胃が重い、苦しい…機能性ディスペプシアを治したい/ 第1回

胃がもたれる、痛いのに異常なしはなぜ? 機能性ディスペプシアって?【専門医に聞く】

胃がもたれる、痛いのに異常なしはなぜ? 機能性ディスペプシアって?【専門医に聞く】

43歳女性の読者から「食事をするとすぐに胃がもたれて苦しい。市販薬を飲んでも改善せず、もう3カ月も続いています」、39歳女性は「胃が痛むので内視鏡検査をしましたが異常なし」、48歳男性は、「食欲はあるけれど、食べ始めるとすぐにおなかがいっぱいに。胃が何かで押されるように重苦しいことも」と、胃の悩みが複数届いています。

そこで、消化器病指導医・専門医で、著書に『胃は歳をとらない』(集英社)がある三輪洋人医師に、これは病気なのか、症状や原因、治療法、セルフケア法などについて、連載(一話完結)で詳しく尋ねます。

第1回は、こうした症状は病気なのかどうか、またその特徴について伺いましょう。

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異常はない…何の病気?

——先の読者の声のように、「胃が痛いのに、検査で異常なしと言われた。薬もあまり効かない」と話す人は多いのですが、胃はどうなっているのでしょうか。

三輪医師:そうしたケースはとても多くあります。かつては「気分的なもの」とされることがあり、神経性胃炎や慢性胃炎、胃アトニーなどと呼ばれていました。

それが患者数の増加と研究の成果によって、2013年に診断名(病名)がつき、公的医療保険による治療の対象になりました。その病名を「機能性ディスペプシア」といいます。

内視鏡で胃にびらん(ただれ)や炎症、潰瘍(かいよう)、がんなどの「器質的」な異常は見られないものの、不調が続くということは、胃の働き、つまり「機能的」な異常があると考えられます。

——三輪先生は、機能性ディスペプシアの「診療ガイドライン」(『機能性消化管疾患診療ガイドライン2021』)の作成の委員長をされていますね。「ディスペプシア」とはどういう意味でしょうか。

三輪医師:Dyspepsiaはもともと消化不良という意味のギリシャ語でしたが、現在は英語の医療用語として「みぞおち周辺の痛みや胃もたれなどの症状」を指します。機能性ディスペプシアは英語で“Functional Dyspepsia”となり、略して「FD」と呼ばれます。

——どういうときに、機能性ディスペプシアと診断されるのでしょうか。

三輪医師:診断の目安は、「胃が痛い、重い、吐き気があるなど胃の不快な症状が1週間に2~3回以上起こる状態が1カ月以上続いている場合」です。ただし、期間や間隔は厳密ではありません。症状やおおよその頻度を医師に伝えてください。

  

「たかが胃もたれ」ではなく悩みは深刻

——検査で異常がないとなると、病気ではないよと言われているように思います。ですが、胃が重苦しいのはつらいことです。毎回の食事に関わるので、食べることがおっくうになるのではないですか。

三輪医師:「たかが胃もたれ」と言われて職場や家族にも苦しさが理解されない場合があるかもしれません。しかし食事ごとに胃痛や胃もたれに見舞われるのはとてもつらいことです。また完全に治りにくくて症状が長く続くケースが多いため、患者さんの悩みは深刻です。

医学的調査でも、「機能性ディスペプシアの患者のQOL(quality of life クオリティ・オブ・ライフ 生活の質を表す医療用語)は、健康な場合に比べて大きく低下している」と報告されています。

また、健康診断を受けた人を対象に行った調査では、11~17%の人に機能性ディスペプシアがあることがわかっていて、とくに、ストレスを感じやすい人などに多く起こる傾向も明らかになっています。

機能性ディスペプシアの症状は

——医学的に、機能性ディスペプシアの症状にはどういうものがあるのでしょうか。

三輪医師:主に2つの特徴があります。ひとつは、「食後の不調」です。食事開始後、すぐにおなかいっぱいになってそれ以上食べられない感覚を「早期満腹感」といいます。また、食後に胃がもたれたりおなかが張ったりする「食後膨満感」を訴える人もいます。これらの症状が3カ月以上続く人も多いです。

もうひとつは、「みぞおちの不調」です。食後や空腹時に、みぞおちの痛みである「心窩部痛」(しんかぶつう)やみぞおちが焼けるように感じる「心窩部灼熱感」があります。こうした複数の症状が同時に、また日によって次々と変化しながら現れることもあります。

脂っこいものを少量食べただけでこれらの症状が現れる、また、以前はおいしく食べていたものが食べられなくなることもあります。

そういうことが長く続くと、誰しも不安になって精神的なストレスもつのるでしょう。仕事や家事など、日常生活に支障が出かねません。

——先に紹介した読者の悩みは、機能性ディスペプシアの症状でしょうか。

三輪医師:検査で異常が見られないと言われた場合はその疑いが強いでしょう。注意点として、「たかが胃もたれ。市販薬で何とかなる」と思って受診が遅れる人もとても多いことが挙げられます。

市販薬を飲んで2週間程度までで治ればいいですが、長引く場合や症状が強い場合は、胃かいようや胃がん、また肝臓やすい臓、腎臓などのほかの臓器の病気が隠れている場合もあります。まずは診断が必要です。検査を受けたことがない人は、早めに消化器内科やかかりつけの内科を受診しましょう。胃の不調は消化器全般とほかの臓器やメンタルの状態を示すバロメーターと言えます。

聞き手によるまとめ

脂っこい食事やスイーツを食べ過ぎたときに、胃がもたれることは誰にでもあることでしょう。しかし、検査をしても異常はないけれども、胃が痛い、重いなどの症状が続く場合は機能性ディスペプシアという病気の可能性があるということです。まずはこの病気の特徴と症状を理解し、検査を受けていない場合はこれを機に受診したいものです。次回・第2回は、機能性ディスペプシアの原因について尋ねます。

(構成・取材・文 藤井 空/ユンブル

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