胃が重い、痛い、苦しいけれど、内視鏡検査をしても異常がないとき、「機能性ディスペプシア（FD：Functional Dyspepsia）」という病気が疑われます。かつては慢性胃炎、神経性胃炎などと呼ばれていましたが、昔もいまもこの症状に悩む人は後を絶たないと言われます。

そこで、消化器病指導医・専門医で、著書に『胃は歳をとらない』（集英社新書）がある三輪洋人（みわ・ひろと）医師に連載で、特徴、原因、治療やセルフケアの方法を聞いています。（これまでの記事のリンク先は文末参照）。

今回・第6回は、「機能性ディスペプシアのセルフケアのひとつに、『胃の不調日誌をつける方法が有用』であることがわかっている」（三輪医師）ことについて尋ねました。

胃の不調は自律神経の乱れのサイン

——第4回・第5回の記事で、食事と機能性ディスペプシアは密接な関係にあることと、その理由、またセルフケアについて紹介しました。胃の不調には、食事以外の生活習慣も強く影響するそうですね。

三輪医師： 医学的な研究や調査で、機能性ディスペプシアの患者さんは、健康な人と比べて、「睡眠が充実していない」「運動習慣がない」「日常的にストレスがある」「ストレスを感じやすいと自覚している」といった割合が高いことがわかっています。

そうした生活は、食事習慣を見直す方法として話したように（第5回参照）、睡眠、運動とともに、生活のリズムを規則正しくすることで自律神経のバランスが整い、胃や腸など消化器系の消化吸収、排泄の機能が活発になります。

見かたを変えると、「検査では異変がなかったけれど胃が重苦しいのは自律神経のバランスが乱れていることや疲れていることのサイン」だと考えられるのです。心身のケアが必要だと言えます。

胃の不調日誌をつけると原因が見えてくる

——胃の不調とひとことでいっても、きりきりと痛む、押されるように痛む、もたれる、重苦しい、吐き気がする、食欲がない、少し食べるとすぐにおなかがいっぱいになるなどさまざまにあります。

三輪医師： そうですね、患者さんによって症状は異なります。それに、次々と違う不調に見舞われる人もいます。検査では異常がないのに、なぜだろう、どうして治らないのだろうと不安にもなるでしょう。

自分でも気づいていない生活習慣に問題があるかもしれません。その点を探るために、胃の不調日誌をつけることを勧めています。

ノートや手帳、スマホのカレンダーなどを利用して、つらい症状があったときに、「いつ・どこで・どのように・症状の強さ・食事内容・睡眠・運動・メンタル・ストレスの状態・原因におもいあたること」などを記します。

とくに食事中や食後に症状が出ることが多いので、食べたメニューやその食事にかけた時間、環境、よく噛（か）んで食べたかなどがポイントになります。

何度か記録すると、不調の原因と思われることが見えてきます。するとその原因を避けるようになり、症状が改善するケースがあることがわかっています。

——記録をして「不調の原因の見える化」をはかるということですね。自分の症状を見つめることができそうです。

三輪医師： できるだけ冷静に自分の症状を見つめる、受け入れることは不調の改善にとってとても重要です。自ら生活習慣を見直して、コントロールすることができるようになると自信にもつながります。これを機に、適切な食生活、十分な睡眠や休息、適度な量の運動をし、ストレスを避ける生活を実践しましょう。

逆流性食道炎、うつ病、睡眠障害の併発も

——機能性ディスペプシアと逆流性食道炎や睡眠障害を併発する人も多いと聞きます。

三輪医師： 機能性ディスペプシアの患者さんの25～50％に胃食道逆流症（逆流性食道炎・非びらん性胃食道逆流症）、過敏性腸症候群（下痢や便秘を伴う腹痛や腹部の膨張感など）、慢性便秘症などが合併しているという報告があります。また、消化器にくっついて消化液を分泌する胆のうやすい臓の病気が隠れている場合もあります。

さらに、不安感や憂うつ感が強い、また睡眠障害が現れる人もいます。

消化器内科やかかりつけ医で問診を受ける際に、こうした症状がある場合は必ず医師に伝えてください。

聞き手によるまとめ

原因不明の胃のつらい症状が続くとき、不調日誌をつけると原因を探ることができてケアにつながること、また日ごろの習慣の改善でケアが可能だということです。これを機に、食事、睡眠、運動、休息を規則正しいリズムで行い、ストレスを避けるセルフケアを実践したいものです。

（構成・取材・文　藤井 空／ユンブル）