「彼氏はいるけれど結婚したいのか、したくないのか自分が分からない」「相手のことを大好きだと言える確信が持てない」「自分にピッタリな人に出会えない」——仕事はバリバリこなせても恋愛ごとになると自信を失ってしまう、そんな女性が多いようです。
そこで、以前『友達のフェイスブックにイライラするのはなぜ? 脳科学者と心理学者が解説する「嫉妬」と「妬み」の正体』で悩める女性に助言をいただいた、脳科学者・中野信子さんに再び解決策をお聞きしました。
恋愛はただ好き、心が動く、という感覚が動かしているというのが当然だと思っている人が多いでしょう。でもそこには心ではなく、体と現代の文化が私たちを揺り動かす要素が詰まっていたのです。
パートナーと別れの直後はつらくても、新しい出会いが必ずある。オトナの女性なら知っていることですが、できればそんなに体験したくない、失恋。
ところで、失恋の喪失感にも脳の仕組みが関係していることを知っていますか?
脳科学者の中野信子さんにその仕組みについて、詳しく聞きました。ロジックがわかれば、今後失恋に思い悩むことはないかもしれない……? と期待をしつつ、読み進んでもらえたら幸いです。
自分の一部がなくなった感覚に陥る、失恋
——彼にフラれた、という前提でお聞きします。ずっと彼のことを忘れられないとき、脳では何が起こっているのでしょうか?
中野信子(以下、中野):ちょっと長くなりますが……プレーリーハタネズミの話を知っていますか? プレーリーハタネズミのオスは最初に交尾したメスと生涯、添い遂げるという習性があるんです。
初めは同じ種類のメスとカゴの中につがいで飼い、しばらくしたらメスをアメリカハタネズミと入れ替える。人間ならそのままくっつきそうだけど、オスは以前のメスの記憶があって新しいメスを選ぶことができないんです。
特定の個体と愛着が形成されてしまうと、片割れがいなくなったときに体の一部がなくなったような感じを脳が覚えてしまう。
——それが失恋ということですよね。
中野:はい。なかなか忘れられないのは、それだけ愛着の形成度合いが強かったということ。スペックなどで判断する領域がその部分を司っているわけではないので、「私ダメ男ばっかりとつきあってきました」という人は、なかなかその愛着からは抜けにくいということです。
——恥を忍んで正直に言いますが、ダメ男ほど魅力的に感じることがあります。よく「ダメな子ほど可愛い」とも言いますよね。
中野:昔から残っている言葉やことわざは、それなりに意味があります。それが20世紀になってやっと科学的に証明されてきたんですよね。その「ダメな子ほど可愛い」にのっとると、ダメ男のほうが生理的な影響を及ぼしやすいんです。神経でつながると考えてもらったほうが話は早いと思います。
——神経ですか?
中野:自分の腕が事故で切断することになりました。でも10年経過しても腕の感覚を忘れていないことがあります。それを“幻肢(げんし)”と言います。腕がなくなっても痒くなったり、痛くなったりする“幻肢痛(げんしつう)”という現象が起きるんです。
忘れたい恋には向き合って、そして心ゆくまで泣く
——その幻肢痛を取り除くにはどうしたらいいでしょうか? 失恋解消法にも通じそうですが。
中野:失った腕が右手だったとしますよね。その失った部分にゴム製の腕をつけて、治療をしてあげるんです。幻肢痛がなぜ起こるかというと、脳にまだ右手の領域があるからです。だから同じものをつけて、本物にするように治療を施す。あとは左手を鏡に映して見せて、右手に見えるようにしてあげる方法もあります。その左手を治療すると痛みが止まるんですよ。
——その治療法を失恋に例えるとすると……?
中野:好きだった相手を忘れるためには思い出すんです。「こんないい思い出がありましたね」と言いながら……泣きましょう。記憶そのものを変えることはできませんが「いい思い出だったね」と、タグをつけ変えることはできます。そして脳に思い出をしまい直すんです。それは一回では解消しきれないので、何度も頑張って繰り返すんです。
——いい思い出も悪い思い出も……すべてということですよね。
中野:覚えている限りで構いませんけどね。この方法は、震災や事故などで精神的ダメージを受けた人たちにも適用されている治療法です。
——その記憶を通り越して、別れて何年か後に復縁するカップルがいますね。
中野:いい思い出しかないから「またつきあったら楽しいんじゃないか」と錯覚するんです。まあ恋愛そのものが錯覚みたいものですし……(笑)。人間って自分に都合よくできていますから、辛かったときのことって忘れちゃうでしょう?
中野さんが提案してくれた失恋解消法。少し胸が痛みますが、すごく効果的な方法であることは間違いありません。自分の中にくすぶった気持ちがあるのなら、荒療治を覚悟して試してみてはいかがでしょうか? きっとその先は楽しい世界が見えてくるはず。
【第1回】「恋愛の教科書がない」 “タラレバ娘”世代 脳科学者に聞く、恋愛の処方箋
【第2回】「恋しなくちゃ」と思い込んでいる貴女へ 脳科学者に聞く恋愛のカタチ
【第3回】SNSによって生まれた新たな恋愛観
【第4回】脳のクセを使えば「運命の人」に出会える
【第5回】倦怠期と脳のクセについて