寛容力のコツ・下園壮太さんインタビュー 第2回

絶好調でも油断できない「35歳クライシス」 心は突然がんばれなくなる

絶好調でも油断できない「35歳クライシス」 心は突然がんばれなくなる

仕事は好きなはずなんだけど、最近、小さなことにイライラしてしまい、仕事への集中力も途切れがち……。もっと余裕のある人になるにはどうしたらいいの?と思う人は多いのではないでしょうか。

ささいなことに怒ったり傷ついたりしない、おおらかな人になりたいと願う女性は多いはず。寛容力を高めるための心理スキルについて、『寛容力のコツ』(三笠書房)の著者である下園壮太(しもぞの・そうた)さんに話を聞きました。

【第1回】MRカウンセラーに聞く、寛容力のコツ

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「疲れてない」と言う人ほど危ない

——前回、不寛容のベースは“疲れ”にあるというお話しがありました。私もそうですが、口では「疲れた〜」と言いつつ、頭のなかでは「まだ頑張れる」と思っている女性は多い気がします。でもきっと、自分で思っている以上に疲れを溜め込んでいるんですよね?

下園壮太さん(以下、下園):そうですね。うつ状態になる人を観察すると、「疲れてない」って言い続けるんですよ。それで、最後にポキンと折れる。

——ポキンと折れるまで気がつかないんですね。

下園:そう。「疲労感」と「本質的な疲労」は少し違うんですよ。ケガをした時に、痛み止めを打ったら痛みが消えますよね。でも患部は傷ついたままなので、痛み止めの効果が薄れたら、それまで動かしていた分もっと痛くなるわけです。同じように、疲労もごまかすことができます。ちょっと疲れていても無理して頑張ってしまう。話がちょっと逸れますが、体力のピークって何歳くらいか知っていますか?

——17歳くらい? スポーツ選手のピークは10代のイメージがあります。

下園:実は35歳前後なんですよ。スポーツにもいろいろあるけど、マラソンは30歳を過ぎても一流選手がいっぱいいますよね。あまり運動をしてこなかった人に運動をさせると、35歳くらいまでは成績が上がるのですが、そこからヒューッと右肩下がりに落ちていきます。

気力も同じで、35歳くらいまでは高まっていくけれど、そこから先は右肩下がりに落ちていくと言われています。それなのに、子どもの頃からのパターンで頑張り続ければ、ある時バランスが崩れてポキンと折れてしまう。僕はそれを「35歳クライシス」と呼んでいます。

35歳クライシスはなぜ起こる?

——35歳クライシス!? なんだか怖い響きです……。

下園:社会に出ても、20代のうちは自分のことだけこなせばいいですよね。仕事で嫌なことがあっても、土日に楽しいことをすればスカッと忘れられるはず。ところが30代になると、部下や後輩の面倒を見るという負担が増えたりする。休日はストレス発散のためにテーマパークに行ったり海外旅行に行ったりしようと思うと、体力も気力も使うからさらに疲れてしまう。そのような間違ったストレス解消法の一つに、「頑張るわたし」というのがあるんです。土日も仕事をして満足感を得るという方法ですね。

——わかる気がします。忙しいことが充実だと思っちゃう。

下園:「大変だ、大変だ」と言いながら「わたしは頑張れている」という満足感で疲れをごまかす。ところが35歳を過ぎると、体力と気力の収支関係が一気に破綻して、ポキンと折れてしまうんです。何か問題があるから折れるんじゃなくて、絶好調の時でも折れる。これを「燃え尽き症候群」と言います。つまり、絶好調でもオーバーワークになったらダメってこと。

疲れを3段階で表すと…

——仕事が充実していると思っていても、折れることがあるんですね……。どのくらい疲れると、危険なんですか?

下園:疲労は、1倍から3倍まで3つのレベルに分けられます。1倍の時は疲れを感じても回復するまでが早い。ところが同じ出来事に対してでも、疲労が2倍では当然2倍の疲れを感じるし、回復にも2倍の時間がかかるんです。

3倍になると、3倍。つまり、1.5時間のインタビューをした場合、4.5時間のインタビューをしたときと同じ疲労感を覚えます。8時間勤務なら24時間だから、1日寝ないで仕事をしたのと同じ。そんな疲労感を抱えていたら、仕事を続けられませんよね。

——2倍の時は、8時間労働の2倍だから16時間ですね。

下園:そう。大変だけど、このラインならギリギリ立っていられますよね。2倍モードの時に仕事終わりに「さあ飲みに行こう」と誘われたとします。もうヘトヘトだけど、皆は飲みに行ける気力があるんだから、自分も頑張らなくてはと飲みに行ってしまう。そういうことを続けているうちに、いよいよ3倍に突入して、ある日ポキンと折れてしまうんです。

——いきなり出社しなくなる人ってそういうことか……。

下園:これは相談者に聞いた話ですが、ある時スタッフが「ジュースを買いに行きます」といって出ていったそうです。そのスタッフは、自動販売機でボタンを押して、缶が落ちる「ゴトッ」という音を聞いたときに「もうダメだ」と思って、そのまま会社に来なくなった。3倍に達していると、そんなきっかけで折れることがあるんです。

疲労の度合いを測るなら「睡眠」に注目

——自分がどのレベルにいるか、疲労の度合いを計る方法はないんですか?

下園:これといった症状があるわけではないので、判断が難しいところですが、1倍と2倍の境目は、眠れなくなる人が多い傾向があります。これは、原始人的な反応だと思えば分かりやすい。要するに、自分は今、弱っているから、夜は警戒しましょうということ。それから、食欲が落ちるのも2倍に入った兆候の一つです。これも原始人で考えてみると、ちょっと周囲を警戒して住処(すみか)に閉じこもりたいと思っているんだけど、その時に食欲旺盛だとマズいですよね。

女性の場合は、2倍に入るとイライラが止まらなくなることが多いです。気力が低下しているから「自分のことで手いっぱい」となるんですね。そうなったら、ふだん許せたことも許せなくなる。

——確かにイライラしてくると、「今話しかけないで!」とバリアを張りたくなることがあります。

下園:でも逆に、バリアを張らなければどうなりますか?

——余計イライラしますね。

下園:そうでしょう。バリアを張らなければ、自分の負担が増えちゃいますよね。だから「近づかないで」とバリアを張るのは、自分の心を疲れさせないための予防なんです。そもそも感情というのは、みなさんを守るために発動するものなんですよ。

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次回は、「疲れ」から生じる怒りへの対処法についてお聞きします。

(取材・文:東谷好依、写真:青木勇太)

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