13年ぶりの主演映画『今はちょっと、ついてないだけ』(柴山健次監督)が4月8日(金)に公開予定の玉山鉄二さん。
本作で玉山さんは、ある事情で表舞台から姿を消した「スターカメラマン」の立花を演じています。それぞれ挫折や葛藤を抱え“今はちょっと、ついていない”仲間とシェアハウスで暮らす中で立花が見つけるものとは——?
取材中、「無難なものを選んでも何も生まれない」と話してくれた玉山さんに、人生や仕事との向き合い方、自分なりの哲学を持つことについてたっぷりと語っていただきました。
今、この作品に出られたことに感謝したい
——本作に出演にあたって、不安を感じたこともあったそうですが、改めてオファーを受けた理由を教えてください。
玉山鉄二さん(以下、玉山):本作は、40歳オーバーの中年男性たちを中心とした物語です。謎解きや伏線回収といった強く印象に残る作品が多い中で、本作のゆったりとした展開に少し不安を感じていたんです。けれど、準備稿(編集部註:決定稿前の台本)ができた段階で監督、プロデューサーとお話する場があり、アドバイスをいただいて不安は解消できました。
オファーを受けたのはコロナ禍に入った頃で、作品の内容が時代とマッチしていると感じました。40代前半くらいの世代で、先が見えなくて不安なのだけれどもリスタートを切る勇気が出ないとか、セカンドチャンスがないように感じて怖いとか……。そんな気持ちに寄り添える作品になると思いましたし、今、このような作品に出られることに感謝したいと思いました。
セオリー通りの選択はしたくない
——セカンドチャンスへの不安は、玉山さんご自身が感じていること?
玉山:僕自身というより、周囲の人たちを見ていて思います。保守的な決断をしたり、文句を言われないように仕事をこなしていたりする姿を見ると、挑戦を避けているなと感じるんです。だけど、今の社会って一度ミスをしてしまったらもうチャンスをもらえないんじゃないかって不安が蔓延していますよね。だから無難な選択をする気持ちもわかる。でも、僕は、違和感のあるほうを選んだほうがいいと思うんです。その選択が大きな感動への布石になるかもしれないから。それから、セオリー(定説)通りの選択はしたくないとも思います。
——けれど「大人になるってそういうこと」と思ったりもしませんか? 玉山さんがセオリーに抗いたいと思うのはなぜですか?
玉山:社会の風潮を疑うことなく、従うだけなら個性がなくなってしまいますよね。僕はそこにクリエイティブなものはないと思うんです。どの職業でも同じですよね、先輩方がやってきたことを似たように表現するだけとか、誰かがやってきたことをなぞるだけとか。たとえば、ライターさんの仕事も、みんなが聞くようなことを聞いたり、機嫌を損ねないように無難な質問を重ねたりしていては、引き出せることも引き出せないと思う。ある程度リスクを取るとか、踏み込んだことをしてみるのが大事だと思います。
「このままだと終わる」と思った20代後半
——うっ……。耳が痛いです。ある時期は形を真似て学ぶことも大事だと思いますが、おっしゃる通り、相手の懐に飛び込んでみないと何が出てくるかわからないというのも、日頃、実感するところです。
玉山:無難なところからは何も生まれないですよ。僕たちみたいな(エンタメの)仕事は、それが如実に出る。だから僕は今、映画もドラマもあまり見ないようにしているんです。
——見ないんですか?
玉山:はい。影響を受けたくなくて。たとえば、刺されるシーンで傷口に手を当てて「うわぁ!」という演技をよく見るじゃないですか。すると、そうすることが正解だと刷り込まれていくような気がするんです。以前、劇中でみる表現はリアルなのだろうかと疑って、資料にドキュメンタリー作品やニュース映像を選びました。すると、従来の作品で見るのとは違った反応をしていたんです。
やはり、これまで見てきたこと、聞いてきたことをベースに型をつくっていたんだと納得しました。僕は、前提を疑って斜めから見ることで、自分なりの表現を追求し、ロジックを構築していきたい。ただ、これは僕のやり方で、良いとか悪いとか言うつもりはありません。僕はそうあるというだけのことです。
——以前からそういうスタンスですか?
玉山:俳優の仕事をはじめた頃はいろんな作品を観ていましたよ。転換期になったのは20代後半です。26〜28歳くらいだったかな。その頃「このままだと終わっちゃうだろうな」と感じていて。
——え!? ずっと活躍されているのでそんな葛藤があったとは意外です。
玉山:思い描いた演技プランが画面の中でうまく反映できていなくても、「いまいちだった」などと言われることもなく、むしろ「良かった」と言われたりもして。この環境に甘んじてしまえば俳優として終わるだろうなと思っていました。
評価よりも、自分の役割をどう果たすか
——曖昧な評価問題、ありますよね。どの仕事にも同じ気持ちで向き合ってはいますけど、「なぜこちらのほうが読まれたのか?」と、自分と世間の評価のギャップに戸惑うこともあります。努力や熱量と結果は比例しないというか。
玉山:努力や熱量は大切ですが、比例はしないかな。結果は狙って出せるものではないと思います。一般的ではないかもしれませんが、そもそも僕らの仕事は評価されたいと思いながらやる時点で、違うと思うんですよ。結果として評価があるだけで。やはり、その作品をよりよくするために、よりクリエイティブなものを与えるために、自分がどういう歯車になるかが肝心だと思います。
——歯車に。それは、主演でもゲスト出演でも同じ心構えですか?
玉山:そうですね。僕一人で成立することはひとつもないので。もし僕が、自分で自分をプロデュースしながら作詞作曲もする歌手なら違うのかもしれませんが。俳優の仕事は作品の中で歯車になること。どう立ち回って、どんな要素を与えたらその作品が輝くのかに僕は重きを置いています。
——意地悪な質問ですけど、若い頃は、歯車ではなく自分が主役で中心だと思いませんでしたか?
玉山:自分が一番というのは、なかったと思いますが、かなり調子に乗っていましたよ。当時の自分が若い頃の立花と重なる部分も多いです。意識を変える前は、表現を突き詰めることをしていなかったと思うし、演技に対しても曖昧にしか向き合えていなかった。技術もマインドも未熟だったからでもあるのですが。
あの頃、役者を辞めたいと思うほど苦しんで、もがいて、考え抜いたから今の自分がある。今思えばですけど、すごく悩んだり葛藤したりしてよかったなと思います。それがなければ、すごく薄っぺらな人間というか、表現者になっていたでしょうね。
昔の自分が今の自分より大きく見える日は
——今作では、過去に活躍していた立花と、現在の立花が別人のように感じられる演出に驚きました。玉山さんも、過去の自分と今の自分が違う人のように感じることはありますか?
玉山:ありますよ。若い頃の自分が他人のように感じることって、誰しもあるのではないでしょうか。僕はときどき20代前半の頃の自分の作品を目にすることがあるのですが、見るタイミングによっては当時の自分のほうが大きく見えることもあるし、強く感じることもある。すごく不思議なんですよね。知識も技術も今のほうが確実に多いのに。
——わかります。昔の自分のほうがかっこよく思える瞬間。今の自分にもっと頑張りなさいよって言いたくなるんですけど(苦笑)。
玉山:そうですね。昔の自分を見て、頑張ってきたなってちょっと自信がついたりとか、逆にあの頃のほうが頑張っていたと感じて焦ったり。いろんな思いが行き来すると思うんですけど、もしネガティブなほうに傾いても、僕は年を重ねる中で自分自身の哲学、理念をしっかりと持てるようになれば、過去の自分に負けることはないと思います。それに、そうやって20代、30代で積み上げてきたものこそが、リスタートへの自信にもつながるのではないでしょうか。
■作品情報
映画『今はちょっと、ついてないだけ』
監督・脚本・編集:柴山健次
原作:伊吹有喜「今はちょっと、ついてないだけ」(光文社文庫 刊)
出演:玉山鉄二、音尾琢真、深川麻衣、団長安田(安田大サーカス)/高橋和也 他
配給:ギャガ
オフィシャルHP:https://gaga.ne.jp/ima-tsui/
オフィシャルTwitter:@ima_tsui
©2022映画『今はちょっと、ついてないだけ』製作委員会
4月8日(金)新宿ピカデリー他 全国順次ロードショー
(ヘアメイク:城間 健(VOW-VOW)、スタイリスト:袴田能生(juice)、取材・文:安次富陽子、撮影:面川雄大)