「高校3年のときにひどい頭痛があり、その後2年ぐらいで治まったのにまた25歳から定期的にズキンズキンとこめかみのあたりが痛みます」(28歳女性)、「月経直前になると、ズキーンと左側の頭の奥の方が痛んでとてもつらい。右が痛むときもあります」(33歳女性)という片頭痛で悩む人の声が届いています。
日本の頭痛持ちは4000万人、このうち片頭痛で悩む人は1000万人と推計され、片頭痛はとくに、10代後半~50歳ぐらいの女性に多いことがわかっています。そこで、脳神経外科専門医でいのうえクリニック(大阪府吹田市)の井上正純院長にその特徴やケアについて連載でお話しを聞いています。
これまでの記事の「第3回 頭の片側がズキンズキン…片頭痛の特徴と見分ける方法は」、「第4回 片頭痛が女性に多い理由は」、「第5回 ズキンズキンと痛む片頭痛のメカニズムは? 痛みの引き金は?」などは文末のリンク先を参照してください。
片頭痛の特効薬「トリプタン」
——冒頭の33歳女性は、「脳の病気かと思って病院でMRIを撮ると、異常なしでした。片頭痛と診断されて、処方された薬を飲むと緩和されました。早く病院へ行くべきでした」と話します。片頭痛に有効な薬があるのですね。
井上医師:片頭痛の治療の中心は、薬の処方です。急性期の専用の薬に「トリプタン」があります。片頭痛が起こったらすぐに飲むことで効果が発揮されやすいことがわかっています。片頭痛の特効薬といえます。トリプタンは日本では、商品名として「イミグラン」「ゾーミッグ」「マクサルト」「レルパックス」「アマージ」の5種類があり、「トリプタン系薬剤」と呼ばれています。
——外出先で急に片頭痛が起こったときでも飲みやすいタイプの薬があるそうですね。
井上医師:薬の形状として、錠剤のほか、水なしで口の中で溶ける速溶剤、即効性がある皮下注射薬、吐き気で飲み薬が使えない人には液体状の点鼻薬があります。お尋ねの、外出先でもすぐに飲めるタイプとは、水なしで飲める口腔(こうくう)内崩壊錠や速溶剤のことです。胃や鼻炎、乗り物酔いの薬などにも同じような形状があります。
皮下注射は、ふとももや腕に自分で注射ができるタイプで、即効性があるので頭痛がひどくなってからでも効果が期待できます。患者さんの生活習慣や環境、希望によって適したタイプを処方します。妊娠や授乳中であるかも考慮します。吐き気が強い場合には、制吐薬(吐き気止め)を併用します。
片頭痛の特効薬と鎮痛剤は違うもの
——その薬は、鎮痛剤とは違うのでしょうか。
井上医師:トリプタンは鎮痛剤(痛み止め)ではありません。片頭痛のメカニズムは前回にお話ししたように、顔や咬筋(こうきん。そしゃく筋のひとつで下あごの外側の筋肉)の運動をつかさどる「三叉(さんさ)神経」や、神経伝達物質の「セロトニン」に関わっています。トリプタンはそのメカニズムに作用し、血管収縮や抗炎症作用などで片頭痛の痛みを和らげます。
「トリプタンを飲むと痛みがとまるので、鎮痛剤だと思っていた」と話す患者さんは多いです。ただ、トリプタンは片頭痛を緩和する薬なので、片頭痛以外の頭痛に効くわけではありません。後の回で紹介する「群発頭痛」には有効であることが多いのですが、「緊張型頭痛」(第2回参照)や、後頭部の神経痛、三叉神経痛などほかの痛みには効きません。それに、鎮痛剤のように、腰痛や歯痛、月経痛にも効きません。
ただし、コントロールされていない高血圧、心筋梗塞(こうそく)、狭心症、脳梗塞などの病気がある場合は、病気が悪化する危険があるため使用することができません。片頭痛の痛みの程度が強くないときや、トリプタンが使用できないときにはロキソニンやイブプロフェンなどに代表される非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs・エヌセイズ)、アセトアミノフェンを使用します。片頭痛の重症度に応じて薬を検討します。
朗報…新しい特効薬「レイボー」が近々登場する
——トリプタンが使えない場合は、市販もされている頭痛薬しかないということですか。
井上医師:近日、日本で新しい製剤の「レイボー」が発売になる予定です。この薬は、狭心症などでトリプタンが使用できない場合や効果がない際に、トリプタンとは別の作用で片頭痛に有効な、血管収縮作用をもたないジタン系製剤です。
——それは朗報ですね。トリプタンは市販はされていないのですか。
井上医師:市販はされていません。医療機関で処方される薬のみです。片頭痛のために開発された薬で、先ほど話したように、飲むタイミングによって効果が変わるので、早めに飲むようにします。患者さんの中には、「病院を受診して初めてトリプタンの存在を知りました。おかげでものすごくらくになった」と言う人は多いです。
——先ほど「片頭痛が始まったらすぐに飲もう」とのことでしたが、薬の特徴と関係しますか。
井上医師:早めに飲むのが痛みをとめるポイントです。片頭痛発作が起ると、消化管の蠕動(ぜんどう)運動が低下して吐き気やおう吐が起こることが多くあります。消化管の蠕動運動が低下すると、飲んだ薬の吸収も悪くなって、効きが悪くなり、十分な効果が得られません。服用しても吐くこともあり、薬を飲んだとしても効果が薄くなります。
また、片頭痛は時間とともに、炎症や血管の拡張が治まってからも、脳の働きで痛みが残ることがあります。その点からも、早めの服用が勧められます。頭痛回数が多いときには、次の回で紹介する予防薬を検討します。予防薬は痛みの程度や持続時間を減らすことができます。また、予防薬を服用するとトリプタンが効きやすくなることもわかっています。
聞き手によるまとめ
片頭痛には、メカニズムに対応する処方薬のトリプタンがあり、その剤形のタイプも複数あって、水なしで飲めるものなど発作時の環境に応じた薬を選ぶことができるそうです。その作用は痛み止め薬とは違うこと、また早めに飲むのが痛みを抑えるコツだとのことです。トリプタンは市販されていないので、まずは医療機関を受診して相談し、処方薬を試みたいものです。
次回・第7回は、片頭痛を予防する薬についてお尋ねします。
(構成・取材・文 藤井 空/ユンブル 画像転載禁止)