「今でも飛行機で号泣したことを思い出す」安藤優子さん

「今でも飛行機で号泣したことを思い出す」安藤優子さん

5月下旬、「東京ミッドタウン」(東京都港区)で開催された「WOMAN EXPO TOKYO 2018」にて、日経WOMAN創刊30周年を記念したスペシャル講演が行われました。

登壇者はニュースキャスターの安藤優子さん。「続けることは自分を育てること」をテーマに、働く女性たちにメッセージを送りました。イベントの一部をお届けします。

「政治家はお姉ちゃんが好きだから」と言われて

40年以上報道の仕事を続けている安藤さんのキャリアのスタートは大学3年生の時。ひょんなことから報道番組のアシスタントとして飛び込んだことがきっかけだったそう。

「極めて封建的、保守的だった」という当時のテレビの報道の世界では、「女性であることを否定、封印しなければなかなか自分の居場所を確保することができなかった」と言います。

「その頃の自分を振り返ると、今の時代とは全く違うと思います。自戒も込めてみなさんにお伝えしたいことは、一つだけです。女性が輝く社会と言われていますが、女性はどうしたら輝けるのでしょうか。私は、等身大で仕事ができて、等身大で生きることができるということが、女性が輝くことだと信じて疑いません」

自分が等身大で働けていなかったと、例にあげられたのが、大学生の時、ある政治家のインタビューに行くことになったというエピソードでした。なぜ取材経験もほとんどない学生がそのような場所に行くのか上司に理由をたずねると「政治家はお姉ちゃんが好きだから」と返ってきたのだそう。

「もうびっくり仰天ですよね。でも、あの頃はセクハラ・パワハラといった認識もなくて、当たり前にそういう言葉が使われていたんです」

女性であることを封印しようと思った

しかし、上司の言葉は“絶対”だと思っていた安藤さん。戸惑いながらも取材へ向かいます。すると、ほとんど活字メディア以外に時間を割かないというその政治家から言葉を引き出すことに成功したのです。

「持って帰ってプロデューサーに見せると、『だから言っただろう』と言われました。つまり、私が頑張ったのではなくて、『若いお姉ちゃんだから、相手は口を開いてくれたんだよ』と。セクハラやパワハラという認識がない時代とはいえ、本当に悔しい思いをしました。傷つきました。後ろから蹴りを入れようと思いましたよ(笑)」と、安藤さんは当時の心境を語ります。

「その時に私は思いました。二度と、自分が『お姉ちゃんだからできたと言わせないようにしよう』と。そのために何が必要かと考えたら、女性であることを絶対に前面に出さないことだと思いました。女性性を封印する。男性に同化することを選びました。男性と同じくらい自分はできるんだと証明するために、絶対に言われたことにノーと言わないと決めました。『必ずやります。やってみせます』と。やりたくないこと、泣きたくなるようなこともありましたけれども、そのような働き方を選ばざるをえない時代でした」

飛行機の車輪が滑走路から離れたとき、号泣した

以来、男性と同じように、もしくはもっとできるということを証明して自分の居場所を作ろうと努力をしてきたという安藤さん。戦争、災害、事故、事件などのタフな取材にも「ノー」と言わなかったそう。

「断れば、『それはあなたが女性だから、そういうところには行きたくないんだろう』という、ノーと言えないような何かがありました。私がものすごく意地っ張りで、『絶対女だからって言わせない』と思っていて、言わなかった部分もあったかもしれませんが(苦笑)」

仕事に邁進する一方で、このままでいいのだろうかと思う日々もあったと言います。

「みなさんもそうだと思いますけれど、20代から30代にかけて、恋愛だってありますよね。東京にいる友人たちは、テニスをしたり、合コンに行ったりして楽しくやっているのに、私は戦争や外国に行く。飛行機が離陸する瞬間、車輪が滑走路から離れると(身体が)ふっと軽くなりますよね。それと同時に、どわーっと涙が出ることがいっぱいありました。東京にいれば友達と楽しくご飯を食べたり、テニスをしたり、普通の生活ができるのに、なんで私はこんな思いをしてまで、こんなことをやっているんだろう、と。

今でも機体がふっと浮かぶ時に、泣いたことを懐かしい気持ちで思い出すこともあります。そのくらい自分自身の気持ちを閉じ込めて仕事に向かっていたんです。仕事を始めてこれだけの年数が経って、居場所を少しでも積み上げられたことは、よかったとは思います。でも、果たしてそのような働き方が本当によかったかということについては、私は今、率直に申し上げて、すごく反省をしているところです」

全ての人が等身大でいられること

安藤さんは働き方を振り返り、自身の考える「真に女性が輝く社会」について次のように述べました。

「最初に申し上げたように、女性が輝く社会は、このように女性性を否定したり、自分自身を否定したりするところからは決して生まれません。自分の気持ちを閉じ込めたり、自分とは違う鋳型にはめたりするところからは、女性が輝く社会は生まれないということを私は実感しています。

全ての人が等身大で仕事ができる、もしくは等身大で生きることができる。それがすなわち女性が輝くことが真にできる社会なのではないかと思います」

「WOMAN EXPO TOKYO 2018」は日本経済新聞社、日経BP社が主催する働く女性のための総合イベント。2014年に始まって以来、今年で5周年を迎えました。「Women of Excellence Awards(ウィメン・オブ・エクセレンス・アワーズ)」の第4回授賞式が行われたほか、ゲストスピーカーとして女優の草刈民代さん、米倉涼子さん、ニュースキャスターの安藤優子さんらが登壇しました。

(構成:ウートピ編集部・安次富陽子)

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