胃が急にきりきりと痛むとき。重苦しさが長く続くとき、「もしや胃潰瘍では…」と不安になることはありませんか。「胃潰瘍ってどんな病気?」と題し、『胃は歳をとらない』(集英社新書)の著者で消化器病専門医・指導医、内科指導医の三輪洋人(みわ・ひろと)医師に、連載にてお話しを聞いています。
第1回「胃潰瘍と診断された…症状は? 原因はピロリ菌?」は胃潰瘍の症状や原因について、第2回「胃潰瘍の治療は出血のあるなしで決まる…その方法は?」では、検査法や治療法について紹介しました。今回は、胃潰瘍を予防する方法について尋ねます。
ピロリ菌は長く胃にすみついてダメージを与える
——胃潰瘍を予防する方法はありますか。
三輪医師: 第1回で、胃潰瘍の主な原因は「ピロリ菌」(ヘリコパクター・ピロリ)と「NSAIDs」(エヌセイズ。非ステロイド性抗炎症薬。市販薬ではロキソニンSやイブ、バッファリンなど解熱消炎鎮痛剤のこと)だと言いました。
つまり、予防するには、ピロリ菌を取り除くことと、解熱消炎鎮痛剤の服用法に注意すれば可能になります。胃に潰瘍ができていない「胃炎」の段階でも、慢性的な場合の多くは、ピロリ菌の感染が原因で起こる「ピロリ菌感染胃炎」ということがわかっています。
——ピロリ菌は、胃の粘膜に有害なタンパク質を注入してただれを生じさせること、また、免疫の働きがまだ発達していない幼少期に家庭で感染しやすいということでした(第1回参照)。ピロリ菌による胃痛は中年期に起こりやすいと言われますが、その間、ずっとピロリ菌は胃にすみついているということでしょうか。
三輪医師: そう考えられています。そして、ピロリ菌感染胃炎による胃の粘膜の損傷は、数十年もかけてじわじわと進んで行きます。しかも、ほとんどの場合に自覚症状がありません。そのため、40歳以降になって、健康診断や人間ドックによる検査で判明するケースが多いのです。
こうした経緯から、胃潰瘍を予防するには、ピロリ菌に感染しているかどうかを調べる検査を受けて、陽性の場合は除菌治療をすることが最重要となります。
ピロリ菌の検査法は? 公的医療保険の適用は?
——ピロリ菌の検査はどのように行うのでしょうか。
三輪医師: 複数の検査法があります。消化器内科や内科を受診してください。公的医療保険は、胃内視鏡(胃カメラ)検査で胃炎が確認された場合に適用されます。とくに胃に異常を指摘されていない人がこれらの検査を受ける場合は適用されません。
<内視鏡を使わない検査>
・尿素呼気試験……最も正確で簡単な検査法として推奨されている。ピロリ菌が、胃の中で尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解する働きを利用する。尿素を服用し、15~20分後に吐く息を採取、呼気中の二酸化炭素の比率でピロリ菌の有無を調べる。
・便中抗原検査……便の中にピロリ菌の破片があるかどうかを調べる。ごく少量のピロリ菌がいるだけでも反応するので、尿素呼気試験とともに最も正確な検査法とされている。
・抗体測定……血液検査、尿検査、唾液検査などでそれぞれを採取し、ピロリ菌に感染したときにできる抗体の有無を調べる。ただし、除菌を行ってもすぐには抗体が消失しないので、除菌の効果判定には使えない。除菌をする前の感染の有無の診断に適している。
<内視鏡を使う検査>
・迅速ウレアーゼ試験……ピロリ菌が持つ酵素(ウレアーゼ)が尿素を分解してアンモニアを作る働きを利用。尿素を含んだ試薬の中に内視鏡で取った胃の一部(生検組織)を入れてアンモニアが作られるかを試薬のpHの変化で調べる。
・鏡検(きょうけん)法……胃の組織を染色し、顕微鏡でピロリ菌を探す。約1週間かかる。
・培養法……胃の組織を採取し、4~5日間培養してピロリ菌の有無を判定する。4日間ほどかかる。
ピロリ菌の除菌治療法は?
——ピロリ菌が見つかった場合、どのように治療するのでしょうか。
三輪医師: まず、一次除菌として、2種類の抗生物質(アモキシシリン・クラリスロマイシン)と、胃酸の分泌を抑えるPPI(ピーピーアイ。プロトンポンプ阻害薬)、またはP-CAB(ピーキャブ。カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)を7日間、服用します。その後、4週間経過してから再びピロリ菌の検査を受けて、陰性であれば治療終了です。
これで除菌ができなかった場合は、二次除菌として、クラリスロマイシンを別の抗生物質のメトロニダゾールに変更し、さらに7日間、服用します。二次除菌まで受けると、ほとんどの人がピロリ菌を除菌することができます。これらの治療には公的医療保険が適用されます。
——ピロリ菌の除菌法とは、薬を飲むだけなのですね。では、予防の順序としては、胃につらい症状があるときは内視鏡検査を受ける、その際にピロリ菌検査を受ける、ピロリ菌が見つかれば除菌治療を行うということでしょうか。
三輪医師: そうです。ピロリ菌がすみついていると、胃潰瘍だけではなく、胃がんのリスクが高くなり、機能性ディスペプシア(※)も発症しやすいことがわかっています。いずれも、ピロリ菌の除菌で予防が可能です。40歳以降で、これまでピロリ菌の検査を受けたことがなくて胃にトラブルがある人は、一度は受けておきましょう。
※「胃がもたれる、痛いのに異常なしはなぜ? 機能性ディスペプシアって?」(三輪医師監修)を参考にしてください。
——もうひとつの胃潰瘍の原因、NSAIDs(解熱消炎鎮痛剤)の服用が必要な場合は、どうすればいいのでしょうか。
三輪医師: NSAIDsを処方されている、あるいは市販薬をよく飲んでいる場合で、胃に問題があるときは、医師に相談してください。可能であればNSAIDsを中止して別の薬に変更する、また、合わせ飲む胃薬の変更などを検討することになるでしょう。
聞き手によるまとめ
胃潰瘍を予防するには、原因となるピロリ菌の除菌が重要であり、ピロリ菌の検査には内視鏡を用いない方法と用いる方法で複数があるということです。何より、陽性の場合でも薬の内服で除菌治療ができるとのことでほっとしました。40歳を超えて胃に不快な症状がある場合は、早めにピロリ菌検査をしておきたいものです。
次回・第4回は、読者から寄せられた「ピロリ菌Q&A」を紹介します。
(構成・文 品川 緑/ユンブル)