「逆流性食道炎を治したい」と題し、消化器病指導医・専門医、内科指導医で、『胃は歳をとらない』(集英社)という著書がある三輪洋人(みわ・ひろと)医師に連載でお話しを聞いています。
これまで、症状や原因、悪化するとどうなるのか、謎の痛み、改善に良い&悪い食事、運動法、生活動作、診断法や検査法についてお伝えしました。文末のタイトル一覧からリンク先をご参照ください。
今回は、逆流性食道炎の薬での治療法についてお尋ねします。
胃酸の分泌を抑える薬の働きは?
——逆流性食道炎と診断された場合、どのように治療をするのでしょうか。
三輪医師:薬を内服する薬物療法と、生活習慣の改善の二本柱になります。
——生活習慣の食事、睡眠、運動、生活動作などについては以前の回で詳述したので読者の皆さんにはそちらを参考にしていただくとして、今回は薬物療法について教えてください。どのような薬を飲むのでしょうか。
三輪医師:胃酸の分泌を抑える「酸分泌抑制薬」を用います。逆流性食道炎は、食道が、胃から逆流する胃酸に長くさらされることで炎症を起こす病気なので、胃酸の分泌そのものを抑えると軽快すると考えられます。そのために開発された薬です。
具体的には、現在、逆流性食道炎の治療にあたって使われる標準的な薬を「プロトンポンプ阻害薬(PPI
:Proton Pump Inhibitor)」といいます。以前に診断法の説明のときにも、この薬を飲んで胸やけや呑酸(どんさん。酸っぱいものがあがってくる)などの症状が改善した場合は逆流性食道炎の可能性が高いと伝えました(第13回参照)。その薬のことです。
そして、胃酸の分泌を抑える作用がさらに強力なタイプの、「カリウムイオン競合型酸分泌抑制薬(P-CAB: Potassium-Competitive Acid Blocker)」という薬も登場しています。症状が重い、プロトンポンプ阻害薬で効果が見られない場合や再発した場合などに用います。
また、昔よく使われていて現在は市販もされている「H2ブロッカー胃腸薬」は、酸抑制作用が弱くてあまり効果がないこと、また使っているうちに効果が弱くなってくることが知られています。
——「プロトンポンプ」とはどういう意味でしょうか。
三輪医師:胃粘膜の壁(へき)細胞には、最終段階で胃酸を産生するプロトンポンプという部分があります。「阻害薬」とは、そのプロトンポンプの作用をさまたげる薬という意味です。薬の成分がプロトンポンプに付着して胃酸の分泌を抑えるわけです。
また、プロトンポンプ阻害薬という呼称は、薬効による分類名です。実際の製品名としては製薬会社が名付けたタケプロン(武田薬品工業)やネキシウム(アストラゼネカ・第一三共)、オメプラール(アストラゼネカ)、パリエット(エーザイ・EAファーマ)などがあり、ジェネリック医薬品(後発医薬品)もあります。
——「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」は具体的にどの程度の胃酸分泌を抑えるのでしょうか。
三輪医師:この薬を飲まないときに比べると、飲んだときの胃酸の分泌は約10%になります。とくに、胃酸がたくさん分泌されているときの食後に効果を発揮します。
1日1回、4~8週間服用を続ける
——「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」の用法用量はどうなのでしょうか。
三輪医師:初期治療として、1日1回の服用で、4~8週間服用することが基本です。「カリウムイオン競合型酸分泌抑制薬」の場合はまず4週間です。
1日1回でいいのは、服用してから約24時間、胃壁から胃酸を分泌する働きが抑えられるからです。この間は胃の中の胃酸の酸度が減るわけです。胃液の酸度が下がると、胃液が逆流したとしても食道へのダメージが少なくなります。
——1日のうちでは、いつ飲めばいいのでしょうか。
三輪医師:この薬は「いつでもいい」のですが、胃酸が盛んに分泌されて逆流しやすいのは食後なので、薬が効き始める時間(服用後2~3時間)を逆算して食事の1~2時間前ぐらいが良いと考えられます。
ただ、毎日飲んでいると、薬剤の血中濃度がある程度一定になるので、ほかの薬を飲んでいる場合や、飲み忘れを防ぐために、食後に服用をとアドバイスする医師も多いでしょう。ご自身のライフスタイルに応じて医師に相談しましょう。
——この薬はどのぐらいで効果が現れるのでしょうか。
三輪医師:プロトンポンプは毎日、胃の壁細胞に産生されます。そのため、1回飲んですぐに効き目が現れるわけではなく、十分に胃酸の分泌が抑えられるまでには2-3日ほどかかります。
ただし、抑制力が強いため、「3日の服用で約70%の人が、2週間の服用で約90%もの人が症状が改善した」という報告があります。そして、4~8週間服用を継続すると食道の粘膜に生じていた傷も回復します。
——「胸やけがおさまったので薬を飲むのをやめると、3日ぐらいでまた胸やけが始まった」と話す人もいます。
三輪医師:それもよくあるケースです。胃酸の分泌を抑えられるのは、薬を服用している期間だけなのです。粘膜の傷が治りきらないうちに服用をやめると、その後の胃酸分泌の増加でまた症状が現れることがあります。
初期治療の間は症状が治まっても処方された量を継続して服用してください。そして食道の粘膜の炎症が治るのを待ちます。これが初期治療時のコツです。
聞き手によるまとめ
プロトンポンプ阻害薬は強力に胃酸の分泌を抑える薬であり、多くの人が2週間の服用で症状が改善している、ただし、「3日で胸やけが治まったから完治した。薬はもういらない」として服用を中止するのは間違いということです。この点に注意して、初期治療を乗り越えたいものです。
次回・第18回は、初期治療で改善が見られない場合や、逆流性食道炎が再発したときにはどう治療するのかを尋ねます。
★お知らせ★
三輪洋人医師が学会長となって開催される「第28回日本ヘリコバクター学会学術集会」が、一般向きの市民公開講座「内視鏡、ピロリ菌、腸内環境…胃腸不安を解消!」をYouTubeにて配信します。2022年6月26日日曜13時~3ヵ月間、登録不要でどなたでも無料で視聴できます。
(構成・取材・文 藤井 空/ユンブル)