『実録 泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました。』インタビュー第1回

「女であること」に疲れると壊したくなる 殴られて、恋して、マンガを描いた先に見えた世界

「女であること」に疲れると壊したくなる 殴られて、恋して、マンガを描いた先に見えた世界

「殴られたり蹴られたりしないと興奮できない」という自身の性と生に向き合い、初めての恋に落ちたエピソードを綴った、ペス山ポピーさんのエッセイマンガ『実録 泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました。(ボコ恋)』の第1巻(新潮社)が4月9日、発売されました。

23年間、恋愛経験なしというペス山さんが自らの体験を綴った同作はウェブで公開されるや累計300万部を突破。SNSでも「キュンキュンする」「読み応えがある」と話題になっています。

同作がデビュー作というペス山さんに全3回にわたって話を聞きました。

「人生最後!」と思って挑んだ

——今回がデビュー作だそうですね。おめでとうございます!

ペス山ポピーさん(以下、ペス山):ありがとうございます。

——「殴られたり、蹴られたりしないと興奮できない」っていう衝撃的なことを赤裸々に綴っていますよね。このマンガを描くに至った経緯を教えてください。

ペス山:元々は漫画賞をとったりとか、読み切りでデビューをしていたんですが、アシスタントをしているときにセクハラに遭ったり、ネタが通らなかったりと精神的に追い詰められることが結構あってだいぶ落ち込んでマンガを描けなくなったんです。

それで一念発起というか、「人生最後!」みたいなテンションで、殴られてみようという気持ちになって、掲示板で募集して今回マンガになった一連の出来事を経験するんですが、そのエピソードを担当さんに「聞いてくださいよー、こういうことがあって……」と話したら「おもしろい感じがする!」と言ってくれてあれよあれよという間にネームが通ったという感じです。

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暴力を楽しむマンガではない

——マンガの中にもありましたけれど、編集部でも賛否両論があったそうですね。

ペス山:DVの経験をしてる人はこういう作品を読んだらフラッシュバックするかもしれないし「女の子が殴られる絵ヅラを誰が読むの?」という意見もあったらしいんですが、担当さんは暴力を楽しむマンガではないことと、もちろん暴力を軽視して描こうとはしてないということを訴えてくれて、連載が決まりました。

——ペス山さん自身で注意したというか意識した部分は?

ペス山:わかりやすくしたこととリズム感を意識しましたね。

——確かにテンポがいいですもんね、もちろん絵もかわいいというかオシャレな雰囲気も漂っているので、読みやすいなと思ったんですが。

ペス山:よかったです!

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「女であること」に疲れると壊したくなる

——もともとはウェブで公開がスタートした作品なんですよね。ウェブでは第15回まで公開されていますが、描いてみて心境の変化はありますか?

ペス山:第7〜9話で性自認のことを描いたんですが……。

——「自分は女性の身体を持って生まれてきたけれど、性自認(心)は男性で、好きになる対象も男性、そしてマゾヒストだった」ということに気づいたというくだりですよね。

ペス山:はい。このエピソードを入れてしまうとさっき言った作品のリズムを壊してしまう気もするし、マンガとしておもしろくない気がする。せっかく今まで応援してくれていた読者のことも裏切るというか、わかってもらえないんじゃないかなってめちゃくちゃ不安だったんです。

でも、担当さんが読んで笑ってくれたので「おもしろいならいいや」と思っていた描きました。

(C)ペス山ポピー/新潮社

(C)ペス山ポピー/新潮社

——描いてみてよかったですか?

ペス山:よかったです。楽になりました。性自認のくだりを描くまでは、ツイッターでも男性からの反応やコメントが多かったんですが、これを描いた後は反響がすごくあって、しかも意外にも「めっちゃわかる」っていう女性の反応がたくさんあったんです。

本当は「こんなことを描いて、『うわ、なんかこのマンガ面倒臭い』って引かれないかな」ってすごく不安で吐きそうだったんです。でも、いざ公開してみたら「私は中身も女だと思っているけれど、わかります!」という声が多かった。

——女性からの反響が大きかったってちょっと意外ですね。

ペス山:多分、女の人って、一見、“普通”に見える女の人でも、「女であること」にコンプレックスが強いのかなって思いました。

——なるほど。どういう意味での「わかる」なんでしょうね?

ペス山:「女であること」に疲れると壊したくはなりますよね。

——「女であること」で得をすることも損をすることもあると思うんですが、それをひっくるめて「面倒臭い」ですよね。女性も男性も身体は“容れ物”にすぎないのに。

ペス山:面倒臭いですよね。それはアシスタント時代にセクハラを受けたときにすごくそう思ったんです。それまであまりそういう目に遭ったことがなかったから、例えば深夜番組でグラビアアイドルとかが“飾り物”みたいに置かれているのを見て、「別の世界の女の人たちがそうされているだけ。私は関係ない世界」って思っていたんですけれど、いざ、思いっ切りセクハラをされると「うわ、キツイこの世の中……」と思っちゃって。

私はたまたまあまりそういう被害に遭うことがなかったんですけれど、世間の女の人って私よりもずっとそういう目に遭ってきているんだろうなと思って。

そりゃ疲れるし、私のマンガを読んで「わかる」って言うよなって。

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——ペス山さんの作品を読んで“普通”ってないし、そんな私たちを縛っている“普通”がどんどん壊されていくことに希望を感じました。

ペス山:私もそう思います。もちろん嫌なこともあるけれど、壊されていくことで生きやすくなればいいなって思います。

(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘/HEADS)

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