映画『水は海に向かって流れる』

高良さん、ちょっと雰囲気が変わりましたか? 映画『水は海に向かって流れる』単独インタビュー

高良さん、ちょっと雰囲気が変わりましたか? 映画『水は海に向かって流れる』単独インタビュー
PR

漫画家の田島列島さんの同名コミックを実写化した映画作品『水は海に向かって流れる』が2023年6月9日(金)に全国公開予定です。

本作で主人公の榊千紗(広瀬すず)に淡い想いを寄せる熊沢直達(大西利空)の叔父・歌川茂道(通称:ニゲミチ)役を演じた高良健吾さん。

クセ者揃いのシェアハウスで主人公たちと共同生活を送る、ユーモア溢れる脱サラ漫画家を演じてみて、高良さんは何を考え、何を感じたのでしょうか。

映画でしかできないような表現が詰まっている

——『水は海に向かって流れる』の台本を読んで茂道をやりたいと思ったそうですが、その理由を教えてください。

高良健吾さん(以下、高良):台本がすごく好きだったので。企画のお話をいただいてすぐに原作も読んでいて、「原作からここを選ぶのか」という意外性もありましたし、説明しすぎずに何かを語ろうとしているのも台本から感じました。その中で、茂道がこの話のユーモアであり、この人のダメさ加減がみんなに笑われている、そういうところに魅力を感じたのだと思います。

——登場人物のそれぞれが抱えているものは複雑で重いけれど、物語としては軽やかに展開していく。そこに前田哲監督の世界観がありますし、手腕を感じました。高良さん、前田組は初めてですよね。いかがでしたか?

高良:楽しかったです。現場では、いつも前田さんが一番で楽しそうなんですよ。その姿勢がすごく好きで、撮影期間はずっとワクワクしていました。前田さんの組だからこんなに楽しめたのだと思います。

衣装合わせのときも監督が誰よりも楽しそうにアイデアを出しくれました。僕としては「こんなに重ね着をして、こんな靴下まではいて、こんなに足し算をして大丈夫かな」と。あまりにも原作や台本を読んでイメージしていた茂道と異なるので戸惑ったのですが(笑)。けれど、実際にできあがった作品を見て、前田さんの頭の中はこうだったのかと納得させられました。

先ほどおっしゃっていたように(登場人物)一人ひとりが抱えているものは複雑なのですが、そこにファンタジーに近いような足し算をすることで軽やかになる。だからこそ対極にある切なさが際立つ瞬間もあって……。前田監督の演出には、そういう映画でしかできないような表現が詰まっていて、改めて前田組に参加できて良かったと思いました。

劇中より

——たしかに衣装が気になっていました。高良さんの中での茂道は、当初はどんなイメージだったんですか?

高良:もっとシンプル。デニムにネルシャツとか、「漫画家」と聞いて誰もが思いつくようなオーソドックスなスタイルをイメージしていました。原作でも、そんなに派手な格好はしていませんし。

——あれほど振り切ったのには、どんな意図が込められているんでしょう。例えば、自分に自信がないゆえの奇抜なファッションの場合もあるし、ただ単純に好きなファッションなのかもしれないし。そういう部分は前田監督と話しましたか?

高良:たしかに、僕もそれは気になりました。脱サラして漫画家になってシェアハウスに住んでいるという茂道の人生を考えると、衣装にも何かしらの意味があるんじゃないかと。けれど、台本を読んで現場に立って思ったのは、茂道に翳(かげ)りなんていらないということでした。

——どういうことですか?

高良:茂道が抱えているものは表に出てこなくていいし、この衣装で彼の背景を感じさせる必要もないなと。茂道は自分でこの生き方を選んでいるし、逃げているようにも見えるかもしれないけれど、この人なりに自分の人生をサバイブしてきただろうし。あの服を着ているのも「可愛いから」、重ね着するのも「寒いから着込めばあったかいから」。そんな気持ちなんじゃないかと。だから僕もシンプルに受け取って、自分はただ茂道としてそこにいることが大事なのではないかと思ったんです。

劇中より

夢に向かった経験、もがいた経験に共感できた

——別のインタビューで、高良さんが役作りにおいては共感より理解することだとお話しされているのを読みました。茂道という人物の役作りはどうしましたか?

高良:そうですね。たしかに僕は演じるうえで共感より理解することに比重を置いています。いつも誰よりも理解しようと深く掘り下げていくのですが、茂道については、自然と共感できる部分もありました。

——どういう部分で?

高良:たとえば、夢に向かった経験、定職を捨ててまで漫画家になろうとした部分や、その目指したところでうまくいかなくてもがいている部分。高校1年生の直達に大人気なく張り合ってしまうところとかもわかるな、と(笑)。

——高校生と張り合う大人に共感…? 意外な感じがします(笑)。今作、熊沢直達役の大西利空さんと泉谷楓役の當真あみさんのフレッシュな魅力も印象的でした。ふたりとも、高良さんが優しく見守ってくれたとコメントをしていましたが、ふたりへの接し方は、先輩としてとか、良い作品づくりのためにそうしようと決めていたのですか?

高良:僕はそこまで立場や役割を意識することはありません。単純に同じ部屋にいることが多かったのと、話していて楽しかったんです。

劇中より

高良さん、雰囲気が変わりましたよね?

——共演者とのコミュニケーションについてなぜお聞きしたかというと、10年前に『横道世之介』でインタビューさせていただいたときと高良さんの印象がすごく変わった気がしたから。以前は、すごく繊細な印象で、目を見て答えてくれるというより、何かどこかにある「役者・高良健吾の正解」を探しながら言葉を紡いでいるように感じました。

でも、2021年の『おもいで写眞』でお会いしたときには、インタビュアーに笑顔で逆質問する場面もあって、「あれ? 高良さん、雰囲気が変わった?」と。閉じていたものがオープンになっている気がして、新鮮な驚きを感じたんです。

高良:ありがとうございます。その感想は、僕のことを昔から知っていてくださるからですよね。だけど、当時も今も、探そうとしている場所はそんなに遠くはなっていないと思います。ただ、探し方が変わっただけという気がしています。

——探し方?

高良:探し方というか……当時は自分の正解を100%伝えなければと思っていました。考えていることを寸分の違いもなく伝えたいというのが昔の僕だったと思うんです。ミスをしたくないという気持ちもあったから、考えることに集中していました。それが『横道世之介』での印象だと思うんです。

でもだんだん、言葉にしなかった行間を受け取ってもらえることもあるし、対話の中で伝えるべき言葉が見つかることもあるとわかってきた。それでアウトプットの仕方が変わったのだと思います。

今の自分と差ができるようなことは考えたくない

——30代になり肩の力が抜けたともおっしゃっていましたね。妙な質問ですけど、今、お仕事楽しいですか?

高良:僕は、仕事に楽しさを求めなくなっています。楽しさより、もっと幸せなものがあるので。たとえば、ここにいられる喜びや、役を与えられることのありがたさ。そういうものが大きいです。だからこそ、苦しさやつらさは必ずあるというか。あって当たり前だと思っているんです。

——基本的にどんな仕事も喜びと苦しさの両方がありますよね。うまくやりたいとか、誰かの期待に応えたいとか。やっぱり純粋な喜びだけじゃなくて何かしらのエゴは生じるので。

高良:そうですよね。それこそ、理想があるから悩むわけで。目指したいところと現在地の距離が遠いほど悩むし、不安になる。その差を埋めたいという気持ちがあるかぎり、焦りやもどかしい気持ちはセットなんですよ。

僕自身を振り返ってみると、25歳ぐらいのときは常に理想と現在地の差を感じていました。その差が大きすぎて本当に苦しかった。けれど、そういう状態に長く浸かっているうちに、これじゃダメだ、と思うようになったんです。

本当の理想はもっと高いところにあるけれど、そんなことばかりに囚われていても仕方がない。自分に厳しいのはいいけど、責めるのはやめようと決めました。

——それは何かきっかけがあったんですか?

高良:特別に何かあったというよりも、小さな成功体験の積み重ねがそうできるようにさせてくれたと思います。

甲子園を見て元気をもらうような感じがある

——映画の話に戻ります。最後に、高良さんが考える本作の面白さについて聞かせてください。

高良:まず、広瀬さん演じる榊さんと直達の関係です。榊さんという人は、ピュアで純粋。それゆえに、過去に起こったことを正面から受け止めて傷ついて「私、一生恋愛しない」と宣言をしたりする。とても繊細で、感性が豊かな人なんです。だからこそ、榊さんにも通じる、若い少年(直達)のピュアなまっすぐなものだけが、大人の凝り固まったものを溶かすことができた。その様がこの映画の見どころだと僕は思います。

そして、この2人に関わるシェアハウスの人たちのクセの強さというか、そういうのが本作の面白いところかなと思います。ピュアだからこそ閉じてしまったものは、ピュアにしか開けないっていう感じがしますよね。

——こじ開けるんじゃなくて、気づいたら開いちゃっているというか。そういう様子も見ていて癒されました。

高良:癒されますよね。甲子園を見て元気が出るときがあるじゃないですか。年下の子たちが頑張っているのを見て、いろんなことを経験した大人が勇気をもらうというような。そういうものを感じます。このふたりには。

劇中より

(メイク:森田康平、スタイリスト:渡辺慎也〈Koa Hole〉)
(着用衣装:ジャケット(53900円)、パンツ(37400円)ともにUNUSED。ニットポロ(25300円)YASHIKI /問い合わせ先:alpha PR 03-5413-3546)

(聞き手:安次富陽子、撮影:面川雄太、編集協力:須田奈津妃)

■作品情報

『水は海に向かって流れる』

6月9日(金)全国公開

出演:広瀬すず
大西利空 高良健吾 戸塚純貴 當真あみ/勝村政信
北村有起哉 坂井真紀 生瀬勝久

監督:前田哲

原作:田島列島「水は海に向かって流れる」(講談社「少年マガジンKCDX」刊)

脚本:大島里美

©2023映画「水は海に向かって流れる」製作委員会 ©田島列島/講談社

SHARE Facebook Twitter はてなブックマーク lineで送る
PR

この記事を読んだ人におすすめ

この記事を気に入ったらいいね!しよう

高良さん、ちょっと雰囲気が変わりましたか? 映画『水は海に向かって流れる』単独インタビュー

関連する記事

編集部オススメ

2022年は3年ぶりの行動制限のない年末。久しぶりに親や家族に会ったときにふと「親の介護」が頭をよぎる人もいるのでは? たとえ介護が終わっても、私たちの日常は続くから--。介護について考えることは親と自分との関係性や距離感についても考えること。人生100年時代と言われる今だからこそ、介護について考えてみませんか? これまでウートピで掲載した介護に関する記事も特集します。

記事ランキング