2018年、不倫を題材にしたドラマで“あざとかわいい”と注目を集めた松本まりかさん。そこから息をつく暇もなく全力で駆け抜けるように過ごした4年間。「うまくいっているときにこそ立ち止まらなければいけない」と今年、1ヶ月の休暇を取ることを決意します。
6月17日に、『映画 妖怪シェアハウスー白馬の王子様じゃないん怪ー』の全国公開を迎えた松本さん。インタビューの後編では、新たな「自分らしさ」を見つけた松本さんとこれからを生きるためのヒントについて語り合います。
「何もしない」をしてみて気づいたこと
——「自分らしく」って考えすぎると煮詰まっちゃうことはありませんか?「自分らしくない自分」はダメだと思ってしまうとか。もちろん、そんなことはないんですけど。
松本まりかさん(以下、松本):もう「自分らしさ」に振り回されるのはうんざり!って思う瞬間、ありますよね。
——休暇ではすぐ休めましたか? 忙しい人が急に休むのは難しかったんじゃないかと。
松本:休むとか考えないってどういうことだろうって、最初は少し戸惑いましたね。でも、滞在先のスリランカでご飯を食べることに集中するとか、歩いていることに集中するとか。とにかく「今」に集中するように勧められて。それがどういうことなのかわからなかったんですけど、帰国してから「こういうことか!」とパズルのピースのようにつながりました。
スリランカ滞在中も「今この瞬間」に集中する大切さを頭では理解していたんですけど、腹に落ちたのは帰国後ですね。価値観がガラッと変わり、私に本当に必要なものが何かわかるようになりました。
ポジティブ同調圧力には乗らない
——幸せの基準を自分で決めるって大事ですよね。
松本:ですよね。今って、「ポジティブ同調圧力」のようなものがあると思うんです。「ポジティブでいなきゃいけない」「キラキラしていなきゃいけない」「リア充でいなきゃいけない」みたいな。
——あるかも。私も以前はとらわれていました。「素敵なところだけを見せなきゃ」って。
松本:私は「俳優や表に出る人は、SNSでポジティブな言葉しか発信しちゃいけない」って思っていたんです。だけど、人間だから揺れるじゃないですか。絶好調のときもあれば、不安なときもある。なのにネガティブな部分は隠さなくちゃいけないっていうのはどうしてだろうなって。SNSに自分の心を表現として書いてもいいじゃないかって思って、発信したらちょっとネットをザワザワさせちゃって(苦笑)。あれは、全部読んでもらえれば率直なツイートで病んではないと思うんですけどね。
——芸能人に限らず、一般の人もあると思いますよ。ネガティブなことは発信しないほうがいいって風潮は。
松本:ネガティブなことも臆する事なく真っ当に表現できるといいですよね。人を傷つける言葉と甘えのようなネガティブではなければ。ただ、自分の心の整理として書きたいっていう欲求は表現であると思ってて。それをSNS上で書いたことで「精神崩壊か?」なんて憶測のネットニュースも出ましたが、誤解されるかもしれないとか、何の得にもならないなってわかっていたとしても、「誰か」に「わかってもらう」必要なんてなくて。あれは私がただ前に進むために必要なことだったんです。
——ありますよね。そういう気持ち。
松本:はい。でも、憶測があった一方で、普段は連絡を取り合うような仲でもない同業の方から「よく言ってくれた」「わかりみしかない」って連絡がいくつも届きました。ポジティブな状態を保つのは大事なことだと思うのですが、そこに向かうためには、沈んでいる状態をまず受け止めなきゃいけないと思うんですよね。変になだめすかして、なかったことにして「今、スリランカでデトックス中でーす!」なんて投稿を私はしたくなかったんです。
私のフォロワーさんたちや、私を応援してくれている人たちには、深刻になりすぎず受け止めてほしいと思っていて。たとえば、「松本まりかは、今はそこに居るのか。立ち止まることが必要なんだな。これからどうなっていくのかな」っていうように面白がって、見守っていただければ。揺らぐのは当たり前だよねってことが共有できたら嬉しいですし、「ポジティブ同調圧力」には乗らずに、平常運転でやっていこうと思っています。そうすることで、本当の意味でポジティブになれるんだと思います。
“ツルツル化”って本当に幸せ?
——「ポジティブ圧力」って、『映画 妖怪シェアハウス』にも出てくる「ツルツル化現象」にも通じると思っていて。「みんな」と「同じ」であることに価値を置いているというか。どちらも自分で考えることをやめちゃう、思考停止状態なんじゃないかなって。
松本:たしかに。そう思います。
——「自分なりの幸せ」を考えるために、まず思考停止から抜け出すことが大事だと思っているのですが、そのために必要なことってなんだと思いますか?
松本:そうですね……。まず、人は一面だけではなく多面体で、背景も価値観も複雑だと知っていることでしょうか。お岩さんだって、「妖怪シェアハウス」で見方が変わったって人がたくさんいると思います。それから、自分に必要なものは自分が知っていればいいということ……。あとは、本質や真実を知りたいという、あくなき追求心を忘れないことが大事だと思います。もし生涯をかけてもわからないことだとしても、諦めずに。
——どういうことですか?
松本:私はデビュー以来22年、この仕事をする中でずっと「自分らしさ」ってなんだろうって考えてきたけど、わからなかったんです。22年も、ですよ。もしかしたらこのまま、知る日は来ないのかなって思ったりもしたけど、知りたかったから諦めきれませんでした。「自分ってこういう人だからー」って決めて、ラクなほう——それって本当は険しい道なのですけれど——に流れていくこともできたけど、そうはしたくないなって。それでようやく「自分が求めていた幸せ」に出会えた気がします。ただ、これもまた形を変えるものなのかもしれませんが……。
——諸行無常……。
松本:私はよく「わかった!」って言うクセがあって、劇団☆新感線の稽古中、演出のいのうえさんによく叱られていたんです。「わかってないのに、わかったって言うな」って。でも、言いたくなっちゃうんですよね。何かつかみたいって切実な気持ちがあるから。そういう自分を認めつつ、本当の意味では辿り着けていないということを自覚して考え続けることが、思考停止しないためには大事なのかなって思います。
(取材・文:安次富陽子、撮影:西田優太)