男女のカップルの間でも「おたがいを縛りたくないから」「気持ちだけで繋がっていたいから」という理由で事実婚を選択するケースが最近、注目されています。
でも、そもそも事実婚と法律婚は何が違うのでしょうか?
事実婚にはどんなメリットとデメリットがあるのでしょうか?
アディーレ法律事務所の弁護士、吉岡一誠(よしおか・いっせい)さんに聞いてみました。
同棲とどこが違うの?
「事実婚」と似たような言葉として「内縁」や「同棲」といった言葉があります。それぞれ違うものなのでしょうか?
吉岡一誠さん:「事実婚」は、婚姻の意思をもって一緒に暮らしている状態を指すという意味において、判例上用いられている「内縁」と同じです。一方、「同棲」には結婚するつもりが特にない場合もありますよね。将来どうするかはまだ考えていないけれど、ただ彼氏・彼女と一緒に住んでいるだけなら、「事実婚」や「内縁」とは呼べません。
そもそもどういう条件が揃えば「事実婚」になるんですか?
吉岡:事実婚と認められるためには、①結婚する意思があること、②夫婦として共同生活を営んでいること、の2つが必要になり、これらの要件についてはさまざまな事情から総合的に判断されます。事実婚と認められることで、法律婚の場合と同様の権利義務が発生するんです。
婚姻意思や夫婦としての共同生活の実体があるかどうかは、何で決まるんですか?
吉岡:たとえば、「新婚旅行をした」「指輪を交換した」「どちらか片方の表札を掲げている」といった事実があれば、事実婚と認められやすいですね。その他にも、結婚前提で両親に会わせているとか、結婚式場の下見に行っているとか。結婚情報誌「ゼクシィ」を買って読んでいるだけではダメですが(笑)。
事実婚でも浮気はダメ?
事実婚なら浮気されても文句は言えないんですか?
吉岡:これは誤解している人がとても多いのですが、事実婚にも法律婚と同じように「貞操義務」があるんです。
以前、担当した案件で事実婚をしていたカップルの、男性の方が浮気をして女性が訴えたことがありました。その場合に男性の方が「事実婚なんだから、浮気したって平気でしょ」と反論したとしても、こういう言い訳はまったく認められません。事実婚でも、相手が浮気をしたらちゃんと慰謝料請求ができます。
確かに、「事実婚なら浮気しても大丈夫」と思っている人はいそうですね。
吉岡:ただし、「同棲しているだけ(=婚姻の意思はない)」場合は、事実婚とは認められず、慰謝料請求は認められないでしょう。事実婚では、このグレーゾーンで争われるケースが時々ありますね。「共同生活はしているけれども、婚姻の意思はない」と相手が主張してくる可能性があるんです。
例えば、冗談めかして「事実婚だから他に彼女がいてもいいでしょ」というような会話をしていた場合はどうなるんでしょう?
吉岡:シチュエーションにもよりますが、会話の中で「(他に彼女がいても)いいよ」と答えていた場合、不貞行為を宥恕(ゆうじょ)したことになってしまう可能性があります。つまり「浮気しても責めませんよ」と相手の不貞を見逃してあげる約束をした、とみなされてしまうんです。そのやりとりがメールや録音で残されていると、慰謝料がもらえなかったり減額されてしまったりするケースも考えれますね。
事実婚を解消したい時は、何をすれば解消したことになるんですか?
吉岡:基本は同棲をやめたら、自動的に解消したことになります。証拠として形を残したいのであれば、内縁の意思がなくなったことを書面に残したり、やりとりを録音したりメールで記録しておくといいでしょう。親に伝えておくだけでも、何らかの証拠が必要になった時は証言してもらうことができます。戸籍の変動がないので、法律婚よりずっとカンタンですよ。
唯一のデメリットは遺産相続
結局、どんなメリットとデメリットがあるんですか?
吉岡:一番のメリットは、夫婦別姓でいられるので、名義変更など煩瑣なことをやらずに済む点でしょう。それから「夫だから」「妻だから」という精神的負担も少なく、おたがいの自然な気持ちで繋がっていられるのもメリットと言えますね。
制度面でも、法律婚と事実婚はほとんど差がありません。健康保険や公的年金といった社会保障制度に関しても、法律婚と同じですし、別れた場合も、法律婚の夫婦と同じように財産分与を請求できるほか、制約はありますが年金分割も請求できます。
デメリットといえば、まず相続ですね。事実婚(内縁)では、おたがいに相続権が発生しないんです。そのためパートナーに遺産を残したい時は、「遺言」が必要です。ただし、遺言を残しても、パートナーの親や子といった法定相続人から遺産を要求されてしまうリスクはあります。なので、何十年と長年事実婚を続けてきたカップルが、相続のために晩年になって籍を入れるケースもあるんですよ。
デメリットは遺産相続だけ?
事実婚では、配偶者控除、扶養控除といった税金の優遇措置が受けられませんが、これは、パートナーがそれぞれ経済的に自立している場合はあまり関係ないですね。
事実婚に対する理解が後れている日本
子どもが生まれたら、どうなるんですか?
吉岡:子どもが生まれた場合は、「非嫡出子」として自動的に母親の戸籍に入ることになりますが、認知届を提出すれば、法律上も父子関係をつくることができます。ちなみに子どもがどちらの姓を名乗るのかは、自由に決められることになっています。親権は事実婚夫婦のどちらか一方が持ちます。
上述したようなデメリットや、世間からのマイナスイメージのために、やむなく法律婚を選択するカップルはまだ多いですよね。日本は事実婚に対する理解が後れています。フランスのパックスや、スウェーデンのサムボのようは事実婚制度が積極的に検討されるようになればいいな、と思います。
最近、耳にすることが増えた「事実婚」という言葉。でも、聞いてみると、意外に知らないことばかりで驚きました。日本において事実婚が一つの選択肢として市民権を得るにはまだ時間がかかりそうですが、制度面で法律婚とそれほど差がない以上、「気持ちだけで繋がっていられる」というメリットは大きいかもしれません。
(ウートピ編集部)