『異動辞令は音楽隊!』阿部寛さんインタビュー前編

「努力は無駄にならないと、ひさしぶりに実感」阿部寛、初めてのドラム演奏で得たもの

「努力は無駄にならないと、ひさしぶりに実感」阿部寛、初めてのドラム演奏で得たもの

犯罪捜査一筋30年の頑固な鬼刑事が、警察内の音楽隊に異動となり、ドラム奏者に任命される——8月26日(金)公開予定の映画『異動辞令は音楽隊!』は、そんな物語です。原案・脚本・監督は『ミッドナイトスワン』の内田英治さん。不本意なキャリアチェンジを強いられる鬼刑事・成瀬を、阿部寛さんが演じています。

インタビュー前編では、初めてドラム演奏に挑戦したことで得たものや、思わず涙してしまったというシーンについて伺いました。

音楽に苦手意識。それでも挑戦したかった理由

——阿部さんがこの作品に出演を決めたのは、どうしてですか?

阿部寛さん(以下、阿部):ちょうど『ミッドナイトスワン』を観たあとにお話をいただいたこともあり、内田監督と一緒にお仕事がしてみたかったんです。ご本人の企画ということで、なぜ内田さんがこの「警察音楽隊」というものを撮りたいと思ったのかにも、興味がありました。自分はマーチングバンドの知識が皆無だったので。

刑事役はこれまでにも何度か経験していて、成瀬のように武骨で固定観念にとらわれているような役も演じたことがあります。でも、音楽はやったことがない。そういう意味で最初はかなりの苦手意識がありましたが……ドラムを練習する過程でいろんな発見もあるだろうし。それがうまく役につながっていくような経験を、内田監督と一緒にやれたらすごく面白いだろうなと感じました。

劇中より

ドラムの繊細さを感じて、急激に興味がわいた

——初めてのドラムはいかがでしたか?

阿部:クランクインの3ヶ月前からリズムの取り方など基礎的な練習をはじめたのですが、……全然できなくて。最初の2ヶ月くらいは、ずっと遠くを見ているような感じで過ごしましたね。

家でも練習できるように音が出ないドラムセットも買ったのですが、全く手応えを感じられなくて。先生にもご迷惑をかけたし、先が長いなぁって、めずらしく半分諦めかけるような気持ちにもなっていました。

——そこから、どう盛り返したんですか?

阿部:その2ヶ月が過ぎた頃、「そろそろ大きい音を出しましょう」と言われて、スタジオでドラムを叩いてみたんです。そうしたら、思いのほかできた。やっぱり本物でやらなきゃダメだなって思いました。先が見えない洞窟をいくような練習を続けていたけれど、そこで明らかな進歩を感じて、努力は無駄にならないんだとひさしぶりに実感できました。

——叩けるようになると、音楽の聴き方なんかも変わるものですか。

阿部:そうですね。正直、以前は「ドラムはジャンジャン鳴っててうるさいだけ」なんて思うこともあったのですが、本当はものすごく繊細な楽器だと感じるようになりました。

練習中、先生が世界的なトップドラマーであるバディ・リッチ氏の動画を見せてくれたんです。その方の音は、岩に水がぽたんと落ちるような繊細さがあった。いままでドラムはパワープレイみたいなものしかないと思っていたぶん、そのギャップで俄然興味がわきました。先生が僕の性格を踏まえて、そういう動画を見せたほうが練習に精が出ると思ったんでしょうね(笑)。実際、そこから急に伸びていきました。

撮影が終わったあとには、ドラムセットを買おうか……なんて思う自分がいたほどです。叩ける場所がないなと思ってやめましたけど。

時代遅れの無骨さにも、共感できた

——阿部さんが演じた成瀬は、目的のためなら手段をいとわない“昭和の鬼刑事”でしたね。

阿部:成瀬は“現場百遍”を地で行く、昔でいうドラマ『特捜最前線』に出てくるような刑事でした。今のコンプライアンスの時代にそぐわず、周りから煙たがられ、挙句の果てに捜査から外され、音楽隊にとばされてしまう。ただ、彼は自分の信念を貫き通そうとする、正義感の強い刑事であることは確かです。

——役に共感する部分もありましたか?

阿部:あの頑なで武骨なところは、人間味があって好きなキャラクターですね。捜査が苦境のときにも決してあきらめない。周りから「もうそういう時代じゃない」と言われても、人生を投げることなく、つねに前を向いて一生懸命に歩いていくところにも共感できました。

——では、共感できなかったところはありますか?

阿部:体育会のノリすぎて、人に対して強引すぎるところ、ですね(笑)。

劇中より

成瀬の歩く姿に思わず涙

——できあがった作品を観て、どんな感想を持ちましたか。

阿部:気づいていなかった心の動きが、自分のなかに起きているのを感じました。たとえば、音楽隊に異動になってしばらくして、成瀬がドラムの練習をするために、教会に向かって歩いていくシーン。音楽を少し楽しみはじめて、気持ちが前向きになった感じが、軽やかな歩き方ににじみ出ていたんです。

演じたときの自分には、そんな意識はあまりなかったんですよ。でも、演出の力でそういう感情がふわりと浮き上がってきていて、じんとくるポイントになっていました。僕は自分の映画で泣くことが基本的にないのですが、思わず涙が出た。

——これからご覧になる方にとっては、必見のシーンですね。

阿部:……すごくささいなシーンだから、注意して見ないと見落としてしまいがちですが(笑)。非常に見つけにくい場面だけど、自分としてはすごく好きなところです。僕が読み切れなかった部分を拾い上げてくださった監督に感謝しています。

インタビュー後編は8月25日(木)公開予定です。
(ヘアメイク:AZUMA(M-rep MONDO-artist)、スタイリスト:土屋シドウ、取材・文:菅原さくら、編集:安次富陽子、撮影:青木勇太)

■映画情報

『異動辞令は音楽隊!』
2022年夏 全国ロードショー
©2022『異動辞令は音楽隊!』製作委員会
配給:ギャガ

阿部寛、清野菜名 磯村勇斗、高杉真宙、倍賞美津子
原案・脚本・監督:内田英治 『ミッドナイトスワン』
主題歌:「Choral A」Official髭男dism

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