についてお聞きしました。

トーンポリシングで問題の背景を濁さない

──これまで、話しづらいことを議論する時の「態度」について話してきました。では実際に、どんなコミュニケーションを心がけたらよいか実践編を考えていきたいと思います。

せやろがいおじさん(以下、せやろがい):抑圧されている当事者が声を上げると怒りの感情を伴い、「この言葉で状況が変わらなかったから次は」とどんどん強い言葉になって、そこだけ抜かれた結果「言い方が悪い」とディスられる姿を見かけます。このトーンポリシング(論点のすり替え)を目の当たりにすると、じゃあ一体どうすればいいんだろうとよく考えます。

アルテイシア(以下、アル):私、せやろがいさんがEXITの兼近さんに語りかける動画が好きなんですよ! 目の前で一緒に飲んでいる想定で、エア兼近さんにトーンポリシングについて優しく教えるっていう。


EXITに聞いて欲しいことがあるので飲みに誘ってみた

──オリパラ組織委員会だった森喜朗元会長の女性差別発言を批判した人たちに「石をぶつけて攻撃するみたいで気持ち悪い」と言った兼近さんの言動をトーンポリシングと分析して、代わりに「ジェンダー格差のある日本の社会構造を変えたいと思って声を上げている人たちの問題意識に向き合ってみたら?」と提案している動画ですね。

せやろがい:抑圧され、ずっと抗議しているのに状況が変わらない人たちの言葉の強さを「その言い方よくない」と切り捨てるのは100%トーンポリシングだと思うんです。そうやなくて、彼らが声を上げている「背景」に着目して欲しかった。でないと、抗議した人たちの抱える問題が火中の栗になってしまいそうで。

アル:例え話もわかりやすかったです。兼近さんが誰かに足を踏まれて「どけてもらえますか?」と丁重にお願いしても聞いてもらえなかったら「痛いねん!」と怒るやろ? って。その抗議に対して「言い方がよくない」というのがトーンポリシングやで、と説明されていてその通りだと思いました。あの動画、全人類に観て欲しいです!

SNSのシェアや「いいね!」も立派な発信

──コロナ禍では、お肉券・お魚券の阻止など私たちの声が行政に届いた実感を得られるケースも出てきて、SNSでの発信も活発になってきたように感じます。「見て見ぬフリをすることは必ずしも得策でない」と気づいた人が賢く発信するには、どんな方法が考えられるでしょうか?

アル:声を上げるのは勇気がいるし、声を上げ続けることに疲れる時もありますよね。疲れた時は休んでほしいです、元気がないと法螺貝も吹けないから。そして「批判」だけじゃなく「応援」もすごく意味のある行動だと伝えたいです。賛同する意見にリツイートやシェアや「いいね」をするだけでもいい。そういう一人一人の声が集まって、大きな声になるから。

それこそトップにいるおじさん達の価値観は変わらなくても「今こういうのが支持されるんだな」と気づかせれば、お金の匂いに敏感なおじさんや票で動く政治家の関心を惹きつけられる。SNSは社会を変える新しいツールだと思います。

せやろがい:最近だと「五輪で酒売るぞ」が撤回されたのも、おそらく運営サイドがSNSを見た結果ですよね。コロナ禍でリアルな活動が限られるからこそ、SNSがアクティビズムを獲得した気がします。オモロイと思ったのが、入管法改正反対のツイッターデモ。与党の幹部が「検察庁法改正の時はFAX届いてたけど今回は少ないから大したことない」と言ってる、という記事が出たら、みんな「よっしゃFAX送ったれ!」と一斉送信したっていう。「まだFAXかい!」という絶望感もありつつ(笑)、団結の機運が発生しやすいのもSNSの利点ですよね。

アル:匿名性が高く、声を上げても直接殴られない場所ができたことは大きいですよね。森さんの女性差別発言に15万もの署名が集まったのもSNSの力ですし。狼煙を高く上げることで、無関心だった人も「あの煙なんやろ?」と気づいてくれる。それは一人ひとりのリツイートやシェアが燃料になるんですよね。

せやろがい:社会問題に対して「これアカンやろ」「まずいよな」と考える人は多いけれど、「発信して誹謗中傷されたら怖いから黙っとこ」って行動に移さない人もいると思うんです。でもその人たちが黙っていると、ヤバい世の中は変わっていかない。沈黙は今の社会をそのままにしておくことに「加担」しているようなものです。その感覚がもっと広がればいいですね。発信が難しいなら、インターネット上でできる「署名」って手もある。

アル:そうですよね。エマ・ワトソンも国連スピーチで「悪が勝利するために必要なたった一つのことは、善良な男女が何もしないこと」と話してました。つまり善良な人々の無関心と沈黙ですよね。

誰でも「行動する傍観者」になれる

──発信のリスクを負いたくない・安全地帯にいたい人が「沈黙する善人」にならずに済むためには、どうすればいいでしょうか。

アル:「行動する傍観者」になること、まずは半径5メートルで自分にできることを考えることじゃないでしょうか。たとえば後輩が上司にセクハラ発言されていたら「それマズいですよ」と一声かけるとか。「安土桃山生まれですか?」とかね。安土桃山どころか奈良時代みたいなおじさんもいますけど。

——高床式住居に住んでるみたいな(笑)

アル:ねずみ返しのある家(笑)。そうやって一声かけてくれる人がいるだけで、被害者はすごく救われますよね。「大丈夫?」と声をかけるだけでもいい。見て見ぬふりをせず助けてくれる人がいる安心感があれば、助けを求めやすいから。

──性教育YouTuberで助産師のシオリーヌさんと動画をつくられていましたよね?


#ActiveBystander=行動する傍観者

アル:はい。呼びかけるべきは大多数を占める「沈黙する善人」なのでは、と考えて動画をつくりました。この動画はツイッターも含めて270万再生されて、メディアにも広く取り上げられたんですが、それもシェアしてくれた人たちのおかげですよね。

せやろがい:不買運動もアクションのひとつですよ。差別的な発言を繰り返す企業の商品を買わない、も立派な意志表明。反対に「この会社はSDGsに熱心に取り組んでいるから、少し値は張るけど買ってみよう」というキャンペーンを自分の中で実施してみるとか。リスクもありません。

アル:そうそう、全力で膝パーカッションです!新刊にも書いたけど、私たちは「何もかもはできないけれど“何か”はできる」んですよ。自分にできることは何だろう?と考えて、みんなでアクションを起こしていきたいですね!

(聞き手・編集:安次富陽子、構成:岡山朋代)

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