生理は女性たちが毎月向き合う日常の一つだし、中絶は“人生の一大事”で“トラウマ”になるとは限らない――。
34歳のうだつが上がらない(と自分では思っている)独身女性・ブリジットと6歳の少女・フランシスのひと夏を描いた映画『セイント・フランシス』が8月19日(金)から全国で順次公開されます。
大学を中退後、レストランスタッフとして働いてるブリジット。SNSを開けば友達は結婚や子育て、キャリアなど年相応にステップアップしていく。「それに比べて自分は……」と落ち込むこともしばしば。そんな中、子守りの短期仕事で出会ったレズビアンカップルの娘・フランシスと交流するうちに、ブリジットの心は少しずつ変化していく――というストーリー。
ブリジットを演じた女優のケリー・オサリヴァンさんが自ら脚本を手掛け、生理や避妊、妊娠、中絶といった女性の身体にのしかかる負担やプレッシャー、レズビアンカップルが直面する差別などを軽やかに脚本に落とし込んでいます。
ケリーさんに、執筆のきっかけや作品に込めたメッセージを伺いました。前後編。

脚本・主演を務めたケリー・オサリヴァンさん
「機会は与えた。さあ、おやりなさい」アメリカの圧力
——日本には「同調圧力」という言葉があります。みんなが考える“ふつう”から少しでも逸脱した生き方をすると白い目で見られるというか、なんとなく居心地が悪い思いをする。この映画でもブリジットは年相応の生活ができていない自分に焦りやいら立ちを感じていますが、アメリカでも似たようなことがあるんだと驚きました。アメリカではどんな社会的なプレッシャーがありますか?
ケリー・オサリヴァンさん(以下、ケリー):アメリカでは、「全部になりなさい」「すべてを成し遂げなさい」と言われますね。つまり、良妻賢母に加えて、キャリアも築いて、見た目にも気を使って、運動もしなきゃいけない。「チャンスを与えられてるんだから、すべてを手に入れることができるはず」という考えなんですね。女性たちは、そんな社会からの圧力の犠牲になっていて……。「女性はこういうことを望んでいたではありませんか。あなたには機会があります。さあ、おやりなさい。できるでしょう?」って言われても、それは不可能ですよね。「成功しなさい」というプレッシャーが、生きにくい社会をつくっていると感じています。
——ブリジットも自分自身の成功や失敗の定義について疑問を持ちます。なぜ、ティーンエージャーや 20 代ではなく、30 歳を超える女性でこのテーマを扱おうと思ったのですか?
ケリー:20 代で本当に失敗することってないと思うから。20 代のうちはもがき苦しむことは想定内だし、祝福すらされることです。でも、30 代になった途端、「急いだほうがいいよ」と言われる。同僚との会話も「どうか妊娠していませんように」から「6カ月以内に妊娠できなかったら不妊治療の専門医に見てもらう」に変化する。
30代になると、周りの人が当然のように期待してくるものがあるし、成功していることも期待されます。それはつまりキャリア、結婚、子供がいるかどうかということ。ブリジットはそのどれも持っ ていなくて、だけど彼女の同僚たちは持っているからと社会が彼女にもそれを期待するので、ブリジットは出来損ないのように感じています。これはもっと掘り下げて語られるべきことだと思います。
「自分を受容しなかったこと」ブリジットの罪とは?
——教会のシーンで、「自分が完璧であろうとしたことに罪を感じた」というブリジットの告白がありますね。
ケリー:ブリジットの場合は、自分をいたわることをしなかったり、自分を受容しなかったことが問題なんですね。「キャリアを築いてない」「結婚してない」「子供がいない」ということではなくて、自分に厳しいということ。つまり、自己肯定感が低いんです。これまで自分が行ってきた選択を恥じているんです。自分自身に対して、「それでいいんだよ」と許してあげないことが罪だと思っていて。だけど、それを聞いたフランシスが、「それを罪だと感じなくていい」「別にいろんなものを持ってなくてもいい」と言ってくれたことで、初めてブリジットは、「私はそんなにひどい人間じゃなかったんだ」「いろんな基準を満たしてなくてもいいんだ」と思えたんです。
——フランシスの母・マヤは敬虔(けいけん)なカトリック教徒ですし、この作品には宗教的なモチーフが多く登場します。一方で生理や中絶など血を流す存在としてリアルな女性が描かれていました。聖母マリアとの対比を意識されたのでしょうか?
ケリー:映画を通して、カトリックというものが、幽霊のように背後にずっとついてきます。実は、私自身もカトリックとして育てられました。ただ、カトリックは「プロ・ライフ」(中絶反対の立場)なので。だから今の私は、途中で信じるのをやめた元カトリック教徒なのですが、これはまさにブリジットなんですよね。そして、カトリックと良好な関係を築いてきた人の例として、マヤが登場します。
映画の中では、いろいろなシーンで宗教的なモチーフがあるんですけど、例えば、処女で母になった聖母マリアが映って「うーん。なるほど……」みたいな。そういったものを散りばめることで、何となくヒントとして伝わるものがあると思います。
——このほかに、ケリーさん自身をブリジットに投影した部分はありますか?
ケリー:私の視点が大いに反映されているシーンは、ブリジットがフランシスに「人は信じられるんだよ」と言うところ。私自身、人間をとても信じてるし、人間の性質として、人とつながることができる、愛し愛することができると信じています。そこが、教会の告白シーンにつながっているわけですが。そのときに、ブリジットはフランシスから“安らぎ”というものを受け取ることができるんですね。
人生に仕掛けられた“ワナ”からいかにすり抜けるか?
——ウートピはまさにブリジットと同年代の女性が読んでくださっているサイトです。編集部の方針として、周囲の期待やジャッジからいかに逃れるかというのを意識して記事を作っています。
ケリー:まさに、私のミッション・ステートメントでもあります。というのも、女性の人生って、いろいろとワナが仕掛けられている。そのワナに対して、どう捕らわれないようにするかが大事なんです。
例えば、私も俳優を続けていくうちに、楽しめる役や打ち込める役が年々少なくなってきました。若い母親だったり、悲しい思いをするガールフレンド役だったり、なんか女性の一面しか描いていないような役ばかりで……。一面的ではなく、多面的な経験をいろいろ描きたいという気持ちから、「演出もしたい」「ストーリーも考えたい」と思い、自分で脚本を書くようになりました。私の人生は、そんなふうに進化してきたんです。
——今後は、どんなことを表現していきたいと考えていますか?
ケリー:やっぱり、私が描きたいのは、“完璧ではない人”。ちょっとこじらせちゃったりとか、収拾がつかなくなってしまっているような人を描いて、「それでいいんだよ」って伝えたい。女性を描くときって、良妻賢母であったり、キャリアで成功した人だったり、そういったレッテルを貼られていることがすごく多いですよね。でも実際は、女性のあり方って、もっと複雑じゃないですか。だから、自分がいろいろな女性の物語を描くことで、「それでいいんだよ」ということを示していければなと思っています。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)
■映画情報
8月19(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネクイントほか全国ロードショー!
監督:アレックス・トンプソン 脚本:ケリー・オサリヴァン
出演:ケリー・オサリヴァン、ラモーナ・エディス・ウィリアムズ、チャーリン・アルヴァレス、マックス・リプシッツ、リリー・モジェク 2019年/アメリカ映画/英語/101分/ビスタサイズ/5.1chデジタル/カラー 字幕翻訳:山田龍
配給:ハーク 配給協力:FLICKK (C) 2019 SAINT FRANCES LLC ALL RIGHTS RESERVED
公式HP:www.hark3.com/frances/