このごろ階段を数段昇っただけで息切れがする、ランニング中に心臓がじわっと痛くなる、むくみもひどく、これはもしや心不全?…など、心臓に不安があるという読者の声が届いています。心不全とはどういう状態なのか、総合内科専門医、臨床内科専門医の村田秀穗医師に尋ねます。

村田秀穗医師
心臓の拍動の働きが低下して心不全に
——先の読者のお悩みのように、息切れ、動悸(どうき)、むくみなどが続く場合は、心臓の病気を疑うことがあるといいます。中でも、「心不全という病名はよく耳にするが、どういう状態なのか知らない」と話す人も多いです。
村田医師: 心不全は、病名の認知度が高いわりに、実態が知られていないことが懸念されています。そこで、一般の方に心不全についてわかりやすく伝えるために、2017年に日本循環器学会と日本心不全学会はその定義を、「心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって生命を縮める病気」としています。
心臓の病気が原因で、息切れやむくみが生じることが症状のポイントとなります。
心臓は一定のリズムで拍動をくり返しています。その拍動は、酸素を含んだきれいな血液を全身に送り出すポンプの役割をしているわけです。
この働きが何らかの原因で低下すると、心臓から送り出す血液が少なくなり、肺から戻ってくる血液も停滞して肺に血液が溜まる(うっ血)、さらには、血液からしみ出した水分が肺に溜まる場合(肺水腫)があります。これが心不全の特徴です。
——そうなると、息切れやむくみが現れるのですか。
村田医師: そうです。心臓から送り出す血液が少なくなると、心臓は拍動の回数を増やしてなんとか血液を送り出そうとします。すると拍動が速くなり、拍動数が増えてドキドキし、息切れや動悸が生じます。
この状態が進むと、坂道や階段、さらには平たんな道でも息切れや動悸がするようになり、脚や顔に顕著なむくみが現れます。
ただし、むくみは心臓以外にも、腎臓や肝臓の病気、また運動不足や睡眠不足、水分のとり過ぎ、太っているからなどが原因の場合も多く、心不全と診断するには心臓の各種の検査(後述)が必要です。
ひざの下あたりを指の腹で押してみて、1秒以上、戻らなければむくんでいる状態ですので、セルフチェックをしてみましょう。
——そのほかに、心不全が原因の場合に現れる症状はありますか。
村田医師: 症状が進むと、おなかが張る、体重増加、倦怠(けんたい)感、疲れやすい、低血圧、手足が冷たい、冷や汗、尿が減る、夜寝ると咳(せき)が出る、横になると息苦しい、などの症状も現れます。
高血圧症、糖尿病など心不全の危険域には膨大な人数が
——心不全の原因は何でしょうか。
村田医師: 主に、高血圧や、心臓の病気の狭心症、心筋梗塞、心筋症、心臓弁膜症などが原因です。
高血圧の場合、血管の壁には高い圧力がかかっているので心臓の拍動に影響し、心臓から送り出す血液も心臓に入る血液も十分ではなくなるからです。
——息切れやむくみがひどくなる前に、早期に気づく方法はありますか。
村田医師: 心不全のリスクはステージA~Dの4段階に分類されます。最初の段階(ステージA)は、「心臓の病気はないけれど、危険因子として、高血圧症、糖尿病、脂質異常症、動脈硬化などがある状態」をいいます。私は50歳から高血圧の薬を服用しているので、20年余りもステージAにいるわけです。
日本では、高血圧は約4,300万人、糖尿病は約2,000万人と推計されるので、そのほかの病気も含めて、膨大な人数の患者さんがこのステージAにいると考えられています。
——では、生活習慣病にかからないようにすることが、心不全の予防になるのですね。
村田医師: そのとおりです。ステージAではない場合はできるだけステージAにならないように、また、私のようにステージAの場合は、心臓に病変が現れるステージBに進まないように予防が必要です。
さらに進むと心不全の状態のステージCとなり、ステージDでは治療が難しくなります。
予防法として、具体的には、「血圧」「血糖」「脂質」の管理です。ステージA以降の場合は医療機関を受診して治療しながら、食事や睡眠、運動など生活習慣を整えていきましょう。
心臓の状態は加齢とともに進行するので、ステージが次の状態に進まないように、日ごろの健康管理こそが重要になるわけです。
——心不全かどうかの検査はどうするのでしょうか。
村田医師: 酸素飽和度、胸のX線検査、CT検査、心電図検査、心臓超音波検査(心エコー)、血液検査などを行います。
心拍数は1分間に50~100回
——心拍数は自分で測れますし、いまや、スマホやスマートウオッチで常時の計測が可能ですね。
村田医師: ステージAの因子がある人や、心臓が気になる人は、自分の日常の心拍数の変動を知っておくことも重要です。
一定の時間内に心臓がドキンドキンと拍動する回数を「心拍数」と言い、一般に「1分間」の数を測ります。
心臓は1分間に約70回、1日にしたら約10万回の拍動をくり返していますが、安静時や緊張時、睡眠時、運動時、トイレや風呂、体調などでこの数は常に大きく変化しています。多くの人の場合、1分間に50~100回です。この数を覚えておいてください。
そして、100回より多い場合は脈が速いという意味の「頻脈」、50回より少ない場合は脈が遅いという意味の「徐脈(じょみゃく)」と言います。
——心拍数の測りかたを教えてください。
村田医師: 心拍数は、手首や首筋で感じる「脈拍数」とほぼ同じです。そのため、自分の手首で脈拍を測ってみましょう。まず、おや指の下部で手首と交差するあたりの、脈拍を感じる部分を見つけてください。次に、反対側の手のひとさし指・なか指・くすり指の3本を揃えたうえで、くすり指の腹は脈泊を感じる部分にそっと当てます。
そこで、スマホのタイマーなどを使用し、1分間の拍動数を数えましょう。15秒の回数を4倍する、20秒の回数を3倍する、30秒を2倍するのでもかまいません。
そして、心拍数のほかに留意するべきは、「脈が規則正しく振れているか」ということです。脈が乱れていたり、たまに飛んでいたりすることはないですか。
先ほど話した頻脈や徐脈も合わせて、そうした状態が続く場合や、心臓のことで気になる症状があれば、循環器内科か、かかりつけの内科に早めに受診してください。
また、心臓の状態にとって血圧の管理はとても重要です。血圧計は市販されていて便利に使えるので、体重や体脂肪を測るのと同じ感覚で、計測の習慣をつけましょう。
聞き手によるまとめ
1日に10万回も動いているという自分の心臓に改めて感謝しつつ、その働きが低下するという心不全の主な症状は、息切れとむくみだということ、また、生活習慣病を発症した場合、すでに心不全のステージAになるということも理解しました。自分で脈拍や血圧を測定しながら、生活習慣を見直して自己体調管理を継続していきたいものです。
(構成・文 品川 緑 /ユンブル)