“予約の取れない伝説の家政婦”として知られるタサン志麻さんの新刊『伝説の家政婦 沸騰ワード10レシピ3』(ワニブックス)が2月17日に発売されました。日本テレビ系で放送中のバラエティ番組「沸騰ワード10」の公式レシピブック第3弾で、志麻さんが芸能人にふるまった料理のレシピが紹介されています。
素材の味を生かしたシンプルなフランスの家庭料理に、芸能人をはじめ多くの人から支持を集めている志麻さん。新刊の発売を記念して、志麻さんにお話を伺いました。前後編。
「無理をしない」料理で大事にしていること
——フレンチと聞くと一見、敷居が高そうに思えますが、実際に志麻さんのレシピで作ってみたら、おいしいのはもちろん「こんなに簡単にできるの?」と驚きました。志麻さんが料理をする上で大事にしていることを教えてください。
タサン志麻(以下、志麻):一番は無理をしないことです。仕事で料理をするときはもちろん精いっぱい力を尽くしますが、家で作るときは無理をしないのが一番だと思っています。仕事柄、よく「毎日すごいごちそうを食べているのでは?」と言われるのですが、そんなこと全然ないです(笑)。
体調が悪いときや時間がないときに無理して頑張って作ると余計に疲れてしまうし、イライラしながら作って子供に「早く食べなさい!」と言うのも嫌だし……。時間がないときはお総菜を買ったり、夫のロマンに頼んだりしています。自分や家族が楽しく食べるというのが一番の目標なので。
どうしても作らなければいけない場合は、オーブンに突っ込んでおくだけの料理など簡単なものを作ります。うちでよくテーブルに並ぶのは、前菜とメインディッシュの2品。フランス人からしたらそれが普通なんですよね。
食事も「今日はフレンチだから前菜とメインディッシュだけでいいや」とか「今日は和食だから一汁三菜にしよう」とかもっと自由でいいと思うんです。周りを見渡すと「ちゃんと料理をしなければ」と思ってそれに振り回されている人が多いのかなと思います。
——ちゃんとしていないことに罪悪感を抱いてしまっている人は多い気がします。
志麻:料理を仕事にしている私でさえ、堂々と「宅配サービスを頼んでいます」と大きい声で言えます(笑)。子供たちにとっても好きなものを選べるのはうれしいことだし、外食やテイクアウトのメニューでおいしいものを食べて「どうやったらこういう味になるんだろう?」と考えると自分の料理の勉強になります。あまり口に合わなかった場合でも「どうしておいしくないと感じるんだろう?」と考えて、「ちょっと脂っこいな」とか「野菜を細かく切りすぎているな」と分析すると、絶対に何かしら発見があるんです。
「時短料理」の本は出さない理由
——志麻さんにそんなふうに言われると気持ちがすごく楽になります。
志麻:ちょっと前に、“手抜き料理”や“時短料理”がすごくはやったことがあって、私もよく「時短料理の本を出しませんか?」と言われる時期があったんです。依頼されるたびに私は「私の料理は時短料理ではありません」とお受けしませんでした。
——それはなぜですか?
志麻:フランス料理は基本的に時短料理なんです。鍋に入れて煮るだけとかオーブンに入れて焼くだけとかの料理ばかりで、日本料理に比べたら全然手がかかっていないんです。でも、決してそれは“時短料理”ではないなと。“時短料理”と聞くと、どこか寂しい感じがするけれど、フレンチを作っていると思うと「すごいでしょ?」とテンションが上がりませんか?
——料理に使う白ワインを冷蔵庫に常備しているだけでテンション上がります。
志麻:ですよね(笑)。そういう言葉の使い方も気になってしまって、やっぱり私はフレンチをやってきたので、フレンチの一面を知ってほしいし、自分の生活にうまく取り入れればいいと思うんですよね。人それぞれ忙しさや時間の使い方があるし、子供が小さいかある程度大きいかでも違ってくるので、もっともっと自由に、食べる時間が楽しくなるようにというのを料理ではなくてテーブルのほうに意識を持っていきたいと思います。
料理の時間よりも食べる時間を大事にしたい
——確かに料理をするほうばかりに意識がいって、テーブルのほうには意識がいっていなかった気がします。志麻さんもお総菜を買うんですね。
志麻:よく買っています。 近所のお総菜屋さんに行くと「また来たの?」みたいな感じで(笑)。それを1時間くらいかけて食べます。例えば1時間半の食事のための時間があったら1時間で食事を作って30分くらいでぱぱっと食べる人が多いかもしれませんが、お総菜を買ってくれば1時間半食事にかけられる。30分で作って1時間かけて食べてもいいですよね。どちらを選ぶかと言われたら私は長くテーブルに座るほうを選びたいなって。
——そう思ったきっかけはやっぱりフランス料理ですか?
志麻:そうですね。フレンチに出会う前は、ただ食べるために食べていたような気がします。でもフランス人に出会ってから、家族や友人など親しい人と話すために食べているんだと気が付きました。食事の時間は家族と話す時間。だから、何のために食べるのかというのをみんながもっと考えられるようになればいいなと思っています。きっとみんなすごく忙しいし、仕事に追われると「ただ食べる」みたいになりがちなんですけれど、やっぱり食べる時間だけは大事にしたい。毎日すごいものを食べているわけではないし、手も抜きますが、「楽しく食べている」というのは自信を持って言えるのかなと思います。
(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子)