かぞくって、なんだろう?展 リポート

「結婚したいより、産みたいが先に来た」 櫨畑敦子さん×佐々木俊尚さん

SHARE Facebook Twitter はてなブックマーク lineで送る
「結婚したいより、産みたいが先に来た」 櫨畑敦子さん×佐々木俊尚さん

6月30日〜7月7日にかけて、東京都豊島区にあるTURNER GALLERY(ターナーギャラリー)で開催された「かぞくって、なんだろう?展」。複数のフロアで展示やトークイベントが行われ、バリエーション豊かなかぞくのかたちが提示されました。

6月30日には「広く弱くつながる、新しい『かぞく』のかたち」をテーマに、主催者のひとりである櫨畑敦子(はじはた・あつこ)さんと、ジャーナリストの佐々木俊尚(ささき・としなお)さんのトークイベントが行われました。

理想のかぞくのかたちって、実は幻想かも?という問いかけから、さまざまな話が繰り広げられたトークイベントの一部をお届けします。

かぞく展の様子

かぞく展の様子

「50年、純愛を貫く」というのはリアリティのない話

同性婚や、ポリアモリーなど、新しい「かぞく」のかたちが認知されつつある現在。「結婚したい!」よりも「産みたい!」が先に来たという櫨畑さんが選んだのは、結婚しないで産む「非婚出産」というかたちでした。

産みたい気持ちを周りに打ち明け、「生物学上のお父さん」を探して奔走。協力してくれる男性を見つけ、妊娠・出産した櫨畑さん。現在は、友人や地域の人を巻き込みながら、子育てに取り組んでいます。

これまで考えられてきた「かぞく」のかたちを普通とするならば、櫨畑さんの考え方は、そこから逸脱するかもしれません。実際に「それは親のエゴだ」「子どもがかわいそう」と心ない言葉を投げかけられることもあると言います。

「理想のかぞくのかたちと聞くと、未だに、大恋愛の末に結婚して、子どもを産み、夫婦で育て、夫婦仲睦まじいまま老後を迎える……というフローをイメージする人が多い」と佐々木さん。「でも、いま平均寿命は80歳以上でしょ? 30代で結婚して、50年も純愛を貫けるか考えてみてください。実際のところ、リアリティのない話ですよね」

夫婦ともにフリーランスの佐々木さんは、これまでさまざまなメディアから、結婚生活に関する取材を受けたといいます。「必ず聞かれるのが、『相手にどれだけ愛情を持っていますか?』という質問 (苦笑)。皆さん、素晴らしい夫婦愛を描きたいという過剰な思い込みを持ってやってくるんですよ」

そうした話を受け、「多くの人が、携帯電話のスタンダードコミコミ長期契約プランを契約しているようなものだ」と櫨畑さんは言います。

「長期契約が前提で、必要のないサービスもコミコミで付随してくる。私は50年もその契約を続ける自信ない、と思ってしまうんですよね。一方で、非婚というのは、格安SIMのシングルプランSSみたいなもの。必要最低限のプランに、オプションで恋愛が付けられるとか、パートナーシップ制度を付けられるとか。そういうことを、後から選べるようにしたいんですよ」

関係性を続けるコツは、適度な距離を置くこと

続いて話題に上ったのは、以前に櫨畑さんが「パートナーと2人で生活するのはつらい」と話したこと。「具体的にいうと、どういう感覚なの?」と佐々木さんが櫨畑さんに問いかけます。

男女関係なく、人が1人いることのプレッシャーみたいなものを感じるんです。機嫌がいいときは問題ないけど、機嫌が悪いときのオーラに不安になる。家に大きくて冷たい石があるみたいな……。そうなるともう、家に帰りたくなくなっちゃうんですよ」

その答えを聞いて「夫婦でも、なるべく距離を置いているほうが、関係性がうまくいくよね」と佐々木さん。佐々木さん夫婦は、3LDKのマンションに仕事部屋を2つ設け、昼間は会わない生活をしているのだそう。

「毎日顔を突き合わせてご飯を食べていると、それが日常になってしまいます。でも、週に1回くらいしか一緒にご飯を食べなければ、相手に会うことの喜びみたいなものが生まれてくるんですよ」(佐々木さん)

この話を聞き「恋愛というかたちじゃなく、そういうのを実践するにはどうしたらいいんだろう?」と櫨畑さんがぽつり。「櫨畑さんの理想の共同体ってどんな形なの?」と佐々木さんに問われ、いまの暮らしについて語ります。

櫨畑さんは現在、大阪府にある長屋の一室で、娘のひかりさんと2人で暮らしています。長屋のあるT字路には、さまざまな仕事をしている友だちが住んでいて、お互いに助け合いながら生活しているそうです。「家は別だけれど、お風呂や洗濯機をシェアすることもある。そうしたゆるやかなつながりのある生活は、理想に近いかたちですね」と櫨畑さんは言います。

「あなたが、選択的シングルマザーと名乗るな」

こうした暮らしを営む櫨畑さんは取材でメディアに取り上げられることも。しかし、「選択的シングルマザー」と紹介されることには違和感があると言います。

「選択的シングルマザーというジャンルは、昔からあるんですよ。日本にも選択的シングルマザー協会のようなものがあって、いろいろ細かい定義があるんです。けれど、私はその定義から外れてしまうところもあって。『あなたが選択的シングルマザーを名乗るな』という声が届くこともあります。ただ、私はみずから選択的シングルマザーを名乗ってはいません。今回の出産において今のところ結婚するつもりはない、ということです」(櫨畑さん)

現在は、多様性が高まっている社会だからこそ「そこに所属してる人たちが、組織を作って守りに入る傾向がある」と佐々木さんは言います。LGBTでもそういう傾向はあり、マイノリティーの中にさらなるマイノリティーが生まれてしまっているのが現状だと話しました。

かぞくという言葉と実態との、不快なズレ

イベント終盤、「どういうふうに男女が付き合い、どういうふうに子どもを産めばいいかという、居心地のいいロールモデルがないよね。今回の展示のテーマでもある“かぞくって何?”というところを気持ちよく指し示しているケースが、案外少ない」と佐々木さんは指摘します。

自分が育ってきたかぞく。自分が作り上げていくかぞく。“かぞく”というものをじっくり考えてみたとき、概念と実態とのあいだにズレを感じる人も多いでしょう。「その擦り合わせをしないことには、うまくいかない」と櫨畑さんは言います。かぞくのかたちに正解はなく、理想とするかたちは、人それぞれ異なります。世の中に、自身の考える「かぞくのかたち」を問いかける、櫨畑さんは「ふつうの非婚出産 シングルマザー、新しい「かぞく」を生きる」(イースト・プレス)を上梓しました。

「本の中にQ&Aコーナーを設け、『結婚したくなったらどうするんですか?』っていう問いを自分で立てて、自分で答えているんです。そういう質問、されそうでしょ(笑)。結婚したくなったら、私は結婚しますよ。非婚出産を貫くために生きているわけじゃないから。人の気持ちは変わりますよね。トンカツが食べたいと思って、トンカツ屋に入るけど、メニューを見て『トンカツよりカレーのほうがいいな』って、カレーに切り替えることもあるじゃないですか。それに対して『さっきトンカツって言ったのに、なんでトンカツを食べないの?』って怒られると、厳しいなと思ってしまいます」(櫨畑さん)

(構成:東谷好依)

■かぞく展について
非法律婚、夫婦別姓。非婚出産、特別養子縁組、シェアハウス子育て、LGBT子育て、ポリアモリー(複数性愛)、共同保育、さまざまな人々の暮らしをみながら、新しい、我慢しない「かぞく」を一緒に考える「かぞくって、なんだろう?展」。日本のちょっとめずらしい「かぞく写真」の展示や、そこにうつるかぞくの「系譜図」や「年表」、「思い出の品」が展示されたほか、ぴあフィルムフェスティバル受賞作品のドキュメンタリー映画『沈没家族』(加納土監督)の上映などが行われました。

かぞくって、なんだろう?展(かぞく展)の詳細はこちら

この記事を読んだ人におすすめ

この記事を気に入ったらいいね!しよう

「結婚したいより、産みたいが先に来た」 櫨畑敦子さん×佐々木俊尚さん

関連する記事

編集部オススメ

仕事と恋愛、キャリアとプライベート、有能さと可愛げ……女性が日々求められる、あるいは自分に求めてしまうさまざまな両立。その両立って本当に必要?改めて問い直すキャンペーンが始まります。

後悔のない30代を過ごしたい。ありとあらゆる分野のプロフェッショナルに、40歳から自分史上最高の10年を送るために「30代でやっておくべきこと」を聞いていきます。

記事ランキング