「仲の良い友人でもずっと一緒にいるのはつらい」「自分の言動を振り返ってウワーっとなる」「組織になじむまでに時間がかかる」--。
人付き合いは苦手ではなく、むしろ積極的にいろんな人と付き合っているのに、小さなことで疲れるのは「隠れ内向」だからかも……。
そんな「隠れ内向」の悩みや対処法を解き明かし、うまく生かすためのヒントを示した『何でもないことで心が疲れる人のための本〜「隠れ内向」とつきあう心理学〜』(日本経済新聞出版)が10月に出版されました。
完全な内向型の人ほどにはマイペースになれず、他人に対して感じよく振る舞おうと気を使って周囲に溶け込もうと頑張るタイプの「隠れ内向」について、心理学博士で著者の榎本博明 (えのもと・ひろあき)さんにお話を伺いました。全4回。
心を砕くべきは社交よりも親交
——これまで見てきたように、確かに人付き合いは疲れることもあるけれど、それでも周囲の人との関わりを大事にしていきたいと考えています。本に書かれていた「社交よりも心を砕くべきは親交」という部分が印象的でした。親交を深めるためには自己開示が大事とありましたが、詳しく教えてください。
榎本博明さん(以下、榎本):自己開示には、いくつかの効果があります。その一つに、人と関わることで自分の内面が見えてくる「自己明確化効果」があります。自己洞察効果と言ってもいいんですが。
分かりやすく例えると、僕が専門家として映画の試写会に呼ばれたとします。映画を見終わったあとに「150字くらいで感想を書いてください」と頼まれていざ書こうとするのですが、感動や楽しかったことを言葉にするのって結構難しいんですよね。でも、その感動をなんとか言語化することで、自分の内面の解釈ができるわけです。無理して言葉にすることで、モヤモヤっとした思いにはっきりした形ができてくるんです。自分が何を感じ何を思っているのか、それが明確になっていくんです。だから言語化することはすごく大事なんです。
そんなふうに日頃から自己開示をしている人は、自分の内面がだんだんと開かれていくんですね。つまり、自己開示とは言語化すること。自分の内面に区切りをつけて、意味を与えるんです。意味を与えないと、言語化できないんですね。それが語るということだから。自己開示というのは、自己を語ることで、自分の内面を整理する、モヤモヤした思いをハッキリさせる自己明確化効果があるんです。
——確かに、相手に話すことで初めて自分の内面や思っていたことに気付くことがあります。
榎本:人に語ることで、自分の中にあったものを吐き出してスッキリするという意味で、カタルシス効果もあります。例えば、腹が立ったことや悔しいこと、あるいはうれしいことを人に語るとスッキリしますよね。
もう一つは、「不安低減効果」です。不安になると人に話しかけたくなる。病院の待合室で知らない人に話しかけたくなるのもそれです。話しかけて「私も不安なんです」と相手も同じことを言ってきたら「不安なのは自分だけじゃないんだ」と思いますよね。自己開示をすることによって、不安が減るんです。
さらに、自己開示をして心を開いたら、相手も心を開いてくれることがあります。これは、「親密化効果」と言います。相手の自己開示は、信頼や好意の証と解釈されるという研究データが出ています。そこで、「相手が自分に自己開示をしてくれたんだから、お返しに何か言わなきゃ」という気持ちになって、自己開示の相互性が進んでいく。そうすると、心理的距離が縮まる効果が生まれます。
——自己開示をすることで、たくさんの効果があるんですね。
榎本:そうですね。これらの効果によって、自分の心の居場所ができていく。これがすごく大事なんです。だから、プライベートな付き合いや親交がなく、利害関係中心の人脈だけで生きてきた人は、当然、定年後は孤独になりますよね。社交で付き合ってきた人は、うわべの話や利害に関係する話しかしてませんから。退職して役に立たなくなったら、その人と付き合う意味がないですからね。
自己開示のポイントは相互性
——ちょっと話がズレるかもしれないのですが、急に自己開示をしてきて距離を詰めてくる人がいてこっちが引いちゃうこともあるのですが……。
榎本:人間関係が苦手な人にありがちですね。自己開示というのは、本来は相互性があるはずなのに、自分のことばかり話してくる。そもそもそういう人は、自分を受け入れてもらえる場が少ないから、話を聞いてくれる人がいると、相手にものすごく依存してしまうんです。人間関係は相互性が大事です。相互性がない人は、不適応な人だとみなされてしまいますし、一方的に深い自己開示をする人は、自分の思いを自分で抱えることのできない不安定な人とみなされ警戒されてしまいます。なので、自己開示も相互性が大切です。
でも、心の居場所となる親交を得るには、あまり難しく考えずに、思い切って自己開示する勇気が必要です。ときに嫌な反応が返ってくることもあるかもしれませんが、その場合は浅い社交にとどめるべき人物だと分かるわけですし。むしろ相手も自己開示してくれて親交に踏み出すきっかけになることのほうが多いと思います。そのような内面を共有する付き合いには、内向型が適性をもっているのです。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)