5月下旬、「東京ミッドタウン」(東京都港区)で開催された「WOMAN EXPO TOKYO 2018」にて、日経WOMAN創刊30周年を記念したスペシャル講演が行われました。
登壇者はニュースキャスターの安藤優子さん。「続けることは自分を育てること」をテーマに、働く女性たちにメッセージを送りました。引き続きイベントの一部をお届けします。
ひとつしかないトイレの個室で泣いた日々
上司のセクハラ・パワハラまがいの言動にも耐え、「男性と同じように働ける」とやりたくないことにも「ノー」と言わずに仕事をしてきた20代の頃の安藤さん。同級生がテニスをしたり、合コンに行ったりしているのを見て、「なぜこんな思いをしてまでやっているのだろう」と葛藤し、毎日のように泣きながら仕事をしていたと明かします。
「私がいた報道番組の当時のオフィスは、男性用トイレは大きいんですけど、女性用トイレは個室がひとつしかない。あたかも女性はいないかのような、とんでもない環境でした。その中で毎日のように『やめる』と言ってはトイレに入って泣くわけです」
ずっと自分の中にあった“エクスキューズ”
安藤さんが涙を流していた理由は、「言い訳をしてしまう自分」にあったと言います。
「私は、学生の頃から報道志望・メディア志望では一切ありませんでした。できればホテルを取り仕切るホテルウーマンになりたかったんです。
(スカウトされて入ったテレビの世界は)アルバイトの感覚だったので『下手くそ、何やってるんだ』と怒られると、『だって私、アルバイトだもん』『私、ほかにやりたいことがあるし』と、涙と同時にエクスキューズが出てきました。
当時のことで一番反省しているのは、いつも自分ができないことの言い訳を探していたこと。そんな私が人に認めてもらえるような仕事ができるはずもありません。逃げていたのです」
帰国チケットをみて惨めになった
そんな安藤さんの意識を変えたのが、1981年のポーランド取材だったそう。当時共産主義政権下にあった同国では、食料は配給制で、物資不足。観光客用に添えられた茶色の角砂糖ひとつでも「ほしい」と言われるほどだったそうです。
「私に課せられたのは、当時まだ非合法だった『連帯』の委員長(のちにポーランドの大統領になる)ワレサさんのインタビューをとってくること」
しかし、アポイントが取れず接触は難航。厳しい生活が1ヶ月過ぎた頃、ついに「嫌になった」と言います。
「とにかく日がな一日、ポーランドでいろんな取材をしながらその機会を待っていて。1ヶ月くらい経って、さすがに嫌になったんです。東京から様子を見にきた上司に。『もう帰りたい』と泣きつき、翌朝の帰国チケットを用意してもらいました」
上司に「わかった」と言われた瞬間は「本当に胸をなで下ろした」と素直な心境を吐露した安藤さん。しかし、フロントでチケットを受け取った途端に、「すごく惨めな気持ちになった」と言います。
「私はまた逃げるんだ、できないから日本に帰るんだ、と。そして、できないから逃げ帰るという自分の性根の惨めったらしさに猛烈に腹が立って、『やはり最後までやらせて欲しいと』と上司に頼み込みました。
始めて自分から積極的に仕事に向き合う姿勢を示したように思います。そこから、自分自身がちょっとだけ変わったような気がしました」
やめるのはいつでもできる
そして、話はテーマである「続けること」に。
「これまでなぜ続けて来られたか。それは『できないからやめると言うのはやめよう。できたらやめよう』と気持ちを切り替えたから。
生放送をもう何万回とやっていますが、今日の私は抜群にうまくいったと思うのは、2、3回。こんなに長くやっているのになんでうまくできないんだろうって思います。でも、その積み重ねが今を作ってきたのかなと思うんです。
私はできたらやめてやろうって、今でも思っています。できないから続けているんだと思います。できないからもっといい放送ができるんじゃないかなとか、もっとみなさんにうまく伝わる放送ができるんじゃないかなという気持ちを込めて仕事をしています。
だから、『続けることは自分を育てること』というのは、私は、自分でそういう自分をなだめたりすかしたりして(仕事に向かって)きました。それは、他人じゃないんです。自分で自分をなだめたりすかしたり褒めたり、許したり、叱ったり。そうやって今日までやってきたような気がします」
「WOMAN EXPO TOKYO 2018」は日本経済新聞社、日経BP社が主催する働く女性のための総合イベント。2014年に始まって以来、今年で5周年を迎えました。「Women of Excellence Awards(ウィメン・オブ・エクセレンス・アワーズ)」の第4回授賞式が行われたほか、ゲストスピーカーとして女優の草刈民代さん、米倉涼子さん、ニュースキャスターの安藤優子さんらが登壇しました。