人生100年時代と言われる現代ですが、長生きをしても「健康」でなければ自分の満足のいく人生を送れないかもしれません。健康を維持しながら長生きができれば、より自分らしい人生プランを考えることができるのではないでしょうか。
健康に生きるためにいま注目されていることのひとつが「睡眠」です。睡眠時間の長さだけではなく、「睡眠の質」について気にしている人も増えています。スマートウォッチのようなウェアラブルデバイスで睡眠の状態をチェックしたり、運動やストレッチ、サプリメントや飲料などで睡眠の質を向上させたりしている人もいます。
「健康長寿」を目指し、最先端の研究を学ぶYoutube番組「生命科学アカデミー」では、今回、ゲストに筑波大学の柳沢正史先生をお迎えしました。同プログラムのHIROCO学長が聞き手となり、「睡眠」の奥深さについて迫ります。

柳沢先生(左)とHIROCO学長(右)
睡眠に効果的な運動&食事
──眠る前に、コーヒーなどのカフェインをなるべく飲まないということは気をつけていますが、運動でも意識することは何かありますか?
柳沢正史先生(以下、柳沢):昼間に運動、いわゆるエクササイズまではしなくとも、アクティブに体を動かす生活をしていたほうが、夜の睡眠は良くなります。
──ああ、そうなんですね。
柳沢:ずっと動かないでいると、昼夜のメリハリが浅くなります。昼間アクティブであればあるほど、夜の睡眠も良くなると思ってください。ただし、激しい運動を睡眠の直前にすると、その興奮が残ってなかなか寝つけないので、睡眠時間の直前の激しい運動はしないようにしてください。
──先生はどんな運動をされていますか?
柳沢:私は、実はきちんと運動できていなくて、ダメなんです(苦笑)。唯一、自転車で通勤しているくらいですね。しっかりこぐと6~7分で着いて脈拍もそれなりに上がりますけど……褒められるような運動ではありませんね。
──1日30分くらいは、軽い運動をと言いますよね。
柳沢:そのくらいできるのが理想ですね。
──食事についてはいかがでしょう?
柳沢:いろいろな食べ物が話題になることがありますが、万人にとって「これを食べれば良くなりますよ」っていうものは存在しないと言っていいと思います。夕食に重いものを食べると残ってしまいますので、量や内容にも気をつけていただきたい。
──食べ過ぎないように。「あたたかいお風呂に入るといい」とも聞きますが、寝るどのくらい前にといった目安はあるのでしょうか?
柳沢:入眠しやすい入浴方法には実は科学的根拠があって、寝る1~2時間前くらいに、あたたかいお風呂にちょっと長めに入って、いわゆる「深部体温」を0.5℃くらい上げてあげるといいんですよ。
──「深部体温」はどのように測れば?
柳沢:目安としては、自分で「あったまった」とか、ちょっと汗をかくくらいを意識していただくといいと思います。
──シャワーよりも湯船につかるほうがいいですね。
柳沢:そのほうが、深部体温を上げやすいです。私は時間ができるとときどき、スーパー銭湯に行くのですが、その日は本当によく眠れます。
これは「温泉効果」といって、英語でも「Hot Spring Effect」という名前までついています。深部体温が上がって、それが戻るときに眠気を誘発するというもので、これは一応万人に通用します。
──ということは、スーパー銭湯へは夕方から夜に行くといい?
柳沢:理想的にはそうですね。極端な話、早めの夕食を食べた後に行くのが、睡眠という観点からは一番良いかもしれないですね。
──じゃあ、旅館とかはいいですね。
柳沢:そうですね。
──マインド的にもリフレッシュされますね。
柳沢先生の夢「睡眠の未来」
──今後の「睡眠の未来」というか、先生の研究の未来はどうなっていくと思いますか?
柳沢:そうですね。私が行っている基礎研究については、第1回で申し上げました。どうして我々は眠らなければいけないのか、「睡眠の機能」ですね。それから「睡眠の制御」、ずっと起きていると眠くなる実体は何なのか、これに迫っていきたいと思っています。これが私の現役の間に解けたら、本当に大きいので。それを夢描いています。
それから、社会実装というか、応用面では、筑波大学発のベンチャーを立ち上げて、誰でもどこでも睡眠の脳波をはかれるようなデバイスを開発しているので、これを使って「睡眠脳波のビッグデータ」と呼べるようなものを。何十万人、できれば100万人とか、そういう方々の睡眠脳波を集めることによって、そこから何かが読み取れてくるはず。もしかしたら病気の予測や予防もできるようになるかもしれないので、そういうことも、ひとつの夢ですね。
(第11回へ続く)
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