アルテイシア・太田啓子 対談 第1回

“普通の”夫と、子育てが難しいのはなぜ?【アルテイシア・太田啓子】

“普通の”夫と、子育てが難しいのはなぜ?【アルテイシア・太田啓子】

連載「○○と言われて微妙な気持ちになる私」を更新するたびに、「あるある!」と共感の嵐を巻き起こす、作家のアルテイシアさんとジェンダー問題について考える特別企画。

今回は、8月に刊行されるや否や一気に話題となった『これからの男の子たちへ 「男らしさ」から自由になるためのレッスン』(大月書店)の著者で、弁護士の太田啓子さんをゲストに招きました。連載1回目では、一向にアップデートされない男性たちのジェンダー感覚と、その中で子育てをする難しさについてお話いただきます。

おじさんたちの耳には聞こえない話

——お二人はもともとお知り合いで、親しい間柄でいらっしゃるんですよね。

アルテイシアさん(以下、アル):そうなんですよ。Twitterで相互フォローだったところ、2年くらい前に、太田さんからオンラインサロン「アルテイシアの大人の女子校」に入りたいと連絡をいただいて、それ以来のお付き合いですね。新刊読みました。間違いなく全人類必読の書ですね。

太田啓子さん(以下、太田):ありがとうございます。想像以上に好意的な感想を多方面からいただいて、とても嬉しく感じています。

アル:読者は、やっぱり男の子を育てているお母さんが多いですか?

太田:現役で子育て中の女性読者は多いですね。男の子に限らず、女の子を育てている方にも読んでもらっているようです。特に多いのは、「自分がモヤモヤしていた感覚を言葉にしてもらった」「夫にもぜひ読んでもらいたい」といった感想ですね。

子育て当事者ではない男性からのコメントも興味深くて、「小学校の頃、よくスカートめくりをしてしまったな、と冷や汗をかきながら読んでいます」とか。

アル:昔は当たり前のように行われていたスカートめくりも、性暴力のひとつですから。大人になって自覚できるようになるのは価値がありますね。一方で、フェミニズムやジェンダー関連のコンテンツって、一番届いて欲しい「おじさん」層に届かないという現状がありますよね。

太田:そうですね。性差別に無自覚な層にリーチするのは非常に難しいと感じています。

アル:会社がおじさんたちにこの本を配布して、読書感想文を書かせたらいいのに。なんなら私が審査員をやりますよ(笑)。

太田:興味のある人たちだけが知っておけばいい、というジャンルのものではないんですよね。SDGsが企業に求められるような時代だからこそ、ジェンダー教育がビジネスマンに必要な一般教養として、もっと広がってもいいんじゃないかなと感じます。新人研修とか、管理職になる際の必須研修に組み込んでもらうとかね。

アル:それはいいですね! いつもコラムで書いているけど、普段まともに社会生活を送っている普通の男性が、性差別や性暴力の話になると「ワカリマセン……」って脳がバグっちゃうケースが多いから、そういう人々にリーチさえできれば、真面目に向き合ってくれる気もする。

太田:とはいえ、ビジネスマンだけに知ってもらえればいいという話でもないから難しいですよね。「こういうことを学んでおかないと、そのうちに痛い目に遭うぞ」という危機感を煽らなければ、なかなか男性の関心をひけない。たとえば、「もっと学ばなければ、パートナーの女性から愛想を尽かされてしまいますよ」とかね。ただ、「そんなことを言う女性がおかしい」と言うような男性が出てきちゃうと絶望的なんだけど。

性暴力や性差別をエロネタする「普通の」男性

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アル:先日「ちゃんと学ばないと、あなたやばいよ」と思う知り合いの男性がいたんですよ。前職の元同僚で、子煩悩な40代の経営者なのですが、SNSで「路上で女性を押し倒した男が下着を奪って逃げた」というニュースのリンクをシェアしていて。そこに「パンツくださいって土下座してお願いせえ!ホンマおもろいニュースが多いわ」ってコメントを添えていた。

太田:性暴力をエロネタとして消費して、みんなに笑いを提供する、みたいなノリですね。

アル:地球の果てまでドン引きするレベルじゃないですか。これはスルーしちゃいかんと思ったから、「性暴力を面白ネタ扱いするのやめません? 現実に性暴力被害者はいっぱいいるんですよ。これで伝わらなければ、この事件の被害者が自分の娘だったら笑えるか?と想像してみてください」とコメントを返したんです。

本当は「自分の娘だったら」という表現はしたくなかったけど。「娘=自分の所有物」みたいな発想が間違っているし、女性を区別してもいいと誤解を招くから。

太田:よく言いましたよー。でも、そうとでも言わなければ伝わらないと判断したんだよね。

アル:そうそう。すると彼は無言でシレッと投稿を削除していたので、追いメッセージをしました(笑)。

「あなたを責めるつもりはないけれど、感覚が危ういのでこれを読んで欲しい」と、自分の書いた性暴力のコラムと太田さんの本を推薦したんです。そしたら「はい、失礼しましたー」ってナメた返信がきました。

太田:まるで地獄のようなエピソードですよ。

アル:「配慮に欠けました」「不快な思いをさせて申し訳ありません」みたいな謝罪のテンプレがあるけど、そうじゃないんだよ、そもそも認知が歪んでいることや感覚が麻痺していることが問題なんだよ、と言いたいです。例えばこれが児童虐待のニュースだったら、ネタにしてSNSに実名で投稿なんかしないでしょ。

エロネタと結びつける思考はどこからくるの?

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太田:性犯罪を目にしたらエロネタとして消費する仕草というのは、やっぱり社会の中で習得してしまう、させられてしまうものですよね。アニメにも漫画雑誌にも、頻繁にそういうシーンが描かれているし。

アル:そう、完全に「学習されたもの」だと思う。男の子を夫と一緒に育てていく中で悩んでいるお母さんって本当に多くて。女湯のぞきやスカートめくりみたいなシーンをアニメで見て、子どもがニヤニヤしていることにショックを受けて、「これはいけないことなんだよ」と教えたら、夫に「いちいち目くじら立てなくても」と言われたりとか。夫婦間の意識のギャップが大きすぎて、夫との子育てが無理ゲーだと感じるみたいです。

——子どもに対して、人格やセクシュアリティを否定するような価値観に屈する必要はないんだよ、と教育すべきだと考える一方で、従来の「らしさ」に乗っかって生きてもらうほうがもしかするとラクなのでは、と悩んでいる親御さんもいるような気がします。非常に悩ましいところですが……。

太田:私は、親と子どもが一緒に学びながら変わっていくことが大切なのかな、と考えています。私には息子が二人いるんですが、最近長男グループに混ざって次男も一緒に遊んでいるんですね。そこで、長男の友達が次男の帽子をいたずらしてどこかに隠しちゃったらしいんです。

アル:それはお子さんから報告されたんですか?

太田:帰ってきた次男が、「今日Aくんにいじめられたんだよ」って。そのお友達から「男のくせに泣くなよ」とからかわれたと言うんですね。でもそこで長男が、「男とか女とか関係ないよ」とすかさずフォローを出したらしいんですよ。

アル:すばらしいですね!!

太田:そのやり取りで別に友情が壊れた様子もないし、もしかするとそのお友達も、想像もつかないような切り返しをされて学ぶ機会になったかもしれないですよね。悪気なく、差別なんて意識もなくそういう発言をする子たちは必ずいるので、ある程度は子どもたち自身がぶつかりながら解決していかなくてはいけない。こういう時代を生きていく限り、避けられないんですよね。その上で、「
なにかお母さんにして欲しいことがあればいつでも言いなさい」と私は息子たちに伝えています。

夫との子育てが困難な理由

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アル:都会に住んでいるのか地方に住んでいるのか、という点でも、性差別への意識の持ちようが変わってくるんじゃないですか?

太田:それはありますね。地方だと、いまだに古いジェンダー観が根強く残っているところも多いと聞きます。

アル:女友達の夫は広島出身の50代なんだけど、「亭主関白・良妻賢母」な家庭で生まれ育ってるんですよ。そういう夫と一緒に息子を育てていると、やっぱり夫が「男の子なんだから泣くな」「強くならないとダメだ」みたいなことを言ってくると。

太田:ご友人は、子どもがジェンダーの呪縛に囚われないようにすごく心を割いているのに。

アル:そうなんです。でもそれを夫に伝えても、「この子が将来困らないように言っているんだ」、と。そういう話を聞いていると「おじさんはもっと日頃から若い子たちと接したらいいのに」と思うんですよ。

私は20代から30歳ぐらいの男子と話す機会があるんだけど、彼らの世代は「男らしさ」から自由になっている、ジェンダーイコール男子が多いです。非モテイジリや童貞イジリもしない、男同士で競い合わない世界に生きていて、フラットな感性を持っている。

おじさんはそんな若い世代と対話して、「俺の若い時と全然違う!」とカルチャーギャップを受けた方がいい。それで「男らしさの呪い」に囚われている自分に気づいてほしいです。

太田:そうですね。「あなたが生きてきた世界を否定するわけではないけれど、息子はこれから先、あなたとは違う世界を生きていくんだよ」「今までのやり方は、息子の未来にとってのサバイバルマニュアルにはならないんだよ」ということを伝えていく。それでも「今どきの若いヤツは理解できない」とか否定されちゃったら、正直お手上げなんですけどね。

アル:そういうおじさんは、ろくでもない読書感想文を書くんでしょうね(苦笑)。

第2回は10月15日(木)公開予定です。
(構成:波多野友子、イラスト:中島悠里、編集:安次富陽子)

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