「生命科学アカデミー」筑波大学柳沢正史先生に聞く 第9回

睡眠負債を感じたら取り入れてみたい「パワーナップ」 ポイントと注意点は?

睡眠負債を感じたら取り入れてみたい「パワーナップ」 ポイントと注意点は?

人生100年時代と言われる現代ですが、長生きをしても「健康」でなければ自分の満足のいく人生を送れないかもしれません。健康を維持しながら長生きができれば、より自分らしい人生プランを考えることができるのではないでしょうか。

健康に生きるためにいま注目されていることのひとつが「睡眠」です。睡眠時間の長さだけではなく、「睡眠の質」について気にしている人も増えています。スマートウォッチのようなウェアラブルデバイスで睡眠の状態をチェックしたり、運動やストレッチ、サプリメントや飲料などで睡眠の質を向上させたりしている人もいます。

「健康長寿」を目指し、最先端の研究を学ぶYoutube番組「生命科学アカデミー」では、今回、ゲストに筑波大学の柳沢正史先生をお迎えしました。同プログラムのHIROCO学長が聞き手となり、「睡眠」の奥深さについて迫ります。

柳沢先生(左)とHIROCO学長(右)

パフォーマンスを上げる「昼寝(パワーナップ)」という方法

──誰にでも効く「睡眠の質を上げる秘訣」はないわけですね。ところで、先生は論文で「昼寝」をするといいということについて書かれていましたよね。

柳沢:人間って、基本的には昼間はずっと起きている動物なんです。だから私に言わせると、夜十分に睡眠をとれている人は昼寝はいりません。しないほうがいいです。

──十分な睡眠をとれている人は、昼寝をしないほうがいいんですね。

柳沢:下手にいらない昼寝をすると、夜に逆に眠れなくなってしまいます。ただし、日本の働き世代は、夜の睡眠が非常に短くて、しっかりと確保できていないので、睡眠負債を抱えている方が多いです。そういう方は、昼間どうしても眠くなる。なので、ちょっと眠くなったときに、20分くらいの「パワーナップ」といわれる仮眠をとるというのが効果的です。午後1時くらい、昼食をとった後くらいの時間帯でしょうか。仮眠の後のパフォーマンスが上がることは、エビデンスがあり、すでに証明されています。

「仮眠は20分程度がいい」という時間設定にも理由があります。静かな場所で、明るいところであれば目隠しなどして、耳栓もして、寝姿勢を整えられるような場所。首が船を漕がないように、ちゃんと伏せるか、完全に横になるか、背の高い椅子などで頭を支えるようにして、頭を固定できる体勢をとれる場所がいいですね。そういうところであれば、寝不足の人は、目をつぶると数分で寝に落ちます。それから大体数分~10分くらいの間に「ノンレム睡眠第二層」という、第一層のまどろみを超えた本格的な睡眠に入るんです。第二層に入ってそれが2分くらい続けば、それで脳はリフレッシュする。そこで起きるのがいいんです。

──その時間を総合すると、20分なんですね。

柳沢:それ以上の、30、40、50分と寝てしまうと、今度は本当にノンレム睡眠の一番深い睡眠、いわゆる「深睡眠」に入ってしまう。一回深睡眠に入ってしまうと、今度は起きるのに時間がかかるんですよ。それで叩き起こされても、最初の10~20分はボーッとしている状態。これを「睡眠慣性(sleep inertia)」というんですが、それは避けたほうがいい。だから、N2(ノンレム睡眠第二層)で切り上げるのが肝心なんですね。某コーヒーメーカーは「ナップをとる前に1杯のコーヒーを飲んでください」と宣伝していますけど、それは本当です。コーヒーを飲んで身体にカフェインがめぐるのに、だいたい20~30分かかるんですよ。

──おお、ちょうどいいわけですね。面白い。

柳沢:ちょうどよく、起きた頃にカフェインが効いてくると。だから、それがコツですね。

さて、「20分のパワーナップ」が良いと言いましたが、夜十分に寝ている人には必要がありません。睡眠時間がとれている人は、昼間に「寝てくれ」と言われても、まず20分で寝に落ちられないです。消灯、あるいは就床時刻から睡眠開始までの時刻を「睡眠潜時」というのですが、夜の睡眠潜時は、寝つきの良い人なら1~2分以内です。昼間の睡眠潜時の場合は、夜にちゃんと寝ている人であれば20~30分かかります。

──寝ろと言われても、簡単には寝られないんですね。

柳沢:だから、パワーナップがとれるということは、すでにそれだけで「夜の睡眠が不足している」ということの、ある意味裏返しでもあります。だけど、そうは言っても、本当に睡眠不足になってしまっていて、昼間に眠気を感じる場合には、やっぱりパワーナップをとると、その後のパフォーマンスは絶対に良くなります。これはおすすめの方法です。

ただ、気をつけないといけないことなのですが、ナップが夕方以降になると、今度は夜に眠れなくなるんですよ。夕方に眠くなったからといって、仮眠をしてはいけない。そこで一過性に睡眠負債が返済されてしまうので、肝心な夜の時間に眠くならなくなってしまいます。それは睡眠の悪循環になるので、やめたほうがいいと思います。

──もし仮眠をとるならば、昼の1時くらいですね。

柳沢:そうですね。

──そして、コーヒーやカフェイン飲料を飲んでから眠ると、20分寝て起きたときにちょうどよく覚醒できる。

柳沢:20分くらいを目安とした仮眠が、一番いいと思います。

◆まとめ
・昼食後に20分くらいの仮眠「パワーナップ」をとるとパフォーマンスが上がる
・しかし、そもそも昼間に数分で寝つけるのは、夜の睡眠が不足している証拠なのでご注意を!

(第10回へ続く)

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