この時期のブラジルといえば、何といっても話題はカーニバル。今年は2月末がカーニバル本番にあたり、国内はおろか世界中から観光客が集まる。まさにブラジルの象徴とも言えるイベントだが、今年はこの“シンボル”的存在に変化が起きている。
「服を着た」ダンサーに賛否両論
ブラジル最大のTVチャンネル「Globo(グローボ)」のカーニバル中継番組「Globeleza(グロベレーザ)」。毎年、カーニバルの象徴として1人選ばれる女性ダンサーが今年は“服を着て”踊っているというのだ。
1991年から同番組では、衣装らしいものを身にまとわずボディペイントのみ、もしくは大事な部分を装飾で隠すだけの、黒人もしくは褐色の女性ダンサーにサンバステップを披露させている。カーニバルが始まる前から流れる番組CMにも出演し、何しろテレビ文化のブラジルだから国民の目に触れる機会は多い。この恒例行事とも言える露出の多いダンサー出演は2016年まで続いていた。
それが今年は、ダンサーがブラジル各地のカーニバルの衣装を身にまとい、サンバやフレヴォ、マラカトゥと言った地域伝統の各種ダンスを踊るというものに変わった。これに対して視聴者の意見は真っ二つ。
年明け1月8日に「今年のダンサー」が発表されるやいなや、約14時間ものあいだTwitterでは「#Globeleza」がトレンド入りした他、FacebookなどのSNSで「従来のスタイルが人種主義、男尊女卑主義に触れるかどうか」について多くの人がコメントを残した。
半裸のダンサーは時代遅れ?
グロベレーザのダンサーが半裸で踊ることに、以前から女性団体などからの批判の声はあがっており、止めるべきだとの主張も少なくなかった。今回の変更を受けて、サンパウロ・カトリック大学の社会学者、カルラ・クリスチーナ・ガルシア氏「今回の判断は正しい。黒人女性の裸同然の体をブラジル文化の象徴として利用することは、黒人奴隷時代の文化の継承であると考える。もっと前に廃止されるべきものだった」とコメント。
また、番組の新しいスタイルに対しての賛成意見として「これをきっかけにブラジル人のメンタリティを変えるべき」「グロベレーザのダンサーに服を着せたことは、女性、特に黒人女性の過剰なまでの性的対象化を止める第一歩」などが見られた。
一方、グローボ側は、視聴者の意見や反論などの影響で従来のスタイルを変えることになったというよりは、「ブラジル文化の多様性を見せることを重視」したかったため今年のようなスタイルになったと発表した。
「今年のダンサー」の声は…
今年のグロべレーザのダンサーに選ばれたエリカ・モウラさん(24歳)は従来のスタイルに特に疑問は感じていないようである。エリカさんは5歳からダンスを始めたが、いつもテレビで見ていた初代グロベレーザダンサー(1991〜2005年まで出演)のヴァレリア・ヴァレンサさんの踊りにいつも憧れていたという。
「身体をアートとして、作品として見るという視点を持って育ってきた。自分の身体も同じようにみなされてると理解している。ペイントだけであろうが、衣装を着ていようが、ダンサーを性的対象化しているとは思わない」
果たしてボディペイントを施したダンサーが女性差別にあたるのか、国内での議論は今後も続いていくであろうが、数十年前と比べるとブラジル社会は格段に女性の意見を取り入れるようになってきているように思われる。