本日、6月10日に全国公開された映画『ALIVEHOON アライブフーン』(下山天監督)にて、主人公のライバルとして登場するレーサー・柴崎快を演じる福山翔大さん。
車の後輪を意図的に横滑りさせ、そのテクニックを競うドリフトレース。本作は、そのアクロバティックでダイナミックなレースを臨場感たっぷりに「体感」できる、ドリフトエンターテイメントです。
福山さんに、撮影時のエピソードや、レーサー役を演じて気づいたことなどについて話をうかがいました。
柴崎は「悪」ではなく、「勝利」への欲求が強い男
——もともと「ドリフト」はご存知でしたか?
福山翔大さん(以下、福山):名前は知っていましたが、どのような競技かは本作のオファーをいただいた後に勉強しました。クランクイン前に実際のレースを見る機会もいただいて。一瞬で心を掴まれました。あの速度、音、迫力に。
——映像でもすごい迫力でした。本作のストーリーについてはどのような印象を持ちましたか?
福山:eスポーツで日本一の天才ゲーマーが、解散の危機に瀕するドリフトチームのために、リアルのレースでも勝利を目指すというストーリーなのですが、バーチャルとリアルの融合というのを日本の映画で挑戦することにワクワクしました。実は、僕もYouTubeなどでeスポーツを見ることがあるので。
——それはテンションが上がりますね。今回、福山さんが演じるのは野村周平さん演じる大羽紘一のライバル、柴崎快です。勝つためなら手段を選ばないという一面もある柴崎ですが、どんな風に受け止めて役作りをしましたか?
福山:柴崎については、監督と相談しながら役作りを進めていきました。その中で監督がおっしゃったのが「ヒール(悪役)な存在ではあるけれど、ヒールであることを前提に役を作らないでくれ」ということでした。柴崎という男は、純粋にドリフトというスポーツを愛していて、それゆえに「勝利」への執着心が人一倍強いのだと。その根にあるのは単純に「勝ちたい」「優勝したい」というピュアな欲求なんですよね。誰かを蹴落としたいとか、そういうことではなく、勝つために蹴落とすしかないなら、なんでもやる。そのような解釈でキャラクターを作っていきました。
プロのドライバーの横でハンドルを握って撮影
——「ドリフトキング」の土屋圭市さんが監修に入ったり、トップレーサーの方が実走出演されたりするなどリアルにこだわった撮影現場だったと聞きました。特に、レースシーンの撮影は隣の助手席にハンドルを付けキャストも実際に乗って、反転させた映像を使用したそうですね。
福山:はい。土屋さんの(愛車の)ハチロクで練習もさせてもらったのですが、スピードも重力もすごかったです。ドリフトって、滑らせるときにタイヤから煙がものすごく出てくるんですよ。その煙で車内が真っ白になってしまい、カメラには何も映っていない……なんてこともありました。
——コーナーに設置されたカメラが何台も車に踏み潰されたりもしたとか。
福山:そうなんですよ。超高速で駆け抜けるので。でもその壊れる瞬間の映像がリアルだし、実際のレースでは見られないアングルになっています。全て計算されたものではあるのですが、その計算の先にある、ある意味奇跡みたいな瞬間が今作にはいくつも収められていると思います。
——その中で演技をするのは大変そうですね。
福山:そうですね。(乗車シーンは)ヘルメットをかぶっているので、感情を伝えられるのが目だけなんです。なので、勝利への執念を出すためにあまり瞬きをせずにちょっと圧力を出すように……など繊細な感情をどう表現するかは意識しました。
車には何台もカメラが付いていて、初めはどこに意識を向ければいいか戸惑うこともあったのですが、監督が「意識しないでいいようにたくさん付けています」とおっしゃるので、「わかりました。監督を信じます」って。
——ドキュメンタリーみたいですね。
福山:セットも、まるで甲子園球場にあるような、大型のクレーン照明を搬入してくださるなど、気持ちが高まるようなサーキット場の空気を作っていただいて。チームのいろんな思いを感じることができた現場でした。
30代を目前にやめた2つのこと
——「勝ち続けなければ次はない」といったプレッシャーは、役者の仕事にも通じるものがあるのかなと思いました。
福山:たしかに。レースや車の知識を学んだあと、レーサーの方たちのことも知るにつれて、ちょっと僕らの世界とも近いなと思うことはありました。役者も比べられる世界だという側面があるし、やっぱり負けたくないって気持ちがあります。
でも、一方で僕自身は誰かと自分を比較することをある時期からやめました。かつては同世代の役者のことを全員ライバルだと思って過ごしていたのですが、人と比べてモヤモヤしている暇なんてない、と。結局は自分なんじゃないかなと思ったんですよね。自分にとってのライバルは自分でしかないと。
——そう気づいたことで、何か変わりましたか?
福山:人の個性や特長、いいところがよく目に入ってくるようになりました。比べていた頃は認めたくない気持ちがあったというか……。けど、もうすぐ30代だし、斜に構えていないで変わらなきゃ、と。今は、学べる部分は素直に取り入れて自分を成長させていければと思っています。あと、ストレスとかプレッシャーを無くそうと思うのもやめました。
——やめましたシリーズいいですね。
福山:ストレスもプレッシャーもどちらもあって当たり前というか、逃げようとするから苦しくなると思うんです。ならば、どうやって感情を味方に変えていくかってことが大事なのではないかと。スポーツ選手のインタビューでも、そういうマインドで大歓声の中プレーをしているという方が何人かいて。役者の世界にも通じるものがあるなと思い、そう考えるようになりました。
「アライブフーン」の世界を「体感」してほしい
——他にも何か俳優のお仕事と共通点を感じたことはありますか?
福山:結果を出すことの大切さでしょうか。それから、説得力とそこに向かうまでの準備。「アライブフーン」にもメカニックチームが登場します。彼らはどんな車に乗せて、どういう角度でタイヤをセッティングして、この天候、環境だったらこういう調整が必要だな……って先を読みながらいろんな準備をするんです。
僕らのお仕事も、一つの作品に対して、監督があの方ならこんなテイストも求められるかもしれないとか、撮影前にこんな準備をしておこうって。それは、現場では全く必要とされないことかもしれないけれど、役に立つかもしれない。そうやって先を想像して、準備していくっていうのは近いのかなと思いました。あとは、チームを信じることも大切だと思います。
——最後に読者へメッセージをお願いします。
福山:はい。「アライブフーン」は、体感するという意味ではアトラクションでもあり、新しい感覚で楽しんでいただける映画になっていると思います。レースだけでなく、人と人がぶつかりあったり、向き合ったりといった人間ドラマもあるので、モータースポーツにまだそんなに興味がないという人にもきっと響くものがあるはずです。個人的には、ハイブリッドな時代に向かっている中で、ガソリン車でこんなに爆走するような作品はこの先撮れなくなるかもしれないなと感じていて……。だからこそ今、目に焼き付けていただければと思います。
(取材・文:安次富陽子、撮影:西田優太)